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せっかくみんなが選んでくれた服だったんだけど、私は半泣きで訴えて、なんとか許してもらった。
観光ピーアール用のキャラクターがする格好としては、あまりにも前衛的すぎたからだ。
さすがにタキシードにふんどしで、ピカピカしながらビョンビョンしてたら通報されちゃう。
結局、みんなのために選んだタンクトップにショートパンツを私も着ることになって、五人でお揃いになった。
私が着替えるのにあわせて、イヴちゃんもシロちゃんも着替えたんだけど……ヤバかった。
ふたりとも私より胸があるから、水着を着てるみたいにセクシーになっちゃったんだ。
イヴちゃんは肌を露出するのにはそれほど抵抗がないようで、堂々としているからかなりサマになっている。
強気な表情で、金色のツインテールをサラサラとかきあげるその様は……強さとセクシーさを兼ね備えていて、なんだか大人びたように見えた。
そしてシロちゃんのほうは、それまで着ていたローブとの差があるから特に目立っていた。
彼女がいつも着ているローブは身体の線がほとんど出ないのに、この格好だと丸出し。
顔は清らかな神の使いといった感じなのに、身体だけは酒場にいるボインボインのお姉さんみたいな大変身を遂げている。
まるで『犬みたいな猫』……いや『天使みたいな悪魔』……いやいや『あどけないのにけしからん』みたいな……とにかくすごいギャップなんだ。
タンクトップの図柄のイカが、別の生き物みたいにビロンと横に伸び……まぶしいほどの胸元がこぼれそうになっている。
そして雲間からさす光のような、神聖なほどに白い太もも。
シロちゃんは恥ずかしがってもじもじしてるんだけど、それがまた胸をスライムみたいにぷるぷると小刻みに揺らし、こすりあわせる太ももがふるふると震え、注目の的になっている。
背中の翼とあいまって、借金で見世物になっている天使みたいだ……!
私もシロちゃんの胸部に釘付けになっていると、マルシェさんがみんなを正気に戻すようにパンパンと手を叩いた。
「はいはーい! ユリイカがお揃いの格好になって、ぐっと仲良くなったところでファッションのピーアールは終わりでーっす! 次のスポットに移動しますから、ついてきてくださーい!」
「えっ、このままですか?」
珍しく、シロちゃんが問い返す。
いつも彼女は何事にも黙って従うのに、この時ばかりは異議があったようだ。
どうやら、この格好で街を歩くのがかなり恥ずかしいらしい。
「うん、このまま撮影を続けるから、その格好のままおねがーい!」
「……か……かしこまりました」
「最初は恥ずかしいかもしれないけど、すぐ慣れるって、じゃあいくよーっ!
」
そう言って、さっさと歩きだすマルシェさん。
シロちゃんは冬山を歩いているみたいに縮こまっている。
見かねた私は、途中の店の軒先にあったイカ柄のガウンをもらってきて、シロちゃんにかけてあげた。
「これなら恥ずかしくないでしょ?」
「あっ……ありがとうございます、リリーさん」
「ごめんねシロちゃん、私がこんな服を選んだばっかりに恥ずかしい思いをさせちゃって」
私はシロちゃんに言ったんだけど、前を歩いていたイヴちゃんが「まったくよ」とこぼした。
シロちゃんのほうはというと、黒髪のツヤが移動するくらいブンブン頭を左右に振っている。
「とっ、とんでもありません! 私こそ、すみませんでした。せっかくリリーさんが選んでくださった服なのに……!」
そう言って、ガウンを脱ごうとしている。
「ああ、脱がなくていいよ、そのままで」
「本当に、申しわけありません……」
さらに小さくなるシロちゃん。
「でも実をいうと、後学のためにシロちゃんの身体をもっと見たかったんだけど……今は他のみんなの身体でガマンするよ」
すると、前からゲンコツが飛んできた。
「いっ!? いったぁ~い!? イヴちゃん、なんでぶつの!?」
「人をかわりみたいに言うんじゃないの!」
後ろ歩きをはじめたイヴちゃんは、教育ママみたいに怖い顔をしている。
「だってぇ、シロちゃんの身体って、なかなか見れないんだもん!」
「なかなか、って、まいにち風呂場で見てるでしょーが!」
「もちろん見てるよ! でもそれじゃ全然足りないの! ……あっ、言っとくけどシロちゃんだけじゃなく、イヴちゃんも全然足りてないんだよ? クロちゃんもミントちゃんも……!」
……ガツンッ!
