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107:到達ッ、新境地への扉!




「――よーしっ、走れ走れウル太郎ッ!」


「きゃぁっ、速いわねーっ!?」


 情報屋ギルドのマスター、ピンコと出会った後のこと。

 俺は彼をウル太郎に相乗りさせて、黒い森を爆走していた。

 このピンクイケメン眼鏡とはちょっとした契約を結んだのだ。


「それじゃあピンコ。契約通り、調査の護衛を務める代わりに役立つウラ情報を教えてくれよな!」 


「了解っ! じゃあさっそくだけど、周囲の木陰に向かってテキトーに攻撃してくれる?」


 ほほう?


 言われた通り、ウル太郎に乗った状態で矢を一発撃ってみる。

 すると『ギャンッ!?』という鳴き声と共に、何匹かの黒い狼が飛び上がるのが見えた……!


「あいつらは……!?」


「ブラックハウンドっていう、この森固有のモンスターね。黒い木々の中に潜んでプレイヤーを襲うの。

 ――じゃあなんで今まで出てこなかったかというと、全てはウル太郎ちゃんのおかげねっ♡」


 よしよしとウル太郎を撫でるピンコ。

 ……彼の手が触れた瞬間、ウル太郎の口から『キャゥ~……!』とすっげー嫌そうな声が漏れたのは気のせいだろうか。


「ボスモンスターを連れ歩いていると、それと同種の下位モンスターから襲われにくくなるってわけ。

 レベル差がありすぎると経験値が手に入らなくなるシステムがあるでしょう? そんな相手を無視したい時や、ダンジョンのボスだけを速攻で狩りたい時なんかに便利よんっ!」


「なるほどなぁ~、そりゃあ知ってて損はない隠し情報だな! 他にはなにかあったり?」


「あとはそうねえ。モンスターって基本的にはレベルアップで一度しか進化しないんだけど、中には特別なアイテムを使うことで二段進化する子もいるって噂も……!」


「マジでっ!?」


 ――こうして俺はピンコから色々な情報を聞きながら、彼が目的としている場所に向かったのだった。



 ◆ ◇ ◆



「――ついたついた! この洞窟の奥よんっ!」


「はぇ~……!」


 俺とピンコがたどり着いたのは、禍々しい紫水晶があちこちに生えた鍾乳洞だった。

 本当にビックリしたものだ。ピンコに手を引かれて朽ちた大木のうろに飛び込んだら、こんなところに飛び出しちまうもんだから。


「いわゆる隠しダンジョンってやつね。前に語った通り、この世界にはモンスターたちの製造炉であるダンジョンが無数にあるの。でもこの『ミュルクの森』の周辺には全然それが見当たらなくて、不思議に思っていたのよ」


「なるほど。ブラックハウンドみたいなモンスターたちはいるんだから、ダンジョンもどっかにあるはずだよな」


「そうそうっ! それであちこち駆けまわっていたら、モンスターをチョロチョロと生み出す不思議な木の虚を見つけたってワケ」


 へーーーーっ。“ダンジョンはモンスターの製造炉”って設定を知ってるだけでも、こんな風に隠しダンジョンを見つけるきっかけになるわけか。

 誰も手つかずの狩場を発見出来たらレベリングに役立つし、貴重なアイテムも手に入るかもだしな。情報の力ってすごいってばよ。


「あぁ、それとココだとモンスターが生まれるシーンがよくわかるわよ。周囲の紫水晶を見てみなさいな」


 ピンコに言われて注目してみる。

 すると、ドクンッ――という生々しい音と共に、あちこちの紫水晶が割れて粘液まみれのブラックハウンドたちが産まれてくるのが見えた……!


「うわぁ……なんか気持ち悪いな。このダンジョン内にある結晶全部が、モンスターどもの卵ってわけか」


「そうそう。まさにダンジョンは化け物たちのママンなわけ。ちなみに紫結晶をいくら壊したところで、まーた勝手に壁から生えてくるからやるだけムダね」


「なるほどなるほど~……」


 キモいけどレアな光景が見れたなー。

 そんなことを思いながら、『ウルフキング』を再び召喚する。

 それだけでこちらを睨んでいた赤ちゃんハウンドどもが『ギャゥーッ!?』と岩陰に散っていった。かわいいなオイ。


「さっそくモンスター避けのテクを使ってるわね~ユーリちゃん! ボスモンスターを何体も手懐けたプレイヤーなんて他にいないから、アナタだけのアドバンテージになるはずよんっ!」


「おうよっ、マジで教えてくれてありがとうなピンコ!」


「いえいえ。それじゃあ奥までの道をお散歩しながら、少しアタシの考察を聞いてもらいましょうか」


 飄々と歩きながらピンッと指を立てるピンコ。まるで先生みたいな感じだ。


「どうやらこのブレスキ世界は、『北欧神話』と『クトゥルフ神話』が下地になっているようなの。どちらも名前くらいは聞いたことあるでしょう?」


「まあな。どっちもなんか神様がバトルするやつだろ?」


「……ユーリちゃんらしい解釈の仕方ね。まぁ大体そうだけど。

 それでこのブレスキ世界の話に戻るけど、『地母神ユミル』によって星が作られたという設定から、元々は北欧神話の世界だったみたい。でもそこに、クトゥルフ神話の大ボスである『魔王アザトース』が攻め込んできて色々グッチャグチャになっちゃったって感じね」


 ふむふむ……そういえば俺、『クトゥルフ・レプリカ』っていうモロにクトゥルフな名前のクトゥルフを飼ってたわ。

 最近はグリムに撫でられてウーウー喜ぶだけのペットになってたから、やばい存在だってことを忘れてたわ。


「話を続けるわよ。大昔に襲来した『魔王アザトース』だけど、アタシの調べだと彼はものすごい技術を持っていたみたいよ。ごくまれにだけど、『古代超文明の~』って名前が付いた錆びだらけのアイテムが出てくることがあるのよ。ユーリちゃんは知らない?」


「あー、そういえばそんなのあったな! たしか、『古代超文明の残骸機械』だったか……!」


 俺のキメラモンスターの一体、『キメラティック・マシンゴブリン』の素材に使ってるアイテムだ。

 機械系アイテムの中でもレア度が高かったから利用してたが、アレって魔王のお古だったのかよ。


「あははっ、流石はユーリちゃん。『古代超文明』シリーズの中でもトップレアの代物ね!」


「おうよ、キメラモンスター作りに使い潰してるぜ!」

 

「いや使い潰さないでよ……。ここから先に進むためには、魔王の遺した超文明の遺物が必要になるかもなんだから」


「ここから先?」


 ピンコの言葉に首を捻る。

 そんな俺に「まぁ見ればわかるわ」と彼は言うので、黙ってトコトコついていくこと数分。

 紫水晶に照らされたダンジョンの奥地で――俺はとんでもないモノを見てしまった。


「……最初に見た時はちょっと引いちゃったわよ。ねぇユーリちゃん、コレどう思う?」


「どうって……えぇ?」


 あまりにも場違いすぎるだろうと俺も引いてしまう……。

 なぜならそこにあったのは、今までのファンタジーな世界観とはまっっっっったく噛み合わない、光のラインが走る超未来的な巨大扉だったのだから……!


 




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