サイドストーリー 成果と報酬
カノンの誘拐依頼4日後の伯爵邸
カノンをさらって来いと言って、早4日。奴らはどうしたのだ?あれだけの奴が失敗するわけもないが、なにかトラブルか?
「旦那様。本日はパーティーの為、登城する日でございます。ご準備を」
「分かっておる。全く、カノンのせいで馬車も1台になってしまった。これまでいくらかけたと思っておるのだ。詫びに何か残すのではなく奪っていきおって!」
実際はお嬢様のおかげでこの伯爵家の財政は他の領地より裕福なのだが…。
「よし、わしは王城に行く。わしを訪ねるものがあれば通しておけ!」
「はっ!いってらっしゃいませ」
ガララララ
「やれやれ、薬事省の職も外されてしまうし、このパーティーでまた、協力を取り付ける貴族を探さなければ…」
これまでの取引でも伯爵家にも関わらず、ほぼ優位に進めてこられた。このわしの力をもってすれば小娘一人いなくともすぐに元の地位に復帰して見せるわ!
彼は気づいていなかった。自分が豪華な暮らしをしているのも、交渉事がうまく進むのもここ数年のことだと。それ以前は質素な暮らしをし、辛酸をなめることも多々あったことを。
「ふむ、いつ見ても王城はいい。偉大で荘厳だ!」
何時ものように入っていく。しかし、パーティー会場に入るところで護衛騎士に止められた。
「ドルガン伯爵様ですね。こちらへ」
「う、うむ」
なんだかよくわからんが、どこかの貴族が話でもしたいのだろう。
ギィィ
ドアの先に待っていたのは宰相と国王陛下に王妃と第1王子だ。そうそうたる顔ぶれだが一体何の用件なのだ?
「よくぞ参られたなドルガン伯爵」
「いえ、陛下におかれましては…」
「ああ、挨拶はよい。この度の件だが」
「はっ!誠に申し訳ございません。娘は必ず我がも元に戻しますので…」
「出て行った件ではない。おい!」
陛下がお声をかけられると、奥から身なりの汚い男が連れてこられる。
「こいつに見覚えがあるか?」
「い、いえ。どこかの密偵でしょうか?」
「ふむ。貴様の雇ったものではないのか。宰相!」
「はっ!書状では5人いたとあり、リーダー格の男は逃亡を図ったため、その場で処理したとあります」
「何の話でしょうか?」
「黙れ!貴様のせいで隣国よりこのような書状が来ておるのだ!いらぬことをしおって!!」
バサッ
国王陛下の叩きつけた書類を手に取り読み進める。
『先日、我が国のローラント領邸にて賊の侵入あり。問いただしたところ貴国のエレステン伯爵家からの刺客とのこと。我が国の優秀なる薬師を誘拐及び殺害しようと画策し実行したと判明。また、誘拐後は貴国の行方不明の令嬢として扱おうとは不届き千万。即刻、抗議・賠償を求めるとともに、対象の貴族への厳罰を望む。これが果たせぬ場合は他国との外交も視野に入れ対応するものとする』
「分かったか、バカ者め!まさか、娘の命すら奪おうとするとは!」
「しかし、ここにある。優秀なる薬師とはカノンですぞ!」
「それを誰が証明できますか?彼女と親しいものが判断できますか?ではそれは誰でしょうか?」
「そ、それは…私は父親です!私が見ればわかります」
「それで貴公は彼女にろくな教育を与えていないという理由を与え、かの国に保護させると」
「そんなことはさせません!」
「いまさら何を言うのだ、伯爵。伯爵家が彼女を不当に扱っていたことはもはや内外に知れ渡っている。それを不当とはどこも責められぬであろう」
「そもそも、他国の領主の邸を襲撃するなど論外だ。即、宣戦布告でもおかしくなかったのだ!」
「しかし、宰相閣下。他国との外交とは第三者を挟むことになります。向こうも穏便に済ませる気です。ここで弱気になっては…」
「たわけが!」
「ひっ」
「この最後の一文は同盟国と協力し、我が国を割譲してでも許さぬという事だ!そんなこともお前は分からんのか!!」
「で、ですが、そんな簡単に他の国が応じるはずが…」
「それはあなたの娘がいなければの話です。魔力回復薬の改良に今回の『魔力病』治療薬。今後の新薬を安く卸してもらえる契約でも結べば簡単にいくでしょう。我が国の同盟国の魔導王国ですらどちらに付くか判りません」
「己のしたことが分かったか!衛兵、こやつを牢屋にぶち込んでおけ!」
「はっ!」
「お、お待ちを…」
ズルズル
「最悪な形ですが、こちらはいったん終わりですね」
「全く、あの娘の方はどうだ?」
「先日接触があったようです。もうすぐ、掴めるかと」
「今回のことで疲れたわい。早く引退したいものだ。宰相、思えば貴様の親父も楽隠居したものだな」
陛下が王妃様とともにパーティーに出席するために出て行かれる。
「だ、そうだが?」
「父も陛下と側近たちがもう少し話を聞いてくれれば、心労で倒れることもなかったのでしょうが…」
