109:ユゴスの扉は開かれり
「――はぁーやだやだ。なんだかどれもダメっぽいわねぇ……」
だらーっとその場にへたれ込むピンコ。
あれから数分後。山ほどの『古代』アイテムを扉の前に出したりこすりつけたりした彼だが、まったく扉は開かなかった。
どうやら『古代』アイテムシリーズを差し出せば開くんじゃないかというピンコの考察は、見事に外れてしまったらしい。
「あちこち回って掻き集めてきたのにショックだわぁ。もしかして数が足りないんじゃないかと思って、ユーリちゃんから『超古代文明の残骸機械』をいくつも借りて出したりもしたのに。ていうかなんでそんな持ってるのよ?」
「幸運値極振りでバトルばっかやってるとレアドロップなんてすぐ手に入るんだよ。で、次の手は?」
「特になーし……」
クソ低音ボイスでうなだれるピンコ。かなり本気で落ち込んでいるようだ。
それじゃあ今度は俺が色々試してみますか。――つーか『古代』シリーズがダメだったとわかった時点でほぼ正解はわかった。
……情報屋のこいつなら自分から言いだしそうなものだが、まぁいい。
「元気出せよピンコ。お前が頑張ってくれたおかげで目星はついた」
「えっ、マジで!?」
驚くピンコに頷きながら、スキル【万物の王】を発動させる。
ギルドの倉庫と空間を繋げ、アイテムを自由に出し入れできるようになるスキルだ。
俺はぐぱぁと開いた次元の裂け目に手を突っ込み、ある物を引きずり出した。
「うへぇ、ビクンビクン震えてやがる。ってうわッ、絡みついてきた!? 放せオラーッ!」
「えぇ……ユーリちゃん、何なのそれ?」
「あぁ、『クトゥルフ・レプリカ』ってモンスターの触手の一部だよ」
そう。俺が取り出したのは、クーちゃんをぶっ倒したときに手に入れた『禁断邪龍の触手片』というアイテムだ。
レプリカだろうがクトゥルフと名付けられたモンスターの血肉。これで無反応ってことはたぶんないだろう。
これだけゲーム的に重要そうな扉となれば、隠しボスのアイテムくらいは要求してきても不思議じゃないしな。
「そんなものがッ――ユーリちゃん、扉の前に差し出してみて頂戴ッ!」
「……ああ、いいぜ」
絡みついた腕ごと突き出してみる。
すると、これまで青白い光を放っていた扉が赤く輝き、ドドドドドドッと震え始めたのだ……!
さらには目の前に赤黒いメッセージウィンドウが現れて……。
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・『細胞適合率――97%。基準値クリア。
今は亡き魔王軍が大幹部“クトゥルフ”の縁者と判定し、そして何よりそう願う。
魂魄名:ユーリ。魔鋼の力を此処に授けん。異端なるユゴスの扉は、汝にこそ開かれり――!』
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そして、未知への扉は開錠された。
地ならしを起こしながら左右に分かれ……その奥に広がる、超々巨大な古びた機械製造場を露わにしたのだ。
むろん、ただの工場という雰囲気ではない。あちらこちらに光のラインが走り、複雑な魔法陣が各所に刻まれていた。
「はぇー……こりゃあすごいな……! メッセージ曰く、『魔鋼』の技術だっけか。そいつをここで身に付けられるってか!?」
未知の展開に目を輝かせながら、一歩、また一歩と、ファクトリーの中に踏み込んでいく。
「すげーっ、ワクワクするなー!」
そうして何歩か歩んだ……その時。
「――ええ、これであの人の思惑通りねぇッ!」
無防備な俺の背中に向かって、大剣を手にしたピンコが突っ込んできたのだった――!
まぁ、
「知ってたけどな」
「なっ――!?」
わかっていたならカウンターは容易い。
大剣によって刺される直前、ヤツよりも一瞬早く後ろ回し蹴りを繰り出した!
