エピローグ
「――おかえりなさいませ、ユリウス様」
「おかえりなしゃいましぇー!」
「ああ、ただいま二人とも」
あれから数年が過ぎました。
あの晩餐会の翌年の春に結婚した私達の間には可愛い一人息子がいます。最近歩き始めたばかりの息子は危なっかしい足取りで帰宅したユリウス様の元に走ります。そのまま抱き上げられてご満悦のようです。来年には、妹か弟か、新しい家族も増える予定です。
「アディ、体調は大丈夫か?」
「ふふ、大丈夫ですよ。心配性なんですから」
「そうか? 普通だと思うが……」
そっと私のお腹を伺いながらユリウス様が首をかしげます。昔よりずいぶんと表情が柔らかくなりました。
「騎士団長になられたのですから、家のことはご心配なく。お仕事に集中してくださいませ」
「……もしかして、結婚前に言ったことをまだ気にしているのか?」
「え?」
ユリウス様が拗ねたように言うので私はなんのことか一瞬わかりませんでした。
そして彼が私に婚約を申し込んできたときに『仕事に集中したいから、自分を好きにならない人がいい』と言ったことを思い出して思わず吹き出してしまったのです。
「まさか、そんなことありません。私も騎士団長の妻としてしっかりしなければと思っただけです」
「なら、いいが……」
「ユリウス様のお気持ちを疑ってなどいませんよ」
玄関から移動して居間のソファに座ると、最近目立つようになってきたお腹をユリウス様が優しく撫でました。息子も不思議そうに見つめています。
あれからも色々なことがありました。
ヘンリック様とサンドラ様は私やレーヴライン家への名誉棄損、王城の記憶石を無断で破棄したことや、貴族社会を騒がせたことなどの罪で王都から追放されることになりました。ヘンリック様は身分を剥奪され子爵家を継ぐことは許されず、サンドラ様も賠償金を払うためにお店を閉じることになったそうです。
今はどこで何をしているのかわかりません。
そして私はユリウス様との間に息子を授かったことをきっかけに、実家のレーヴライン家でお義母様や兄姉達との交流が増えました。もちろん、お義母様はお父様の浮気を許したわけではないようですが、それは当然のことでしょう。それでも私のことを可愛がって、母となった私を助けてくれるお義母様にはいくら感謝しても足りません。
ハンナさんとリーリアさんは変わらず私を支えてくれています。今でもとても仲良しで、時々は一緒におでかけをしています。
そしてユリウス様は騎士団長に任命されました。
そのおかげで最近はとても忙しいのですが、時間を見つけては屋敷に帰ってきて私や息子の顔を見にきてくれるのです。
俺に構うな、と言っていた姿がちょっと懐かしいです。
「……子供が生まれたら、また君の母上に見せに行こう」
「はい、そうですね……」
ユリウス様とは何度かお母さんのお墓参りへ行っていました。
二人目の孫もきっとお母さんは喜んでくれることでしょう。
「……私はとても幸せ者ですね」
「突然どうしたんだ?」
「いえ、なんだかしみじみとそう思いまして」
「そうだな、俺も同じ気持ちだ」
私の周囲には、私を助けて愛してくれる人がたくさんいます。
誰にも必要とされないお荷物だと思っていた過去の私に教えてあげたいです。
小さな息子が私のお腹を撫でながらこちらを見上げています。
今度は私がこの子達を愛していく番です。
私はそっとユリウス様と寄り添って、私のお腹を撫でる息子を見つめました。
これからもずっと、ユリウス様とこの子達のそばにいられますように。
大切な人に必要とされる温かなこの場所で、私は生きていきます。
今回で完結となります。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
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