表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
聖剣ぶらり旅
255/315

85

 リリー、イヴ、ミント、シロ、クロ、五人で避難訓練をしました。

 いちばん決まりを守れたのはだれ?


 次にリリーが出した、仲間たちが登場する問題。

 ヴォーパルは酸っぱいものを食べたみたいに、顔をしわくちゃにしながら考えています。


「うーん……まえに学院で避難訓練したときは、どうだったかしら……? たしか、リリーのせいでアタシたち全員叱られちゃったのよねぇ……」


 イヴは相変わらず、現実と照らし合わせて考えていました。


 修学旅行に出発する前、ツヴィートーク女学院でも避難訓練が行われたのです。

 避難訓練といっても火事や地震のものではなく、学院にモンスターが襲来した場合の訓練でした。


 その時、リリーが独自の避難ルートを行きたがったせいで、訓練用に放たれていたモンスターに襲われてしまったのです。

 それを思い出したイヴは、ひとりでムカムカしはじめました。


「ああ……なんか思い出してきたら、腹がたってきたわ、なんでアンタのせいでアタシが叱られなきゃいけないのよっ!」


 イヴはまたリリーに襲いかかり、頬をガッとつまみました。

 リリーは口の中に親指を突っ込まれ、横にぐにーと引っ張られています。


「うにゃっ!? イヴにゃん、あ、あにょ時にゃんにゃん叱ったじゃにゃい!? 思いにゃして叱らにゃくても……!」


 リリーは、「イヴちゃん、あの時さんざん叱ったじゃない!? 思い出して叱らなくても」と言っています。

 でも思うように口が動かせないので、猫が人語を喋っているような変な言葉になりました。


 でも、実をいうと……リリーはこうやってイヴに叱られるのが、まんざらでもなかったりします。

 ツヴィートークにある女子寮にいるときでも、たまにリリーの部屋にイヴがやってきて、リリーのことを叱るのです。


 最初はネチネチ、クドクドと言葉だけなのですが、だんだんイヴがヒートアップしてきてリリーを押し倒すのです。

 そして馬乗りになったまま、リリーの頬を引っ張ったり、鼻をつまんだり……顔マッサージみたいにリリーの顔をいじり倒しながら叱責するのです。


 リリーはお説教が大嫌いでした。

 学院の先生やら、聖堂の聖堂主さまからされるお説教は、一秒だってガマンできずにソワソワしてしまいます。


 でも……イヴから変顔にされながらのお説教だけは、大好きでした。

 イヴにたっぷりと触ってもらえるからです。

 この時だけはリリーはイヴの身体に触らず、されるがままになっていました。


 しかしこのお説教、普段はツヴィートークの寮で、ふたりっきりのときしかやってくれないのですが……イヴはなぜか今、やってくれています。


 それがリリーは嬉しくて、こんな時だというのに顔をほころばせていました。

 変顔を加速させているとも知らずに。


「ぷっ、アンタ、なんて顔してんのよ」


 ゆるみきったリリーの顔に、イヴは思わず吹いてしまいました。


「ふえっ、そんにゃに変にゃ顔ににゃってる?」


「アハハハハハ! なんだか溶けたスライムみたい! ホラ、クロも見てみなさいよ!」


 呼びかける必要もなく、すでにクロは振り向いてリリーの変顔を見上げていました。

 その表情は相変わらずでしたが、どことなく羨ましそうです。


 リリー、イヴ、クロ……つい三人とも、悪魔と対決しているのを忘れるほど和んでいました。

 しかしその様こそ、ヴォーパルにとって何よりも不快なものだったのです。


「ぐああああーーーーーーーっ!! 私の前で、イチャイチャするなぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!」


 半狂乱になった悪魔から、剣のような歯の切っ先を喉元に突きつけられ、リリーは慌てて気をつけの姿勢をとりました。

 イヴはチッと舌打ちをし、クロは規則正しい動きでヴォーパルに向き直ります。


「リリー、イヴ、ミント、シロ、クロ、五人での避難訓練……いちばん決まりを守れたのは……シロだぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 ヴォーパルは、怒りにまかせて答えをぶちまけました。

 リリーはヴォーパルに怒られて、消沈していたのですが……答えを聞いた途端、懲りないいたずらっ子のように明るさを取り戻したのです。


「はっ……はずれーっ! 正解はミントちゃんでした!」


「……なぜだっ!? 理由を言ってみろっ!! 前の問題みたいに、貴様らのことをよく知らないとわからない問題だったら……この場で首を斬り落としてやるからなっ!!」


 ヴォーパルは鋭い前歯を再び、リリーに向けます。


「こっ、今度は納得いく理由だと思うよ、なんでミントちゃんかというと……彼女がいちばん幼かった(押さなかった)から……!」


「ぐっふぅ!?」


 ヴォーパルは理由を聞いた瞬間、どてっ腹に破城槌をくらったかように身体をくの字に曲げました。


 ミントが幼いのは、外見的にすぐわかる要素……リリーの言っていたように、よく知らなくても正解を導き出すことができます……!


