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「……バッカじゃないのっ!!!」
これは私チョイスの服を、喜び勇んでみんなの元へ届けたあとの、イヴちゃんの咆哮。
「アンタはなんでこんなにセンスがないのよっ!? どっかに置き忘れてきちゃったんじゃないの!? 服選びのセンスを!?」
倒置法まで使って、私のセンスを罵倒するイヴちゃん。
「それに季節感くらい考えなさいよっ!? 真夏でもないのになんでタンクトップとショートパンツなのよっ!? 百万歩譲って、せめて半袖……いや長袖にしなさいよっ!? アンタが今着てるのはいったい何なのよっ!?」
私の青い長袖シャツを、乱暴に引っ張るイヴちゃん。
「この時期にタンクトップにショートパンツなんて、バカな子供みたいじゃないの!! しかも何このダッサい柄……!!」
イヴちゃんのファッション批評はとどまるところを知らない。
そしてついに、仲間たちまで巻き込もうとする。
「ちょっと! アンタたちもなんか言ってやんなさいよっ!!」
でも、ミントちゃんは「わーいわーい! イカだー! イカイカー!」と大喜びだ。
クロちゃんに至ってはすでに着替え終えている。
イヴちゃんは「クゥ」と悔しそうに呻いたあと、
「そ……そうだシロっ! アンタはどうなのよっ! こんな恥さらしな格好、絶対にイヤよねっ!?」
私の頬をツインテールではたくほどの勢いで後ろを向き、最後の仲間に希望を託す。
しかし……!
「……いいえ。私は喜んで着させていただきます。これは、リリーさんが心をこめて選んでくださったお召し物なのですから」
シロちゃんはまっすぐな澄んだ瞳で、キッパリと言いきった。
こんなに決意に満ちた彼女も珍しい。
孤立無援となってしまったイヴちゃん。
「うがーっ!」と髪をかき乱しはじめる。
とうとう見かねたのか、マルシェさんが間に入ってくれた。
「……まぁまぁ、お揃いってのはいいチョイスだから、ちょっとガマンして着ておくれよ」
するとイヴちゃんは、マルシェさんに交換条件を出した。
それは、リリー……私の服も選ばせろというものだった。
「あっ、それいいね! 服をプレゼントしてもらったユリイカたちが、お返しをする……! それいただき!」
マルシェさんはすぐにオッケーしていたけど、私はなんだか不安だった。
イヴちゃんは「お返し」というよりも「仕返し」がしたそうだったからだ。
私の心配をよそに、さっそく私の服を求めて散っていく仲間たち。
どうやら、『上に着るもの』、『下に着るもの』、『靴』、『アクセサリー』で手分けして探してくるようだ。
その間、私はヒマになってしまったので、聖剣のクルミちゃんに服を着せてあげた。
人形用のその服は、ちょうど柄のところにピッタリとはまる。
そして……大変なことに気づく。
精霊のクルミちゃんは胸が大きいから、タンクトップなんて着ると大変なことになるということを。
大きく開いた胸の谷間ごと、少し動くだけでたゆんたゆん揺れまくる……!
しかも胸にひっぱられているせいか、丈も足りずにおへそ丸出し……!
思わず「見ちゃだめ!」とまわりの目を気にして隠しそうになったけど、そういえば誰にも見えてないんだった。
「どうしたの、リリー? 気の小さいドロボーみたいにキョドキョドして」
私がひとり取り乱していたので、クルミちゃんは不思議そうだ。
「あ、いや、なんでもない……ところでこの服、どう?」
「見習い冒険者のみんなとお揃いの服なんて……なんか変な感じぃ!」
クルミちゃんはいつもの毒舌だったんだけど……表情は全然違っていた。
まるで誕生日を祝ってもらった子供みたいな、満面の笑顔を浮かべていたんだ……!
その素敵すぎる笑顔に、私はドキッとしてしまった。
そしてちょっと、切なくなってしまう。
そっか……クルミちゃんってずっと洞窟の中にいたから、こうやってプレゼントをもらうことも、なかったんだろうな……。
「どうしたの、リリー? 失敗して捕まったドロボーみたいにションボリして」
私がひとり取り乱したり、ときめいたり、落ち込んだりしていたので、クルミちゃんはますます不思議そうだ。
「あ、ううん、なんでもない。よく似合うよ、クルミちゃん」
「そうかなぁー?」
まぁ、何しても……本人はぜんぜん恥ずかしがってないようだし、喜んでくれてるからいいのかな……と思い直す。
そしていったん落ち着くと、別の好奇心が頭をもたげてきた。
「……ねえ、クルミちゃん……クルミちゃんって普段なに食べてるの?」
すぐ目の前で呼吸にあわせて上下する、超巨大マシュマロに向かって尋ねてみる。
「ボク、なにも食べないよ。……あ、地面に刺さってるときは地脈のエネルギーを吸い上げて、力を溜めてたけど」
「……地脈のエネルギーかぁ……」
およそ食品とは思えないものだ。どうやって吸い上げるんだろう。
聖剣じゃない私でも、吸い上げられるのかなぁ……地面にストローでもさしてチューチューしたら、もしかしたらいけるだろうか。
ちょっと、後でやってみよう……なんてことを考えているうちに、シロちゃんが戻ってきた。
「こういったお召し物も、りりしいリリーさんにはお似合いになるのではないかと思いまして……」
照れ照れしながら、紙袋を差し出してくるシロちゃん。
私はシロちゃんにお礼を言いながら、どれどれと開けてみる。
『上に着るもの』担当のシロちゃんが選んでくれたのは……白いタキシードだった。
イカみたいに真っ白で、袖にイカそうめんみたいなフリンジが何本も垂れている。
さっそく試しに着てみる。
こういった正装っぽいのは初めてだけど……どうなんだろう?
