126:前哨戦開幕――!
俺の保有地『聖上都市ヘルヘイム』内にある立派なお城。
かつては教皇グレゴリオンとかいうロボットみたいな名前のオッサンが所有していたその城は、今や『魔王』サイドの作戦会議場と化していた。
何人かの代表プレイヤーと共に執務室に集まり、みんなでウ~ンと首を捻らせる。
「プレイヤー比8:2かー……ものすごい戦力差になったものだな。なぁザンソード、一体どうしてそんなことになったんだ?」
「うぅむ。先日にブレスキ運営が行った演出イベントにより、完全に我ら『魔王』サイドが悪役となってしまったことが大きな要因の一つだろう。
まぁ、もちろんこれはネットゲームだ。本気で我らを悪人だと思っているヤツはいないだろうが、『イベントの敵役』と見做されてしまったんだろうよ」
ああ、なるほどなぁ……。
そして運営が『イベントモンスター』をお出ししてきたとなれば、“みんなで挑もうぜッ!”となるのがネットゲーマーの性か。
「そこは仕方ないわな。元々俺に挑みたいってヤツは多かったし、俺としてもウェルカムだったし。
だけどこんなに数の差が開くもんかよ? 悪そうなのが好きだから悪側に付くってヤツもいるだろうし、俺も先日は宣伝パレードをやったり、『魔王』サイドに付いてくれた者には惜しみなくアイテムを提供してるぜ?」
こちとらやることはやっているさ。
“民衆を動かすにはパンとサーカス”というどっかの格言にはきっちり従っているし、モンスターまみれな領地を活かした『モンスター触り放題権』も地味に結構ウケている。
「差がつくにしても、せいぜい6:4程度で収まると思ってたんだが……」
そんな俺の呟きに、ザンソードが「それなのだが……」となぜか小さめな声で答えた。
「話が変わるが拙者、実はバーチャルアイドルが好きでな……」
「って話変わりすぎだろっ!? いきなり何言ってるんだお前は!」
「えぇいッいいから聞けッ! この事態に関係のある話だ!
実は現在、バーチャルアイドル業界のトップに立つ存在として、『アカヒメ』なる女子がいてだな。あぁちなみに彼女は元祖バーチャルアイドルの呼び声高き『アオヒメ』の一番弟子とされ、不覚にも拙者、アオヒメさま卒業ライブの終わりにアカヒメたんと抱き合う光景にはあまりの尊さに一晩中涙を流して会社に寝坊して商談をすっぽかしてクビなって引きこもって今に至りだな――」
「ってお前の人生バーチャルアイドルでグチャグチャじゃねえか!?
それはいい……いやよくないとして、ともかく話を進めてくれよ。そのバーチャルアイドルが今回の件にどうかかわってるんだ?」
「うむ」
ぽつぽつと語り始めるザンソード。
彼曰く、そのアカヒメさんとやらが突如として、『話題のブレスキに緊急参戦です! みんなで「魔王ユーリ」に挑みましょうっ!☆』という動画をアップしたのだ。
それに沸き立つアカヒメファンたち。彼女には百万人規模の動画チャンネル登録者がおり、五分五分だったプレイヤー差が一気に傾くことになったとか。
――そんな話に俺はしばらく呆れてしまう。
「はぁ……話題のバーチャルアイドルがいきなりそんな話するかよ。これ絶対にペンドラゴンの策略だろ……」
「うむむ、拙者も同意見でござるな。実際、彼女の師匠であるアオヒメさまは『ダークネスソウル・オンライン』のプレイヤーだったそうな。
またアカヒメたん自身も、『レッドフード』という名で同ゲームをやっていたとか。そして二人はゲーム内で出会い、甘美なる姉妹の契りを結んでだな――ッ!」
「脱線すんなっつの! ともかく話はわかった。ペンドラゴンのヤツといえば、その『ダークネスソウル・オンライン』のトッププレイヤーだそうだからな。繋がりは十分ってわけか……はぁ」
