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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
偶像崇拝
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24 リリー

 悪夢にうなされるあまり転げまわった挙句、壁に激突して私はようやく目覚めることができた。

 汗だくだ。起き上がると寝汗の域をこえた量の汗の雫がしたたり落ちる。


 ああ……すっごく痛くて、キツくて、苦しかった……。

 強いモンスターほど人間を嬲り殺すというのは聞いたことがあるけど本当だったんだ。

 より苦しめられて殺されるほど復活までの苦しみも大きいというのも学校で習ったけど、それも本当だと確認できた。


 あのオバケ鎧から長いこと追い立てられ、肉体的にも精神的にもさんざん傷めつけられたところでイヴちゃんに会ったものだから、思わず大泣きしてしまった。

 そこで私は限界を迎えてしまった気がする。首を締められながら薄れゆく意識のなかで最後に見たのはイヴちゃんの顔だった。


 私が死ぬ寸前のイヴちゃんはどんな顔してたんだろう……よく思い出せないや。


 結局またふりだしに戻っちゃったけど……我ながらそれほど落ち込んではいなかった。いや、むしろ今まで以上にやる気がわいてきている気がする。

 たぶん、ふたつの大きな進展があったからだろう。


 まずひとつめは悪食トロールを倒したこと。

 さらなる強敵にも出会っちゃったけど、あの気持ち悪いのに悩まされなくてすむと思うとだいぶ気が楽になる。


 そしてふたつめはイヴちゃんと出会えたこと。きっと私を助けに来てくれたんだ!

 イヴちゃんがいるということはミントちゃんもシロちゃんもクロちゃんも来ているということだ。

 きっとみんなで私を助けに来てくれたんだ……!!


 久々に会ったというのにイヴちゃんは怒ってたけど、そんなのも気にならなくなるくらい私にとっては大きな希望を得られた気分だ。

 もしかしたらこのまま一生この塔で暮らすことになるんじゃないかと思ったりもしたが、もうそんなことを心配する必要はない。


 いまの私は大船に乗った気分。だっていままでみんなといろんな困難を乗り越えてきたんだもん。


 リンゴ畑を荒らすゴブリン退治からはじまって、果ては悪魔の手から村を守ったりもしたんだ。

 失敗もたくさんあったけど、そんなのは些細なことだってくらいに楽しいことがいっぱいあった。


 イヴちゃん、ミントちゃん、シロちゃん、クロちゃん……みんながいれば、できないことなんてなにもない。

 だから私は……ずっとみんなと一緒にいたい……! みんなともっともっといろんな冒険したいっ……!!


 それ以上に凄くて楽しくて、ドキドキワクワクするモノなんて、この世にあるもんか。

 そう、例えば……伝説の剣が地面に刺さってて、その隣にイヴちゃんミントちゃんシロちゃんクロちゃんが揃って首だけ出して地面に埋まってたとして……どっちか一方を選べと言われたら私は躊躇なくみんなを引っこ抜く。


 そうだ。そうなのだ。いつまでもこんなところでくすぶってる場合じゃない。みんなが待ってるんだ!

 すぐにでも会いに行きたいけど……まずはロサーナさんに討伐報告に行こう!!


 颯爽と食堂に向かうと、お昼ごはんが出るのを今か今かと待つロサーナさんがいた。

 早速報告しようと近づいた途端しかめっ面で鼻をつまんだままシッシッとやられてしまった。


 それで自分の身体がかなり臭かったことに気づく。

 悪食トロールと押しくらまんじゅうをしたせいで体液を全身に浴びたせいだ。

 死んだ状態から復活してもニオイは残るのか……ってドレスについた汚れや破れもそのまんまだ。


 このままじゃ聞いてもらえそうになかったので先に浴室に行ってシャワーを浴びた。ボロボロのドレスを脱ぎ新しいのに着替える。

 ドレスを選ぶのは人生でこれで二度目だけど、なんだか以前よりも心なしか楽しい気がした。


 ……少しは大人の女になれたのかもしれない。


 以前着ていたドレスがシルクで肌触りが良かったので似た感触のを着てみることにした。色はもちろん青。


 さっぱりした気分で食堂に戻るとお昼ごはんが出てきていた。今日はラザニアだ。

 実においしそうだけど大きさがウエディングケーキくらいある。


 料理のいいニオイをかぐとお腹がぐーぐー鳴りだしたので早速いただくことにする。

 巨大なラザニアタワーを挟んでロサーナさんの対面に座った私はフォークでタワーを突き崩しながら悪食トロールを倒すまでの出来事を話した。


「……ふん、ほとんど偶然みたいだけど、倒したのは本当みたいだね」


 長く伸びるチーズを引っ張りながら、ついにロサーナさんは認めてくれた。


「じゃあ、約束どおり……」


「ああ、手助けしてやるよ」


「やった! ありがとう!」


 伝説の勇者に認められたのが嬉しくなって、私はカットケーキ大に切ったラザニアを豪快に頬張った。

 ミルフィーユ状に重ねられた生地のほどよい歯ごたえが気持ちいい。

 噛みしめるとやわらかいクリームのようなチーズのコクのある塩味と、酸味と甘みのきいたミートソースの味が口いっぱいに広がる。


 これを監聴室で聞いた女の子たちが作ってくれたんだ……ブツクサ言ってたような気もするけど、すごいいい仕事だ……女の子たちの中にシロちゃんみたいに料理な得意な女の子がいるのかもしれない。


