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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
聖剣ぶらり旅
172/315

02

 洞窟で見つけた、岩に刺さった剣。偶然にもそれを抜いてしまった見習い勇者のリリー。

 これほどの業物を手にしたのであれば、冒険者であるならば誰もが勇猛な雄叫びとともに天に掲げたくなるはずなのだが、その場にいる誰もが固まってしまっていた。


 しばらくして、


「「「「「えええええーーーーーーーっ!?!?!?」」」」」


 重なった五つの驚愕が、洞窟内に響きわたる。

 仲間たちはざっと勇者の元に詰め寄った。


「アンタ、いったいなにやったのよっ!?」


「わ、わかんない! 抜くつもりなんてなくて、軽く触っただけなのに抜けちゃったぁ!?」


「抜いたのはキミなの!? なんてことしてくれたんだ!」


「ご、ごめん、でも抜くつもりはなかったんだって!」


「リリーちゃんすごーい! どうやったの~?」


「え、えっと、グリップの握り心地を確かめようと思って手をかけたら、抜けちゃって……え、えっと、抜くつもりはなかったんだよ?」


「あ、あの、お身体のほうはお変わりありませんか?」


「あ、……う、うん、びっくりしちゃったけど、それ以外はなんともないよ」


「びっくりしたのはこっちだよ! まったく! キミみたいな子供が抜いていい剣じゃないんだよ!? ボクは!」


「あぁん、だからわざとじゃないんだって! 抜くつもりはなかったんだよぉ!」


 リリーは泣きそうな声で必死に弁明するが、途中で「ん?」と違和感に気づいた。


「……なんだか聞いたことない女の子の声がしたんだけど……」


 「そういえば……」と仲間たちも顔を見合わせる。


 質問責めにあってつい普通に返事してしまったが、明らかにイヴでも、ミントでも、シロでも、クロでもない声を確かに聞いた。

 周囲を見回してみたが、声の主らしき者の姿は見当たらない。


 この洞窟は外の入口から剣のあった場所までは一直線だった。今いる場所も小部屋のように狭く、誰かが隠れられそうな場所はない。

 リリーは床はもちろん、天井まで見上げて声の主を探していたが、ふとある考えが浮かんだ。


 あ……もしかしたらさっきの声ってクロちゃんのだったりして。クロちゃんがテンション高くなったらあんな声になっちゃうとか。

 ……クロちゃんがテンション高くなったところなんて一度も見たことないけど……。


「もしかして……さっきの声、クロちゃん?」


 ダメ元で尋ねてみる。

 仲間の魔法使いはリリーの手にある聖剣に視線を固定したままで、首をフルフルと左右に振った。

 表情はハイテンションとは程遠い、長期保存したような無味乾燥のままだ。


 最後の可能性が潰えてしまったリリーは、一番したくなかった方向に想像を巡らせる。


「じゃあ、一体誰が……? も、もしかして幽霊……?」


 ゾッと背筋が寒くなるより早く、


「……いい加減にしろーーーっ!!」


 突っ込みを入れるかのような、スパーンと小気味よいビンタがリリーの頬に炸裂した。

 想像しなかった方向から手が飛んできたので、リリーは思わず目を白黒させてしまった。


 信じられないように何度も瞬きする瞳の先には……逆手に握った聖剣が。


 柄頭に埋め込まれたふたつの宝石が眼球のようにギョロリと動き、翼のような鍔を腕みたいにブンブン振り回している。

 まるで生き物のように動く「聖剣」がそこにはあった。


 しばらくして、


「「「「えええええーーーーーーーっ!?!?!?」」」」


 重なった四つの驚愕が、再び洞窟内に響きわたった。

 しゃべって動く剣にリリーは頬の痛みも忘れる衝撃を受けていたが、なんとか言葉を絞り出す。


「けっ……剣がしゃべった!?」


 聖剣はその言葉に反応し、柄頭をまるで耳があるように動かし、埋め込まれた宝石を睨みつけるように半開きに釣り上げた。


「ああっ、ボクを無視してるなと思ったら……さてはそのへんの剣と一緒にしてたなぁーっ!?」


 口らしきものは柄には見当たらなかったが、もはや幻聴を疑いようがないほどハッキリと言葉を発する。


「う、うん……」


 としか返事のしようがないリリー。

 そのまま二の句が告げずにいたが、見かねたイヴが割り込んできた。


「そのへんのじゃなくても普通、剣はしゃべらないわよ!」


 聖剣はイヴをチラリと見やったあと、翼の形をした鍔の片側を突き付け、チッチッチッと左右に振った。


