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「……はああっ!?」
飛び起きた私が見たものは、ミルヴァちゃんのフレスコ画。
それもひとつじゃない、天井にも壁にもあって、私を取り囲むようにたくさん……!
……いや、そんなことは今どうでもいいんだ。
フレスコ画はミルヴァちゃん本人には似ても似つかなくて……あ、もしかしたらミルヴァちゃんが大人になったらこんな風になるのかも……。
……いやいや、それも今はどうでもいいっ!
たしか……私は聖剣のクルミちゃんを使って、グリフォンを斬りつけた……。
クルミちゃんは聖剣を自称しているだけあって、すさまじい威力だった。
私は軽く振っただけなのに、グリフォンを紙のようにまっぷたつにした。
斬った感覚もないほどに、あっさりと格上のモンスターをやっつけちゃったんだ……!
でも……その前に私は深手を負っていたので、そのあとすぐに意識不明になって……死んじゃったんだ……。
がっくりと視線を落とすと、寝転がっている仲間たちが見えた。
イヴちゃん、ミントちゃん、シロちゃん、クロちゃん……。
当然のように、クルミちゃんはいない……。
たしか、同じような体験を以前もした。
クロッサード山道で、カンガルードラゴンにやられちゃった時だ。
その時はたしか、ズェントークの聖堂で復活したんだ……。
……と、いうことは……。
ここは、ズェントークの聖堂……?
私の背中に、ヒヤリとした冷たい汗が走る。
「たっ……大変っ! 大変だぁ!! みんな起きてっ!! 起きてよぉ!!」
私は半泣きでみんなを叩き起した。
「んぁぁ……うるっさいわねぇ……あら、ここ、聖堂……?」
「ふにゃぁぁぁ~よくねたぁ」
「す……すみません! 治癒魔法を唱えられなくて……!」
「……」
起き抜けのみんなは、事の重大さがまだ理解できてないようだった。
私は肩をつかんで、順番にガクガク揺さぶる。
「ど、どうしよう!? どうしよう、みんな! ツヴィートークまであと少しのこところで、ズェントークまで戻っちゃったぁ!」
「なによ、リリー、そんなに大騒ぎして」
「イヴちゃん、大騒ぎって、そりゃ大騒ぎもするよっ! クルミちゃんを道端に置き去りにしたままなんだよっ!?」
「とりにいけば~?」
「ミントちゃん、とりにいけばって、そんな簡単に……! 歩いて取りに行ったら何日もかかっちゃうんだよぉ!?」
「あ、あの……すみません、リリーさん、どうか落ち着いてください……。お言葉ですが、歩いて取りに戻る必要は、ないと思うのですが……?」
「シロちゃん、落ち着いてって、そんなノンキな……! 歩かなきゃどうするの!? 以前は早馬を使えたけど、距離が遠すぎて今は使えないんだよっ!? あっ、それともシロちゃん、空が飛べるようになったの!?」
「……シロは、空は飛べない。巨人の階段から飛び降りたときも即墜落した」
「そうなのクロちゃん!? じゃあ、どうやって……!?」
「転送装置を使えばいい」
「えっ」
クロちゃんの一言に、私は虚を突かれたようになる。
でも……それは私だけだったようで、他のみんなは当たり前のように頷いていた。
そ……そっか……!
クルミちゃんはいま、ツヴィートークの目と鼻の先にいる……!
私たちがツヴィートークまで転送装置を使えば、すぐに迎えに行けるじゃないか……!
クルミちゃんが転送装置を異様に嫌ってたので、私は移動手段として完全に忘れていた……!
今はクルミちゃんを連れていく必要がないから、転送装置が使える……!
「よぉしっ、転送装置だ! みんな、ゼン女に急ごうっ!」
それから私たちは聖堂を飛び出し、懐かしい夕暮れの街を駆け抜けて『ズェントーク女学院』に転がり込んだ。
院長先生と、神託をくれた先生は、私たちの姿を見てかなりびっくりしていた。
でも私が事情を話すと、すぐに転送装置の準備をしてくれる。
私たちが何日もかけて進んできた長い長い距離を、転送装置はわずか数分で飛び越えてくれた。
久しぶりのツヴィートーク女学院。
「あら、リリー、戻ってきたの?」と、とっくの昔に修学旅行を終えて戻っていたクラスメイトたちが迎えてくれたけど、私たちは世間話もせずにツヴィ女を飛び出す。
グリフォンと戦った道まで戻ると、そこは何事もなかったような静けさに包まれていた。
襲われていたオジサンの姿も、馬車も、馬の死体すらもなく、グリフォンの羽根ひとつ落ちていない。
このあたりはモンスターがあまりいないので、これが当たり前の光景なんだけど……なんだか白昼夢を見ているみたいだった。
でも、夢なんかじゃない……!
私たちは手分けして、クルミちゃんの姿を探す。
いつもなら私たちの声を聞いたら、泣きながら這い出てくるんだけど……いくら呼びかけても彼女の姿を見ることはなかった。
クルミちゃんは移動できるから、ツヴィートークに行ったのかもしれないと思い、私たちは来た道を引き返して街まで戻る。
次は街の中を手分けして探そうとしたんだけど、クロちゃんが「その必要はない」って言ってくれたんだ。
こういう時のクロちゃんは、なんだか頼もしい……。
私は期待に満ちた瞳で彼女を見る。
「クロちゃん……クルミちゃんが行きそうな場所、わかるの?」
「聖堂に行ったんでしょ。アイツ、ミルヴァに会いたがってたから」
イヴちゃんの推理に、クロちゃんは静かに首を左右に振った。
「グリフォンに襲われていた馬車は、ツヴィートークに向かう荷馬車だった。陸路でツヴィートークに入る荷馬車は、すべて港へと向かう」
「そうなんだ……でも探してるのは荷馬車じゃなくて、クルミちゃんだよ?」
「……クロは、荷馬車のオヤジがクルミを持ってったって言いたいんでしょ」
イヴちゃんの一言に、私はハッとなる。
「グリフォンに襲われてたおじさんが、クルミちゃんを盗んだってこと……?」
ローブを前に傾けるクロちゃん。
イヴちゃんは、指の骨をポキポキ鳴らしていた。
「もしそれが本当だったら、あんのオヤジ、覚えてなさいよっ……! アタシたちが命がけで助けてやったのに、恩をアダで返すようなマネして……!」
「ま……まぁまぁ、イヴちゃん、まだそうと決まったわけじゃないし……とりあえず、港に行ってみようよ」
私たちはイヴちゃんをなだめながら、港へと向かった。
ツヴィートークの港は夕方だというのに、人がたくさん行き交っていて賑やかだった。
荷馬車もひっきりなしに出入りしている。
この中から探すのかぁ……見つかるかなぁ、とのっけから不安になっちゃったんだけど、
「おい、知ってるか? 今日のベットオークションに、目玉商品が追加されたらしいぜ!」
「ああ、聞いた聞いた! 直前になってすげぇ剣が持ち込まれたらしいな!」
ちょうど私たちの前を通り過ぎていく作業員の人たちが、聞き捨てならないウワサ話をしていたんだ。
私はそのお兄さんたちを呼び止めて、オークションの開催場所を教えてもらう。
オークション会場は港から少し離れたところにある、豪華なお屋敷が立ち並ぶ住宅街みたいな所にあった。
入口の掲示板には『ツヴィートーク港ベットオークション会場』という張り紙があって、
目玉商品が急遽追加されました!
女神ミルヴァルメルシルソルドが創ったといわれる、意志を持った幻の聖剣が今日の競売にかけられます!
という文字が書き加えられていた。