 こんな美味しいものを作ってくれたのに、罰を与えちゃってゴメンね……としみじみとする。


「で、悪食トロールは倒したんだろう? その後はどいつにやられたんだい?」


 ラザニアを飲み込んだ私は、トロールを倒した後の出来事を話した。

 黒い鎧のオバケに追いかけられて、首を締められて殺されたことを。


「ああ、そりゃ不変かわらずのヴァンターギュだね」


 ロサーナさんなら何か知ってるだろうとは思ったが、その口から出てきた正体は意外なものだった。


「えっ、ロサーナさんが言ってた魔王の手下の? ……やっつけたんじゃないの?」


「魔王の手下ってのはそうカンタンには死なないみたいでね。肉体は殺してやったけど、アイツは霊魂だけになってこの塔をさまよってるんだ。そうやって、復活の機会を狙ってるのさ」


「復活って……どうすれば復活しちゃうの?」


「背中に死体がはりつけられてただろう? あれで人間の魂を集めてるのさ。魂が集まれば……ヤツの肉体は復活する」


「うえぇ……」


 背中の磔台にくっついていたミイラ達を思い出す。あれは魂を取られた人間の成れの果てだったのか……。

 霊魂ですらあんなにタチが悪いヤツだったのに、復活すればどんなに嫌なヤツになるんだか想像もつかない。


「ヤツはとんでもなく強いが、殺そうとはしてこない。弱らせて、捕まえて、はりつけにしたあとは死んだほうがマシなくらいの苦痛をずっと与えつづけるんだ。そしてもう殺してくれと思った瞬間、ヤツの霊魂に取り込まれちまう。そしたら最後、肉体復活の贄となり、永遠の苦しみを受け続けるのさ」


「ええ……っ!?」


「怖気づいたかい?」


「ううん。それよりも早くみんなに教えないと!」


 怖気づいてないといえばウソになるけど、それ以上に大変なことに気づいて私は椅子から立ち上がった。


「みんな?」


「うん、私のパーティが来てて、死ぬ直前に会ったんだよ!」


 私が助けを求めたときのイヴちゃんのリアクションは相変わらず素っ気なかったけど、おそらく塔の中に入ってくるだろう。

 そこでヴァンターギュと出会ったら、大変なことになっちゃう!


 死に方にもよるけど復活には時間がかかる。だから私が死んでからすでに何時間かたってるはず。もしかしたらもうみんなは塔の中にいるかもしれない。だから急がなきゃ!!


「行く気かい? 捕まったら地獄の責苦を味わうことになるよ? そのうえ魂を取られたら復活すらできなくなるよ?」


「うっ……お、おどかさないでよぉ!」


「ヴァンターギュはここにまだ人間がいると知ったんだ。きっといまごろ必死になってリリーを探してる。そこに飛び込んでいくのは生贄になりに行くようなもんだね」


 私があの磔台に縛られてる姿を想像して、思いとどまりそうになる。

 しかし同時にみんなが磔台で苦しんでいる姿も浮かんできた。


 どっちがいいかっていうと……どっちもやだけど……少なくとも後者は絶対にいやだ!!


「う……うう~っ! で……でも行くっ!! だってみんなが待ってるんだもん!!」


 叫ぶと迷いが吹っ切れた。もうアレコレ悩んでる場合じゃない。

 私は椅子を吹き飛ばす勢いで食卓から離れると、部屋の隅にほっぽっておいた洗面器の兜と戸板の盾と鉄棒の剣を手早く身につけた。

 ロサーナさんの制止をふりきり、部屋を飛び出す。


 滑り落ちるような勢いで階段を駆け下り、呪印の扉を蹴破る勢いで開け、昇降機のあるホールへと転がり込んだ。


 中央にはぽっかり空いた穴。覗きこむと合わせ鏡のように同じフロアがずっと下へ続いている。

 底が見えないあまりの高さに思わずクラクラしてしまって、穴に吸い込まれそうになる。


 ここからうまく飛び降りて、悪食トロールの死体の上に着地できれば一気に下までいける。

 さっきは偶然そうなったけど、それをもう一度やろうってわけだ。


 でも……そううまくいくかなぁ?


 仮にうまくいったとしても、同じフロアには魔王の手下である『不変かわらずのヴァンターギュ』がまだいるかもしれない。


 それに……こんな高いところから、自らの意思で飛び降りるなんてかなり勇気がいる……ほとんど自殺じゃないか。


 食堂から飛び出したころの威勢はどこへやら、いざやってみるとなると躊躇してしまう。

 そりゃそうだ。奇跡的な偶然しかよりどころがないのに、こんな高さから飛び降りるなんて無謀すぎる。


 完全に臆病風に吹かれてしまった私はじりじりと後ずさりする。

 やっぱり飛び降りるのはやめて、別の方法を……なんて思ったそのとき、


「ぬんどりゃあああああああああああああああああああーーーーーーーーっっっ!!!!!」


 地の底から噴火するような轟声が突き上げてきた。びっくりして垂直跳びしてしまう。


 あの呂律がまわらなくなった鬼神の絶叫みたいな声……イヴちゃんだ……間違いない、イヴちゃんの闘気術だ……!!

 イヴちゃんはモンスターと戦うとき、変な雄叫びをあげて相手を威嚇する。彼女に言わせると『闘気術』という戦いの気勢を操るワザらしい。


 なんにしてもイヴちゃんがこの塔に来てる……! そして闘気術を使うってことは今まさにモンスターと戦おうとしてるんだ……!!


「イヴちゃん……イヴちゃん……!」


 激しい情念が湧き上がり、突き動かされる。


「イヴちゃんイヴちゃんイヴちゃんイヴちゃん……!!」


 いてもたってもいられなくなった私は、後ずさった分だけ助走をつけ、


「イヴちゃあーんっ!!!」


 ほとんど衝動的に、穴に飛び込んでいた。

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