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第2王子の病を治したら婚約破棄されたので、伯爵令嬢の身分を捨てて国外逃亡します!!  作者: 弓立歩


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サイドストーリー 侵入、貴族の邸

某邸にて


コンコン


「誰だ!今執務中だ!」


「旦那様…私です」


「ん、貴様か。直ぐ開ける」


ガチャリ


執務室の扉を開け、迎え入れる。あの方からの依頼とはいえ、このような者たちに通じなければならないとは。


「ありがとうございます。見つかるかとひやひやしました」


「無駄口はいい?報告を」


「はっ!あの女は問題なく事が進んでいると。報酬もこの通り貰ったようです」


「おお、これであの方もお喜びになる。でかしたぞ!それで、あとを付けられたりしてはいないだろうな?」


「無論です。気配の一つもありませんでした」


よし、これで我が家も安泰…いや推薦ももらえるかもしれぬ。いよいよあの方とも爵位が並ぶ日が来るとは…。


「くっくっくっ…」


「どうかなさいましたか?」


「な、何でもない。ご苦労だった。依頼金はこれだ、それとなかなかの働きだった。これも持って行くがいい」


そういうと奥の棚にある宝石から一つを渡す。ブルーサファイアの中でもとびきりのものだ。しかし、これから爵位が上がればいくつでも買えるだろう。


「あ、ありがとうございます」


そういうと男は出ていった。後はあの方に報告だけだ。


「バルバード!バルバードはおるか!」


「はっ!何用でございますか?」


「今夜ちと、集まりが出来た。あまり目立ちたくない故、腕利きを2人手配せよ。それとバルドロを呼べ」


「バルドロですか?」


「そうだ!」


バルドロは最近入った執事見習いだが、先ほどの奴と同じ組織の人間だ。そして、あの方との連絡係でもある。バルドロに連絡事項を伝え、夜まで執務をして過ごす。ああ、その時が待ち遠しい…。


「ようやく執務が終わったか。相変わらず面倒な作業だ。バルバードめ、俺に押し付けおって!」


全く、今回の功績が認められれば、首にしてやる。それはそうともうよい時間だな。行くとしよう…。


「バルバード出掛けてくる!」


「お戻りは何時頃になりましょうか?」


「用が終われば帰ってくる!行くぞ!」


バルバードの雇った護衛を付けて夜の邸を出る。服装もそうとはわからぬように着替えてある。


「気配を消してついてこい」


「はっ」


まずは裏手に回る。そして、奥へと進んで左右右真っすぐ右左と進み左手のドアを開ける。


「よしここだな。これ以外の手順だと入れないらしいからな」


「お待ちしておりました」


出てきたのは執事とは思えない男だ。しかし、あの方の邸にいる以上は重要人物なのだろう。


「お付きの方はご苦労様です。この方は我々が送り届けますので…」


「しかし、依頼が…」


折角雇ったが、こう言われては仕方ない。


「言われた通りにしろ。事情は説明して金はきちんと払ってやる」


「ははっ」


恭しく、ひざまずくと彼らは立ち上がって出ていく。


「これで話に入れますね。こちらへどうぞ」


案内された部屋にはあの方がおられた。これで俺も安心できるというものだ。


「よくぞ来てくれた、ギュシュテン伯爵。首尾よく完遂できたようだな」


「ははっ、小娘が国外逃亡したときは肝が冷えましたが、無事に潜り込ませられました」


「後は、レスター王子を暗殺すれば御しやすい王子のみ。それであれば簡単に政治は我らの手に」


「そうでございますな。アルター侯爵家の悲願、我らも応援しております」


「うむ、これが成ればアルター家が王家に連なる家になることも可能だ」


「その節には…」


「うむ、貴様を侯爵にしてやろう」


「では、侯爵様。我らにも…」


「…ああ、分かっている!これまでの働きの分だな。おい!」


使用人が入ってきて、大きな袋を一つ案内人の前においた。


「最初の依頼いただいた約束より少ないようですが…」


「ふん、貴様らにこれ以上は不要だろう。我が家が政治を抑えた暁には、貴様らにも、もっと働いてもらわんといかぬだろうしな」


「ひとまずは今回の分をお納めいただきたいのですが?」


「ほう、逆らう気か?ならば、貴様らとの関係もここまでだな。明日にも一掃してくれよう!」


「殺気…誰だ!」




数時間前

「お呼びだてしまって申し訳ありません男爵殿」


「構わんシリウス。それでどちらの家だと思っている?」


「まあ、子爵家に話を持ち込むのが子爵家である可能性は低いかと。いくら、上からの伝令としても矜持があるでしょう」


「では、伯爵家だな。もう押さえられるとなれば合図を送れ。すぐに突入できるように連絡する」


「男爵殿はどうなさるので?」


「ずっと領地で政務は疲れるものだ。陛下の為にもなるとあれば、体を動かすのも良いと思ってな」


「では、分かり易いものにしますよ」


そして少し待つと、伯爵の邸に2人の男が入っていった。伯爵家が雇うにしてはなかなかの手練れだろう。


「では、手はず通り…」


気配が一つ消えて、1人になる。後は獲物が動き出すのを待つだけだ。あたりが暗くなって少し、邸の方で動きが見られた。裏口から出ていくのが見える。


「あれでも一応変装のつもりか?あんな格好で貴族街にいる方が不審者だが?」


まるで街人のような格好だが、かえって目立つ。貴族でないと印象付けたいのだろうがそれでもどうかと思うが…。そして、歩き出した一行はおかしな動き方をして歩いていく。


「あれは、魔術を使った歩き方だな。預かった魔道具で特殊な陣を作り場所を特定させない気か…」


ならば、面倒だがあいつらの体から出る微弱な魔力を頭に叩き込むか。…予想通り、目に見える移動と全く違うところに行く特殊な魔術がかかっていたようだ。裏から左手に一直線に進んだ邸に反応がある。