「復帰はやはり無理か?」
「どこかの閑職にひっそりと付けて裏で働いてもらうぐらいでしょう。表立っては無理です」
「親子で世話をかけるな」
「宿命と思っておきます。ですが、休日だけは今度いただきたいです」
「折を見て陛下には話しておこう」
数日前・エディン
あ~、びっくりした。なんだかよくわからなかったけど褒美がもらえるなんて流石、王族よね。後は、あいつに接触するだけなんだけど、もう一度、あそこに行ってみようかしら…。
「も~、なんで来ないのよ!もう3日も行ってるのに!そうか…きっと前払いで全額報酬だと思ったんだわ!あんな平民どもには過ぎた金よね。そうと決まればこの王様から頂いたお金もさっさと使おうかしら。どうせ、これっきりってこともないだろうし」
まるで、王に問い詰められたことなどなかったかのようにふるまうエディン。彼女はその美貌でこれまでも問題を起こしても大きく処分されることはなかったため、今回も同じだと思っていた。
「お嬢様、お手紙が届いております」
「なあに、またお見合いかしら?人気者はつらいわね~。あら、差出人の名前がないわね。書き忘れかしら珍しい」
「そうなのです。不審な手紙かもしれませんので、捨てようかとも思ったのですが…」
「いいわ、今機嫌がいいから見てあげる」
そういうとメイドを下がらせ手紙を開ける。中には短くこう書かれていた。
『以前会った場所で、残りの報酬をもらう』
なぁ~んだ、覚えてたんじゃない。喜んで損した。でも、もう目的は達成してるし行かなくてもよくない?でも、変にうわさばらまかれても嫌だしね。いやぁ~正直、カノンの悪評を流した時はすぐに広まったから私も気を付けないとね。私はあいつと違って王族に嫁ぐんだから!
翌日、以前の待ち合わせ場所に行った私は違う男に出迎えられる。
「あんた誰?」
「前の奴の代わりだ。報酬を…」
「説明してもらえる?わかんなかったら渡さないわよ!」
「…あいつは次の任務で死んだ。もう来ない」
えっ、死んだ?ただのコソ泥の集まりなのに?そ、それにこいつなんだか変な感じだ。逆らわない方がいいのかも。
「さあ理由は話した」
「うっ、分かった、わかったわよ。ああ、そうそう実はね私、王宮で…」
「無駄話はいいからよこせ」
「はいはい。何よ、私の素晴らしい話の途中で…はい」
私は持っていた重い箱を男に渡す。男はそれを軽々と持ち上げると、さっさとどこかへいった。
「何よ、失礼なやつね!私を誰だと思っているのかしら」
表の世界でも闇の世界でも情報は重要だ。彼も相手を馬鹿にするだけでなく話ぐらい聞いてやるべきだったのだ。ならば、これ以上深入りせずに済んだだろう。
「あれが、交渉相手か…」
シリウスは気配が全くわからないところから様子を見ていた。会話など女に聞けばいいのだ、あとは奴の向かった先を調べればいい。
シュシュッ
あくまで気づかれないことを優先に進む。王子たちの思っていた通り、貴族街に入った男は裏手に回る。
「裏から一気に入って痕跡を消す気か?馬鹿なやつだ…」
そもそも隣り合わせた邸を見張るなど造作もない。当たりを付ける必要もない無意味な行いにある意味安堵した。
「これなら雇い主も大した奴ではないな。すぐに馬を出すとしても自分で報告するだろう」
再び来た道を戻り王城へと報告に行く。
「そうか…ギュシュテン伯爵かアーディング子爵が黒幕か…」
「いえ、両家の家格が低すぎます。例え、意図があるとしても内外どちらにも大きな報酬は望めません」
「そうだな。あいつらの内どちらかが窓口というわけか…」
「そこで一つお願いが」
「なんだ?」
「わが父、シウスをお貸しいただけないでしょうか?」
「あやつを何に使うのだ?確かに今はパーティーへ出席するために王都に居るが…」
「両家を見張るために見張りが2人必要です。伯爵家を私が、子爵家にシウスを付けて監視したいのです」
「陛下、彼らなら数人付けるよりも安心で発見もされにくいでしょう。どうでしょうか?」
「ふむ、確かにあやつなら確実にその程度はして見せるだろう。では、成果とともに知らせを待つとするか」
「それなのですが陛下。シリウスたちにはこの先の黒幕に行きついたときにどうしますか?すぐに対応いたしますか?」
「そいつが黒幕かはわからんのだろう?」
「はい、ですが…証拠を廃棄される可能性もあります」
「むぅ…それはいかんな。よし!次の連絡先で一旦捕まえても良い。わしが許可する」
「では、騎士数十名と影か暗殺者の数名を詰所に配置しておきます」
「頼んだぞ」
「はっ!」
「ああそうだ。宰相、あの女もとらえておくか。証言には事欠かないだろう」
「そうですね」
グレンデル王国の長い1日が始まった。




