表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
ふたりの勇者
73/315

16

 クロちゃんを抱えたまま部屋から飛び出す。

 目の前にある角を曲がると、さらに石廊下が続いていた。


 廊下の途中で下り階段の横道があって、そこは他の所よりも輝石がいっぱい埋め込まれていて明るかった。

 いかにも何かありそうな雰囲気いっぱいで好奇心をくすぐられる。


 しかし続く悲鳴が廊下の奥のほうから聞こえてきたので振り払って奥へと進む。

 もうひとつ角を曲がり、部屋に突入する。


 そこは私たちが落ちてきた部屋と対称のような広さで、天井もはるか上まで伸びていた。壁には例の数字が彫られている。

 しかし出入り口付近はベランダみたいになっていて、部屋の奥は一段低くなっていた。


 クロちゃんを降ろし、石の手すりから乗り出して下を覗き込む。


 下のフロアでは隅っこに追い詰められたイヴちゃんたちが、真っ黒なゼリーみたいなの相手に奮闘していた。


「なにあれ!?」


「ブラックスライム」


 隣で手すりに腹ばい状態になっているクロちゃんが教えてくれる。


「スライム!?」


 聞いたことがある。陽のあたらないダンジョンなどに住む粘液状のモンスターで、冒険者にまとわりついて攻撃してくるそうだ。液状なので剣などの物理攻撃が効きにくいらしい。


「くっ、なんなのよ、コイツらっ!!」


 ミントちゃんとシロちゃんをかばうように立ちふさがり、スライムと対峙しているイヴちゃん。


 波のような形状になって襲いかかってくるスライムに対して彼女は大剣をブォンブォン振り回して斬りまくっているが、本当に波を切っているかのように手ごたえがない。


 なんという弾力性。見た目はコーヒーゼリーみたいで美味しそうだし、あれがコーヒーゼリーだったら食べきれないくらいいっぱいで最高なのに……。


 スライムがあまりにプルンプルンしてたのでつい余計なことを考えてしまったが、すぐに我に返る。


 そういえば、ユリーちゃんはどこにいるんだろう?

 フロアじゅうを見渡してみると、イヴちゃんたちと離れたところで倒れている彼女の姿があった。


 や、やられちゃったの!? それなら助けにいかなきゃ!!

 でも……私は治癒魔法が使えるわけじゃないから、助けられるかわからない。

 それなら先にスライムをなんとかして、シロちゃんに助けてもらったほうがよさそうだ。


 ならば私もイヴちゃんに加勢してスライムをやっつけ……たいけどいまの時点でイヴちゃんの攻撃が効いてないんだったら私が行ってもあまり戦力にならない気がする。


 となると……答えはひとつしかないっ!


「クロちゃん、魔法で援護できない!?」


 私がなにかと頼りにする魔法使いさんは肯定の仕草のかわりに無言で木杖を掲げた。

 ごにょごにょしたあと、杖先から小さな赤い光が飛び出していく。


 その光がイヴちゃんの振り回す大剣に吸い込まれると、切っ先にポッと小さな明りがともった。

 『エンチャント・ファイア』……武器に炎の力を与える呪文だ。


 ほんのりとした炎をまとう大剣のスイングがヒットすると、スライムの身体が発火した。まるで油だまりに火を投げ込んだみたいに、あっという間にスライムの全身が炎に包まれる。


 斬っても斬っても手ごたえのなかったモンスターだが、炎には弱いらしい。

 黒煙をあげながらみるみるうちにブラックスライムは小さくなっていき、やがて蒸発するかのように消えてなくなった。


「や……やった!!」


 我らがパーティの勝利に、思わずバンザイしてしまう。

 外部の手助けナシのうえに、相手の弱点をついて勝つなんて……ホンモノの冒険者っぽい!!

 私はなにもしてないような気もするけど、テンションだけは一気にあがった。


「すごいすごいクロちゃん! よく炎が弱点だってわかったね?」


 勝利の立役者であるクロちゃんを抱きしめる。


「スライムは最初は無色だが、吸収するものによって色と性質が変化する。ブラックスライムの場合は油などを吸収している可能性が高いので、火を与えるとよく燃える性質がある場合が多い」


 狙いを語ってくれるクロちゃんは、特に喜びもないようだった。


「さっすがクロちゃん! ありがとー!」


 でも私は嬉しくて、本日二度目の頬ずりをする。

 下もお祝いムードかと思ったけど違った。


 ぐったりしているユリーちゃんを囲んでなにやらやっている。

 ……ただならぬ雰囲気だ。


「ユリーちゃんっ!? どうしたのっ!?」


 私はベランダから飛び降りる。

 思ったより高かったので衝動的に飛んでしまったのをちょっと後悔したけどなんとか着地して、みんなの元に駆け寄った。


「ユリーさんがスライムを飲み込んでしまって……! でも、でも、治癒魔法が全然効かないんですっ!!」


 瞳を涙であふれさせながら、自分を責めるような口調でシロちゃんが教えてくれた。


「スライムのやつ、まとわりつくだけじゃなく、口のなかに入ってこようとすんのよ!」


 忌々しそうなイヴちゃん。彼女にとってはまとわりつかれるだけでも嫌なんだろう。


 ふたりの話を聞いて理解した。戦っているうちにユリーちゃんの口の中にスライムが入っちゃって、それで窒息したのか。


 私はユリーちゃんを仰向けに寝かせ、胸に耳を当ててみた。


 ……心臓が……止まってる……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★クリックして、この小説を応援していただけると助かります!
小説家になろう 勝手にランキング
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=680037364&s script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