「さしもの身分という事だな」


ヒュン


闇に紛れ該当の邸に忍び込む。所詮は入場制限をかけただけの魔術。王都にあって過剰な魔術防壁をはることはできず、侵入は容易だった。後は気配を辿り、会話を聞くだけだ。


「…アルター侯爵家の悲願、我らも応援しております」


肝心な話は無しか。これなら最悪は突入前に処理して事後追認させるしかないな。そう思っていたが、闇ギルドとの報酬の件でもめている様だ。彼らは依頼を受けた後は信義に足るものだ。これは使えるかもしれんな…。


「はっ」


声には出さずに、一気に殺気を立ち昇らせる。これで、あのギルドの人間も気づくだろう。


「誰だ!」


シュタッ


「助けてやろうと思ってな。証言台に立てばだが…」


「貴様は?」


「ローデンブルグといえばわかるだろう…」


「し、死神か…」


「貴様、我が邸に仲間を連れ込むとは!やはり、なにか企んでおったな。護衛よ!戦えるものを集めろ!!」


「はっ!皆のものここへ!!」


ドタドタ


「ち、近づいてくるぞ…」


「構わん」


ヒュ


ドサ


「ひ、ひぃ」


まずは一人。ろくでもない腕だ。


バン


「侯爵様、伯爵様もこちらへ」


「おお!」


「た、助かった」


公爵たちが部屋の隅へ避難する。まぁ、正体が分かった以上、逃げてもどうということもない。逃げられるならだが。


「10人か、えらく警備の薄い邸だ」


「こっちは二人だぞ!」


「奥で隠れていろ!邪魔だ」


男を奥に逃がし対峙する。


「この人数相手に1人とは愚かな…かかれ!」


ヒュン


ザクッ


勢いよく飛び出した2人が地に臥せる。


「な、なんだ!?何が起こった…」


「数刻ぶりだな。殺気とは実に分かり易い合図だ」


「き、貴様はローデンブルグ男爵!」


「お久しぶりですな、アルター侯爵。パーティーは欠席の為、1年ぶりぐらいでしょうか?」


「これはどういうことだ?いかに貴様でもこのような横暴が…」


「あ、あれがローデンブルグ男爵…」


「死神…」


侯爵たちは気づいていないようだが、男爵の名前を聞いて護衛たちは震えている。噂でも我が家のことを知っているのだろう。


「ここにいる息子が誰付きの影かぐらいは侯爵でもわかるかと思うのですが…」


スッ


「私の方は初対面ですね。侯爵様」


「息子だと!そやつが!で、では王太子の…」


「だ、旦那様!や、邸が…」


「どうしたのだ!」


「王家の騎士に囲まれております…」


「なんだと!」


「どうする侯爵?これ以上抵抗して死期を早めるか?」


「侯爵様一体どうすれば…」


「うるさい!う、裏口だ。お前たちかかれ!時間を稼げ!」


「し、しかし…」


「命令だぞ、聞けんのか!」


チャキ


命令と聞けば彼らも従うほかない。この情勢下とて後がどう転ぶか判らない以上は従わざるを得ないのだ。


「愚かだな」


「行くぞ!」


キキン


キィン


2度金属同士がぶつかれば1人が地に臥せる。1分もたたぬうちに勝敗は決していた。


「ろくなものがおらんな。侯爵家の警備がこれほど手抜きとは」


「そうですね。さて…後は君の身柄だな」


「ひっ!」


闇のギルドの男に近づく。こいつが今回は要だ。


「何も命は奪わん。証言をしてもらえればな…」


「ほ、ほんとうか?いや本当ですか」


「つまらぬことは言わん。何なら依頼を出してやってもいい」


「では身柄は拘束させてもらうぞ。なに、王宮でしばらく暮らすだけだ」


「おうきゅうで・・・」


彼は頭がついてこないのか、ボケッとしていたので2人で運ぶ。


「シリウスご苦労だった」


「殿下こそ」


「彼は?」


「証言台に立つ闇ギルドの一員です。魔道具の手配をお願いしたいのですが」


「!なるほどな。手配しておこう。侯爵と伯爵は影が捕らえているから安心してくれ」


「それは安心です。では行きましょうか男爵」


「ああ」


邸の入り口には邸の人間が逃げ出す想定で大勢の騎士を、裏には影を配置していた。入り口から逃げ出せば騎士なら丁重に貴族として扱ったものを。王家に害をなした彼らを影は丁重になど扱わないというのに。


後ろを見ると騎士たちにさるぐつわをはめられた状態で、馬車に入れられている。


「万が一のことがあってもつまらんな。どっちに付く?」


「伯爵の方にしましょう」


裁判は明日にでも執り行われるだろう。もう一日は眠れそうにない。





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