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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
番外編:ナイン・ブライダル
306/315

プロローグ

 水面に映る風景のように、揺らいでいた視界がすこしずつハッキリと形を結んでいく。


 名実ともに最初に飛び込んできたのは、思いもよらぬ人物の顔だった。

 そして私の世界は、再び転送装置に戻ったかのように勢いよく回転する。



「……ぎょわっ!?」



 ……ズダアンッ!



 一瞬何がなんだかわからず、身体が固まってしまった。

 部屋のあちこちから悲鳴がわきおこる。



「ゆっ、ユリーさんっ! 転送の途中で干渉するだなんて……! リリーさんの身体に何かあったら、どうするつもりだったんですか!?」



 遠くから責めるような先生の声。

 そのあとに、私の頭の上から鋭い声が降ってきた。



「長いこと人をほったらかしてどこかに行っちまうようなヤツに、どうもこうもあるかよっ!」



 懐かしい声の人物が述べた言葉は、相変わらず乱暴だった。


 私は起き上がろうとしたんだけど、身体がぜんぜん動かない。

 どうやら彼女に床に投げ飛ばされたあと、のしかかられて腕をキメられたみたいだ。



「ゆっ……ユリーちゃん、ひさしぶり……いたたたた……なんで会った早々に、取り押さえられなくちゃいけないの……?」



 うつぶせに押さえつけられているせいか、苦しくて声がうまく出ない。

 私は無理矢理土下座させられているみたいに、床の石にオデコをこすりつけながら呻いていた。



「当たり前だっ! せっかくツヴィ女に交換留学に来たっていうのに、お前はずっとどっか行ってやがって!」



「どっ、どっかって……私も交換留学に行ってたんだよ……そっか……ユリーちゃんと入れ違いになったってことだね……」



「まったく……ふざけんなよっ!? くそっ……! 余計なヤツらが来やがった……!」



 外の廊下から、ドカドカとこちらに近づいてくる複数の足音。

 その足音だけで、私は誰だかわかった。



 ……ズバァーンッ!



 部屋の扉が、力任せに開け放たれる。

 その突き破るような音だけで、私は誰が開けたのかわかった。



「遅いわよ!! リリーっ!! いったいなにをやって……って、何やってんのよ!? ユリーっ!?」



 我らが切り込み隊長、戦士のイヴちゃん……!



「おかえりー! リリーちゃーん! あれ? なんで寝てるの?」



 我らがマスコット、盗賊のミントちゃん……!



「はっ!? り、リリーさんっ!? ゆ、ユリーさんっ、乱暴はおやめになってください……!」



 我らがお母さん、僧侶のシロちゃん……!



「……」



 ボウッと、燃えるような音が聞こえた。


 我らが知恵袋、魔法使いのクロちゃんだ……!

 彼女が魔法で鬼火を出したんだ……!


 きっとその鬼火をけしかけられたんだろう、私の上にいるユリーちゃんがたまらず叫んだ。



「あちちちちちっ! くそっ、やめろクロっ! なにかっていうと人の顔に火を押し付けやがって!?」



「やめてあげて、クロちゃん!」



 みんなの足に向かって叫ぶと、どうやら鬼火は離れていったようだ。

 これでユリーちゃんも私を自由にしてくれるだろうと思っていたのだが、彼女はなおも重しのように乗っかったままだった。


 そしてにわかには信じられないことを言ってのけたのだ。



「おい、リリーっ! 俺と結婚しろ!」



 ユリーちゃんからプロポーズされてしまった。

 まぁ、彼女からそう言われるのは、別に初めてのことじゃないんだけど……こうして犯罪者のように拘束されながらのプロポーズは初めてだった。



「なに言ってんのよアンタ!? リリーを離しなさい!」



「うるせえっ! それ以上近づいたら、折るぞっ!?」



 挑みかかろうとしたイヴちゃんを、刃物みたいな声で制するユリーちゃん。

 ギリギリと、私の腕が軋んだ。


 胃液が逆流しそうな痛みが突き上げてくる。

 私はもう、何がなんだかわからなかった。


 お……おかしい……! 何もかもがおかしすぎる……!


 なんで留学先から帰ってきたばかりなのに、投げ飛ばされて取り押さえられなくちゃいけないの……!?

 そのうえ、なんでその状態のままプロポーズされなくちゃいけないの……!?