シンプルにして最凶の一手だな。
昔馴染みを頼った――ってだけなら可愛いものだが、その昔馴染みがトップアイドルとかマジで人脈チートかよふざけんなよ。そらプレイヤー比もガクンガクン傾くわ。
思わず溜め息を吐く俺に、ザンソードは難しい顔で続ける。
「ネットゲーマーとは現金なものだ。大きな勢力差を目の前にすると、『有利なほうに付こう』と考えてしまう者が多い。それが今回の8:2という比率を生み出す結果につながったのだろう」
「なるほどぉ……」
そりゃ、勝ったサイドのプレイヤーたちはアイテムやらを貰えるって話だからな。
勝ち馬に乗ろうとするのは人として当然だ。オーケー、事情はわかったぜ。
「……詰んだな。あと四日しかない以上、このプレイヤー差は覆らないわ。そっちについては諦めよう」
「ぬぬぬっ、ユーリよ!? 戦いを投げだすというのか!?」
俺の言葉に眉根をひそめるザンソード。他の会議参加者たちも、驚きの目でこちらを見てくる。
――だがしかし、だ。
「勘違いするなよ、お前たち。俺が諦めたのはプレイヤーの数についてだけだ。少なくとも質については、決して負けてないんじゃないか?」
「ぬっ……質か……! それはまぁ、たしかに……!」
俺の言葉に、不安げだったみんなの表情がわずかに和らぐ。
……そう。俺たちは負けてはいないんだよ。
「考えてもみろ。そのアカヒメたんに釣られて集まってきた連中は、今からゲームを始めたとしてもわずか四日しか鍛えられないんだ。
そしてネトゲーは残酷だ。圧倒的なレベル差があれば、数の利なんて吹き飛ぶんだよ」
そう。もし現実で百対一なんて戦いが起きたら、そりゃもうリンチだろ。寡兵側に勝てる道理なんてない。
だがネットゲームはわけが違う。その百人がレベル1で、対する一人がレベル100なら、大虐殺の始まりだ。正面からの殴り合いならまず負けるわけがない。
「それに加えて、数が増えるということは物資が行き渡りづらくなるってことだ。急にどっさり増えた新参プレイヤーたち全員に、装備やアイテムを配れるとは思えない。
対してこちらは……つーか俺はアイテム量と金の量なら腐るほどあるからな。いい装備を作ってくれる『生産職同盟』や面倒見のいい『初心者部隊』の活躍もある以上、敵よりも新参プレイヤーを強く育てられるはずだ」
『おぉぉおぉぉお……!』
沈み込んでいた執務室の雰囲気が明るくなり始める。
戦う前から折れそうになっていたみんなの心が、どうにか持ち直されていくのを感じた。
……希望的観測の多い言葉ばかりを吐いたが、こうして仲間を励ますのも俺の仕事だからな。
この調子で決戦日までに出来るだけ戦力差を埋めてくれることを願おう。
――かくしてみんなが希望を取り戻しかけていた時だった。
ザンソードの目の前にメッセージウィンドウが現れるや、それを見た彼の顔が真っ赤になる。
そして、「おのれ奴らめッ!」と吠え叫ぶのだった――!
「ってどうしたザンソード!?」
「どうしたではない! 現在、情報収集のためにあちこちを回っているクルッテルオから連絡が入った。
魔王側の高レベルプレイヤーたちが、各地で次々に襲われているそうでな……」
「っ、また刺客プレイヤーか!? 俺がボコり始めてからは大人しくなってたのに!」
「いいや、今回はヤツらだけではない。――『女神』サイドの高レベルプレイヤーたちが、何千人と総出で同時にこちらの仲間たちを襲い始めたのだッ!」
「なっ――!?」
ここで打たれる、ペンドラゴンたちのさらなる一手。
それはこちらの泣きっ面へと右ストレートをブチ込むような、悪役顔負けの『集団プレイヤーキル』だった――!
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