「いっ、いたいってばぁ!」
「なっ、なにワケのわからないこと熱弁してんのよっ!? なにが『言っとくけど』よ!? まったく、変態じゃないの!?」
赤鬼みたいな顔で、怒鳴りつけてくるイヴちゃん。
でも私はこの件に関してだけは、引き下がるわけにはいかなかった。
「キレイなものって、いくら見ても飽きないじゃない! キレイなものを見たいっていうのが、そんなに悪いこと!?」
私は幼い頃は聖堂で、ミルヴァちゃんの像を朝から晩まで眺めることがあった。
今思えば、そうやって『キレイなもの』を身体のなかに補充していたのかもしれない。
今ではみんなといつもいるから、ミルヴァちゃんの像を見ることも少なくなったけど……私のなかにある『キレイなもの』を貯めるタルの中は、いつも半分くらい。
足りなくはないけど、もっともっと欲しい……満タンである眼福には、まだまだ程遠いんだ。
私はイヴちゃんに向かってその想いを熱く語ったんだけど……タンコブが団子状になるまで殴られただけだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
撮影隊一行は、スカート湾に面するビーチに来ていた。
大きめの海の家が、いくつも連なる浜辺。
夏場であれば大勢の海水浴客で賑わってるんだろうけど、シーズンオフの今は人の姿もまばらだ。
潮風とともに寄せては返す、静かな海。
その遥か向こうには、私たちが目指そうとしているムイースの街が小さく見える。
「ちょっと寒いねぇ」「ねー」「誰かさんのおかげでね」「……」
いつのまにか私たちは、シロちゃんの翼の中で身体をさすっていた。
シロちゃんは翼を提供するために、もうガウンは着ていない。
シロちゃんを中心に横一列に並んだ私たちは、マルシェさんの説明を聞く。
「さぁて、ここではカラーマリーの名物のひとつ、スカート湾のビーチをピーアールしてもらうよ!」
「まさか、泳げとかいうんじゃないでしょうね」
不機嫌そうに尋ね返すイヴちゃん。
「最初はそのつもりだったんだけど……今見たらクラゲだらけだったんだよね。ちょっと印象が良くないから、浜辺で遊んでもらうことにしたんだ」
私は心の中で、密かにクラゲに感謝する。
クラゲに感謝する日がくるだなんて、思いもよらなかったけど……他のみんなもそうだったに違いない。
「なになに、なにするのー!?」
遊びと聞いて、目を輝かせるミントちゃん。
「はい、これ」
マルシェさんは答えるかわりに、スタッフさんから受け取ったものを私たちに手渡してくる。
それは水鉄砲だった。
普通の水鉄砲と大きく違うのは、水のかわりにイカスミみたいな黒い液体が入っていることだ。
しかも……それだけじゃない。
水鉄砲の銃口にはユリイカのかぶりものをした、みんなのイラストのお面がついている。
お面の口のところから銃口が出ていて、射ったら口からイカスミを吐いてるように見えるみたいだ。
お面の表情は、それぞれのユリイカの特徴をよくとらえている。
イヴちゃんは怒り顔。
ミントちゃんは笑い顔。
シロちゃんは困り顔。
クロちゃんは無表情。
そして……私はなぜか、子供みたいなおどけ顔だった。
こんな表情……そんなにするかなぁ……まぁ……学院にいる時だったら、一日に五回くらいはしてるかもしれないけど……。
「これはこれから売り出す、ユリイカグッズのイカスミ鉄砲なんだ。これを使ってビーチで射ちあいをしとくれよ」
「なんか、悪趣味な水鉄砲ねぇ」とイヴちゃん。
「わあい、ミントが水鉄砲になってるー!?」と大喜びのミントちゃん。
「わっ……私の顔が、グッズに……!?」と我が目を疑うようなシロちゃん。
「……」お面の顔を、自分の顔でも再現しているクロちゃん。
私はというと、自分のはともかくみんなの水鉄砲は欲しいなぁ……なんて思っていた。