 そして……そしてなんで、なんでこんなプロポーズでオッケーがもらえると思ったの……!?!?


 いや、プロポーズは別にいいよ。

 私もユリーちゃん大好きだし。


 でも……かつてこれほどまでに、素直にウンとは言えない告白は、生まれて初めてのことだ……!



「なぁにバカなこと言ってんのよっ、ユリー! あっ、さては、ノーと言ったらリリーの腕を折るつもりね!?」



 よ……余計なこと言わないで、イヴちゃん……!

 と思ったときにはもう遅かった。



「そうか……! その手があったか……! おいリリーっ! 俺の婿になると言え! でないとポッキリいくぞ……!」



「やってごらんなさいよっ! そんなんでリリーが思い通りになると思ったら大間違いよっ! 腕の一本や二本、くれてやるわよっ!」



 ……って、なんでイヴちゃんが返事してんの!?

 勝手に人の腕をあげないでよぉ!?


 しかも、ユリーちゃんはあっさりとその挑発に乗ってしまう。

 私の腕は、勝手に取引されてしまった……!



「なら、お望みどおりにしてやるよっ……!」



 その合図とともに、腕はじょじょに曲げちゃいけない方向に曲げられていき、肺が潰されるような激痛に襲われる。

 息ができなくなっていることに気づいた私は、たまらず叫びだしてしまった。



「いだいいだいいだい! やめでやめでやめで! ユリーちゃぁんっ!!」



 変な汗が止まらない身体をよじり、床をバンバン叩く。

 タップのつもりなんだけど、ぜんぜんやめてくれる様子はない。


 そしてついに、痛みのあまり走馬灯が見えそうになり……ふとあることに気づく。


 そうだ。そうなのだ。

 私はこうしてピンチに陥ると、その場をなんとかしようと自然に頭がフル回転して……何気ないことに気づくんだ。


 そこに活路があると見出した私は、声を振り絞った。



「ゆっ……ユリーちゃんっ! い、いつもは『嫁になれ』って言ってるのに……! なんで今日にかぎって『婿になれ』なの……!?」



 すると不意を突かれたのか、ユリーちゃんの関節技が緩んだ。



「あ……そうだ、すっかり忘れてたぜ! いくら俺が『嫁になれ』って言ってもお前はどこ吹く風だから……俺は考えたんだ! なら俺が嫁になりゃいいんだ、って……!」



 トンデモ理論だけど、実に彼女らしい、と私は思った。



「俺が交換留学で再びこのツヴィ女に来たのは、俺の嫁っぷりをリリーに思い知らせるためだったんだ! 留学中、リリーと一緒に暮らせば、終わる頃にはリリーのほうから求愛したくなるだろう、ってな……!」



 ユリーちゃんは隠し事というか、なにかを企むのは苦手なタイプだ。

 だってこうして、自分から思惑をぜんぶしゃべってくれるから……。


 でもまぁ、そういうところが彼女を好きになった理由でもあるんだけどね。



「俺の留学が終わるまで、あと少ししかねぇ! だからリリー! 今すぐ俺と一緒に暮らせ! 花嫁修行の成果を、目にものとして見せてやるぜ!」



 なんだ、そういうことだったのか……。

 私はようやく、彼女の奇行の理由を理解した。


 一緒に暮らすくらいだったら、いいよ……と答えようとした瞬間、



 ……ズバァーンッ!



 デジャヴのように、再び扉が開け放たれた。



「……話はすべて聞かせていただきましたわっ!!」



 騎士の、ティアちゃんだ……!


 「うげっ」と吐きそうな声をあげるイヴちゃん。

 「なんだテメェは!?」と悪人のように突っかかるユリーちゃん。


 ティアちゃんはコツコツとブーツを鳴らし、部屋の中に入ってきた。

 その音だけでも優雅さが伝わるような、洗練された足運びで。



「アタクシは、マンゴスティア・ツルーフ・ガルシニア……リリーさんがつけてくださった愛称である、ティアとお呼びになって」



 「そのティアが、なんの用だよっ!?」「アンタはすっこんでなさいよっ」と息ぴったりで言い返すユリーちゃんとイヴちゃん。



「ツヴィ女では『天上の花嫁』とも呼ばれているこのアタクシが、花嫁修行と聞いて黙っているわけにはまいりませんわ。ユリーさん、このアタクシと勝負するのです……! リリーさんと交互に暮らして、どちらがリリーさんの嫁にふさわしいか……判定していただくのですっ……!」



 ティアちゃんが、なんでっ!? なんで私のお嫁さんに立候補してるのっ!?