「ぐぎぃッ!?」
ピンコの顔面にめり込む足先。さらにはそこで衝撃大増幅スキル【魔王の波動】が発動し、ヤツを壁際まで吹き飛ばす――ッ!
「がはっ……ッ!? っ、ま、まさか、わざと隙を見せた感じぃ……!?」
「まぁな。やるならここらで殺りにくるだろうと予測してたからな」
別に大人しくしてるんなら良かったけどな。
こいつの話は本当に面白かったから、まったく残念な限りだぜ。殺す。
「嘘でしょ……一体いつから、アタシのことを疑っていたわけ……?」
「最初からだよ。お前と出会い、手を握ったあの瞬間からな」
「はぁ!?」
そう――ピンコのことを刺客プレイヤーと間違えて蹴っちまった直後のことだ。
俺は『刺客プレイヤーじゃないわよーッ!』と喚き泣く彼の手を握り、引っ張り起こした。
あの時にとあるアーツを発動させてもらってな。
「人道呪法『欲望の御手』。発声せずとも発動できる、“触れた相手の名前と状態”がわかる特殊アーツがあるんだよ。そいつを使った結果――お前の名前が『マーリン』とわかってな」
「っ……!?」
驚愕に目を見開くピンコ……もといマーリン。
神話やらにそこまで詳しくない俺でも知っているさ。マーリンっていうのは、アーサー王伝説における『アーサー・ペンドラゴン』の仲間だってことくらいな。
「あらあら……人のプライベートな情報を覗くなんてユーリちゃん趣味わる~い……!」
「悪いな。別に変な意味はなくて、お前が本当に一般のプレイヤーか調べるためだったんだ。ほら、刺客プレイヤーってのは『修羅道のキリカ』みたいに二つ名付きの特殊な名前をしているだろう?」
そこを利用して判別しようとしたわけだ。
他にも『刺客プレイヤーと出会ったらメッセージが表示される』って判定方法もあるが、あれは信用ならないからな。
セーフティエリアである街中でキリカと会った時のように、条件によっては流れないこともある。
もしかしたら刺客プレイヤーが手動で流してるかもだしな(それはちょっとシュールだが)。
「あぁそれと。マーリンって名前を知った段階では、少し気になるくらいだったぜ? 神話や伝承から名前を取るプレイヤーは多いからな。
だけど……お前がわざわざピンコなんて偽名を使った瞬間、懸念は一気に疑念に変わった。無意味に名を隠すヤツなんていねーからなぁ?」
「うっ……!?」
俺の言葉に呻くマーリン。
やがてヤツは、溜め息を吐きながら「完敗だわぁ……」とうなだれた。
「はぁ~~ぁ。ペンドラゴンちゃんとの繋がりを見せないよう、あえてマーリンの名前を隠したのがアダになったわぁ……。
ユーリちゃん、アナタ物知らずなくせにめちゃくちゃ抜かりないわねぇ。というか穴を見つけるのが上手い感じ? 少年兵は少年兵でも、歴戦の少年兵ってことなのねぇ……」
「少年兵じゃねーよ。まぁ他にも色々気になるところはあったりしたが、とにかくお前は敵ってことでいいんだよなぁ? 俺を騙した狙いはなんだ?」
「あら、気になる……? だったら――ッ」
大剣を杖に立ち上がるマーリン。
その瞬間、ヤツの足元に紫電の魔法陣が現れた――!
「ならば、勝負よユーリちゃん……! 騙した理由が知りたいんなら、アタシをぶっ倒して聞き出すことねぇッ!」
「ハッ、上等じゃねえかこの野郎ッ!」
こちらもまた複数の武装を周囲に展開させる――!
かくして新たなエリアを前に、裏切り者との決闘が幕を開けたのだった……!
マーリン(偽名は……ピンクだからピンコでいきましょう!)
ユーリ(ネーミングセンスゼロかよこいつ……)
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