「フフン、ボクを何だと思ってるんだい? あの女神ミルヴァルメルシルソルド様が創りし剣……『聖麗剣(せいれいけん)ウォールナッツ』だよ!」


 「すごーい!」と飛び跳ねるミント。聖剣はその反応に気を良くする。

 しかしミント自身は聖剣の言葉を半分も理解していなかった。それでもかぶりつきで質問を続ける。


「ミルヴァちゃんがつくったの~?」


「そうだけど、ミルヴァちゃんって……見習い冒険者のくせして女神様のこと、ずいぶん気安く呼ぶんだね」


 ミントを見下ろす聖剣の声には皮肉がありありと込められていた。

 しかしミントにはそういった類のものは一切通用せず、


「ミルヴァちゃんはおともだちだもーん!」


 とむしろ嬉しそうにピョンピョン跳ねていた。


「はいはい、わかったわかった。ボクにはキミたちみたいな見習い冒険者と遊んでるヒマはないんだよ。ボクは女神様の剣として共に戦わなくちゃいけない大切な使命があるんだ。だから来るべき時のためにここで力を蓄えていたってのに……」


 子供に仕事を邪魔された大人のように、ヤレヤレと呆れた様子で両手をあげて肩をすくめるようなポーズをとる。

 しかし途中で何かに気付いて唸りながら腕を組んだ。


「うう~ん? でも、変だぞ……ボクは女神様にしか抜けないはずなのに、なんで見習い冒険者なんかに抜かれちゃったんだろう。それに……この洞窟は岩戸で閉じられていて、女神様が近づかないと開かないはずなのに……」


「岩戸なんてなかったわよ」


 イヴが横から口を挟んだが、聞いているのか聞いていないのかわからない様子でうんうん唸り続けている。

 無視されて気に障ったのか、イヴはフンとそっぽを向いてしまった。


 リリーはもうどうしていいのかわからず、戸惑いながらも声をかけてみた。


「……考えてるところ邪魔してごめんね、ちょっといい?」


 しかし聖剣は、フテ寝している犬のように唸るばかりでこちらを向こうともしない。


「えーっと、聞いてる? クルミちゃん?」


 他人のひそひそ話の中に自分の悪口を聞いたかのように、聖剣はキッと反応した。


「くるみちゃんっ!?」


「ナントカ剣ウォールナッツって呼びづらいから、クルミちゃんでいいかなと思って」


 リリーは悪びれた様子もなく言う。

 すぐにアダ名をつけるのは良くも悪くも彼女のクセだ。ただそれは相手ともっと仲良くなりたいという純粋な好意によるものだ。悪意は砂漠の水ほども含まれていない。

 リリー的には素敵な愛称のつもりだったのだが、聖剣は威嚇するように両鍔を振り上げ声を荒げた。


「よくないよ!? 会ったばかりなのになんで勝手な名前で呼ぶのさ!? これから親しくなるわけでもないのに! もういいからボクを元の所に戻してよ! 戻したらとっととどこかへ行って! あ、ここのことは誰にも言っちゃダメだよ!」


 美しき剣はその見た目にふさわしい気位の高さも持ちあわせているのか、リリーたちのような低レベル冒険者では取り付く島もなかった。


「わ、わかったよ……」


 しゃべる剣なんて生まれて初めてだったので、いろいろお話したかったのに……とリリーは思っていたのだが、渋々と剣を戻す。


「……あれ? 穴がない」


「えー、またまた嘘ばっかり」


 リリーの言葉を一蹴しつつ、聖剣は床に視線を落とした。


「ああっ!? ホントだ! 穴が塞がっちゃってるーっ!?」


 驚きのあまり、刀身が釣られた魚のように大きく跳ねあがる。

 いきなり暴れたのでリリーは剣を手離してしまったが、地面に落ちる寸前になんとか受け止めなおす。


 リリーの両腕に赤子のように抱えられた聖剣は、ショックのあまり宝石から光を失い、ガラス玉のようになった瞳で呆然としていた。

 が、わずかな時間で元の輝きを取り戻す。


「わ……わかった! 全部わかっちゃった……! 来たんだ、来るべき時が来たんだ……! だから岩戸が開いて、見習い冒険者の手でもボクを抜くことができちゃったんだ……! 穴が塞がったのも、ここを出て行く時が来たからに違いないっ……!」


 なにやら腑に落ちた様子で、宝石の瞳をより一層キラキラと輝かせていた。

 そして思い立ったかのようにがばっと上体を起こす。


「ねぇねぇ! キミ、リリーだっけ?」


 刀身は鋼鉄かなにかで出来ているのかと思ったがそうではないようで、まるで腰があるかのように途中でぐにゃりと曲がっている。


「女神様と友達だってさっき言ってたよね? よし、ボクを女神様のところに連れてって!」


 それは相手にお願いするような、尋ねるニュアンスは一切含まれておらず……むしろ命令に近い言い切り型のキッパリした言葉だった。

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