 しかしユリーちゃんにはそんなことはどうでもいいようだった。

 挑戦されたとなると、彼女はそっちのほうに気がいっちゃうんだ。



「ドラ女では『地獄の花嫁』とも呼ばれていたこの俺に、挑もうってのか……! おもしれぇ、やってやる! それに比べるヤツがいたほうが、俺の花嫁っぷりも引き立つってもんだからな!」



 なんだかよくわからないうちに、ユリーちゃんとティアちゃんの勝負になっちゃった……!

 と思っていると、意外な人物たちが割り込んできた。



「ティアがやるんだったら、あたしもやるーっ!」



 ティアちゃんのパーティメンバーである、モンクのベルちゃん……!



「同じくやるの。あと、フランも一緒に」



 アーチャーのノワちゃん……!


 フランというのは、魔法使いのフランちゃんのことだ。

 極度の恥ずかしがり屋で人前では話せないから、ノワちゃんがついでに申し出ているんだろう。


 私と暮らす女の子が、一気に5人に……!? と思っていたら、それだけじゃ終わらなかった。



「ミントもやるーっ!」



「わ、わたくしも、リリーさんのお嫁さんに……ならせていただけませんでしょうか……」



「自分も」



 さらに追加で、ミントちゃん、シロちゃん、クロちゃんが立候補……!

 これで8人に……!



「あ……アタシはリリーと一緒に暮らすなんて、しっ……死んでも御免よっ! で、でも……!」



 イヴちゃんの宣言は、途中で「あらぁ!」とティアちゃんに遮られてしまった。

 まるでその言葉を待ってましたと言わんばかりに。



「それは残念ですわねぇ! ではイヴさんには公平なジャッジをするための観客になっていただきましょう! リリーさんのことをよくご存知なのであれば、適任ですわよねぇ!?」



 イヴちゃんが、「クッ……!」と歯噛みをする音が聞こえた。


 ……それからはあっという間だった。

 私が地面に伏しているうちに、すべてが決まってしまう。


 ルールはこうだ。


 ツヴィートークの近くにある村、ツルーフにあるログハウスを使い、疑似新婚ごっこをするというもの。


 花嫁に立候補したメンバーは、日替わりで私の帰りをログハウスで待つ。

 学院の授業が終わった夕方頃、私がログハウスに帰り、一晩いっしょに過ごす。


 そして全員分が終わったあと、誰がいちばんのお嫁さんだったかを、私が決める……ということらしい。


 やれやれ……久しぶりにツヴィートークに帰ってきたのに、ひと息もつけずにこんなことになるなんて……。


 でも、まあ……なんだか楽しそうだからいっか。



  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 その日の夕方、私はツルーフの村はずれにあるログハウスの前に立っていた。

 立派な佇まいだったんだけど、見た途端、少しだけ嫌な気持ちになる。


 以前、私は修学旅行のついでに聖剣を見つけ、それを徒歩でツヴィートークまで届けるという旅をやったんだけど……。

 その途中、山奥でドッペルゲンガーに襲われて大変なことになって……その時のログハウスに似てるんだよね。


 もしかしてあの玄関扉を開けると、5倍に増えたみんながいたりして……。


 それは不気味ではあるんだけど、なんだかそれはそれでいいような気がしてきた。


 良いんだか悪いんだか、よくわかんない気持ちでログハウスの階段をトントンあがり、玄関扉に手をかける。


 この向こうには、私のお嫁さんが待ってるんだ……!


 期待と不安に満ちた、なんて言葉があるけど、いまの私には期待しかなかった。

 はやる気持ちをぶつけるように、ドアノブを一気に回す。


 ガチャリっ……!

 さぁ、楽しい9日間の、はじまりはじまり……!

ブックマークが700件を越えたらなにか書こうと思っていたのですが、いつの間にか越えていたので書きました。

といっても本編ではなく、今回は全10話の番外編となります。


リリーと仲間たちの一夜だけの新婚生活となりますが、話としては繋がっておりません。

ですのでお好きなキャラクターの話だけをお楽しみいただいても問題ありません。

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