「うっ……ぐぅぅぅ~っ!!」


 嗚咽をもらすように、ヴォーパルはヒザをつきました。

 腹を抱えたまま、うなだれて……死んだ胎児のように、悪魔は動かなくなります。


「や……やった!! 今度こそやったわ! あのブッサイクな悪魔に、ついに勝ったのよっ!!」


 しかし……イヴの喜びは、またしてもつかの間でした。

 事切れたと思われた悪魔は、ビックリ箱から飛び出した人形のように伸び上がり、


「見る人によって印象が違う問題は……ナシだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! だから、この問題も無効でぇぇぇぇぇぇぇぇっす!!」


 ベロベロバァと言ってのけたのです。


「ええっ、またぁ!?」


「なによっ!? この問題はリリーの言うとおり、アタシたちのことをよく知らなくてもわかる問題じゃないっ!?」


「いいやっ! ミントが幼いなんて、お前らだけが思っていることだろう!! 私はミントのことを幼いと思ったことは一度もないっ!! むしろ命を賭けた勝負の最中に、バカ騒ぎしている貴様らのほうが……よっぽど幼く見えるわっ!!」


 リリーとイヴの抗議は、かなりメチャクチャな言い分で封じ込められようとしていました。

 しかし今回ばかりはふたりとも食い下がります。


「そ……そんなのズルいっ! 私たちの中でミントちゃんがいちばん幼いのは、見て明らかじゃない!」


「そうよそうよ! 往生際が悪いわよっ! いい加減、負けを認めなさいっ!! クロ、アンタも何か言ってやりなさいよっ!!」


 リリーとイヴは、口論では頼りになるクロに注目します。

 しかしその口から飛び出したのは、予想外の言葉でした。


「……自分は異論はない。次の問題を」


 クロはこの理不尽な判定に異を唱えず、相手に攻撃権を渡してしまったのです……!


「ええっ、なんでっ!? クロちゃん!?」


「どうしたのよ、クロっ!?」


 仲間たちは信じられず、クロの肩を掴んで揺さぶりました。

 でも彼女は振り向きもせず、首がバネになっている人形のように揺れるばかりです。


「グフフフフ……! どうやら貴様らのなかで、いちばん大人なのはクロのようだな……! よぉし……次はこっちの番だあっ!! そろそろ、決めてやるぞぉぉぉぉっ……!! 覚悟はいいかぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ヴォーパルは気合の込もった声とともに、両手をバッと掲げました。ドレスの長い袖が羽根のように広がります。

 それはまるで……逢魔が時に現れた、地獄からの使者のようでした。


 ここに来てヴォーパルは、新たなる必殺の問題を思いついていたのです。


 リリーの出した問題をヒントにした、内輪の問題。

 ヴォーパルの出身である、魔界から持ってきたネタ……人間であるクロでは絶対に知りえない情報を使ったものでした。


 それは、先程までの彼女からすれば、ありえない問題……!

 リリーたちの問題はさんざん無効にしておきながら、彼女はそれをやろうとしていたのです……!


 不平不満は強引に押し込めて勝利宣言をし、そのままリリーたちをウサギに変えるつもりでした。

 やや流儀に反するものの、もはやなりふり構っていられないほど、悪魔は追い詰められていたのです。


「魔界で有名な、女好きのサキュバスってだーれだっ!?」


「「「メラルド」」」


 ……。


 …………。


 ………………。


 漂う沈黙のなか……ヴォーパルは、我が耳を疑っていました。

 リリー、イヴ、クロの三人の答えが寸分たがわず、しかもハモっていたことではありません。


「なっ………!? なななななななななななななななななあああっ!? なぜ貴様らが……メラルドを知っているっ!?!?」


 ヴォーパルは、親しいサキュバスである悪魔メラルドを使った問題を出しました。

 メラルドは魔界では有名でしたが、人間界では知っている者のほうが少ない存在です。


 なぜ知られていないかというと……それには理由がありました。


「なぜだっ!? なぜだっ!? なぜだぁっ!? メラルドの正体を知る人間は、例外なく彼女の傀儡となっているはずなのにっ!?!?」


 そうなのです。サキュバスであるメラルドは人間界で暮らしていますが、彼女が悪魔であることを知る者はいません。

 正体を知ったとたん……例外なく彼女に魅了され、操り人形にされてしまうからです。


 ヴォーパルは驚愕のあまり、少女たちが神や上級悪魔のように見えていました。

 及びもつかない存在を前にしたかのように、じりじりと後ずさります。


「……はっ!? ま……まさか……! 聞いたことがあるぞ……! かつてひとりだけ、メラルドの魅了にかからなかった勇者が存在すると……!? まさか貴様らのひとりがそうなのかっ……!?!?」


 ヴォーパルはキッと、クロを睨みつけます。

 ナゾナゾ勝負の最中、ただ者ではない立ちふるまいを幾度となく見せつけられ……彼女しかいないと確信していたのです。


「い……いやぁ~照れるなぁ」


 しかし予想は大外れ……!

 緩んだ顔の少女が、照れくさそうに後ろ頭を掻いているではありませんか……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★クリックして、この小説を応援していただけると助かります!
小説家になろう 勝手にランキング
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=680037364&s script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