シロちゃんは「とってもよくお似合いです……!」とうっとりした顔をしていた。
隣で見ていたマルシェさんも、うんうんと頷きながら、
「うん、いいね! 下がラフな格好だから、アンバランスだけど……上だけ見れば男装の麗人みたいだよ!」
と評価してくれた。
他の服はまだ届いてないから、上半身以外は私のいつもの格好のままだ。
ショートパンツにサイハイソックスにブーツ。
たしかにラフすぎるので、取り合わせとしては変だ。
でも、『下に着るもの』や『靴』次第では化けるかもしれない。
どうか、他のみんなもこの調子でお願いします……なんて心の中で祈っているうちに、クロちゃんが戻ってきた。
「……」
無言で紙袋を差し出してくるクロちゃん。
私はクロちゃんにお礼を言いながら、どれどれと開けてみる。
『靴』担当のクロちゃんが選んでくれたのは……『イカスミジャンプ』という名前の真っ黒いスニーカーだった。
吐いたイカスミの勢いで、ジャンプしているイカをイメージしたスニーカーらしい。
特徴的なのは、靴底にバネみたいなのが入っていることだ。
ちょっと嫌な予感がしたけど、せっかくだからと試しに履いてみる。
すると案の定、バネのせいでまともに立っていられず……ずっとビョンビョン垂直ジャンプしてしまう。
上半身はタキシードなのに、下半身は総じて子供みたいな格好で跳びはねている私。
その姿を、クロちゃんとシロちゃんは無表情で見つめていた。
クロちゃんはともかく、シロちゃんまで感情を失うなんて……。
マルシェさんも瞳の光を失っていたが、ふと我に返ると、
「……ま、まぁ……いいんじゃない? 楽しそうで……」
なるべく私を傷つけない言葉を選んで、よそよそしくコメントしてくれた。
私が所在なくビョンビョンしているうちに、ミントちゃんが戻ってくる。
「はい、キラキラー!」
その言葉に負けないくらいキラキラの笑顔で、紙袋を差し出してくるミントちゃん。
「リリーちゃんへんなカッコー! きゃはははははは!」
そして飾らぬ言葉でさらに破顔。いっしょにピョンピョン跳ねてくれた。
私はミントちゃんといっしょに上下運動をしながら、どれどれと紙袋を開けてみる。
『アクセサリー』担当のミントちゃんが選んでくれたのは……点滅する輝石がいっぱいついたロープみたいなやつだった。
これ、何だろうと? と思っていると、
「あ、それはイカ釣りの漁船につけるやつだよ。その光で小魚を集めて、イカ寄せをするんだ」
マルシェさんが教えてくれた。
ミントちゃんはキラキラしたものが大好きだ。
だからこそアクセサリー担当を志願したんだろうけど……これじゃキラキラというよりピカピカだ。
「つけてみてー! つけてみてー!」とミントちゃんからせがまれ、私はロープを身体に巻きつけてみる。
ピカピカと、光に包まれる白いタキシード。そして止まらないジャンプ。
ミントちゃんは大喜びしてくれたけど……いつのまにか他の人たちは、私に背中を向けていた。
その肩は、小刻みに震えている。
そうこうしているうちに最後のメンバーである、イヴちゃんが戻ってきた。
「あっはっはっはっはっ! 何よアンタ、チンドン屋みたい! でも似合うわよ! あっはっはっはっはっ!!」
涙を浮かべるほど大笑いしながら、紙袋を差し出してくるイヴちゃん。
私は恨めしい気持ちを隠そうともせず、ジト目のまま紙袋を開けてみる。
……言い出しっぺのイヴちゃんのことだ、きっとロクでもないものに違いないと思っていた。
でも、多少の望みもあった。
いくらなんでもこれ以上、ひどい格好が加速するアイテムはないだろう。
多少なりとも、今の珍装を和らげてくれることを期待していた。
イヴちゃんが選んできたのは、『下に着るもの』だ。
これがマトモであれば……いや、少々ヘンな物でも、化学反応を起こして一気に化ける可能性がある……!
そして紙袋から取り出された、私の手に握られていたのは……。
『イカのふんどし』
であった。




