第37話:カリアン王国に向かいます~サミュエル視点~
僕の留学が決まり、旅立ちの日が迫っていたある日。
「サミュエル、君、カリアン王国に行くのだってね。僕もカリアン王国への留学をお願いしたら、あっさり断られたよ。どうして弟の君がカリアン王国に留学が出来て、兄の僕が出来ないのだい?こんなの、おかしいと思わないかい?」
兄上が僕に文句を言って来たのだ。兄上は王太子をはく奪され、いずれは公爵の爵位をもらい家臣に降りる方向で話が進んでいる。
ただ、問題を起こした兄上に、公爵という高貴な身分を与えるのはいかがなものか、という話が出ており、こちらはまだ結論が出るまで時間がかかりそうだ。
「婚約者だったキャリーヌを捨て、他国の王女にうつつを抜かし、さらに言う事を聞かない貴族を牢にぶち込むという王族として有るまじき行為を行った兄上を、カリアン王国が受け入れる訳がないでしょう」
兄上は何を思ったのか、自分もカリアン王国に行きたい、キャリーヌとまたやり直したいと言い出したのだ。そしてカリアン王国に手紙を送ったらしいが、あっさり断られたらしい。
カリアン王国からは
“罪もない公爵家の人間に酷い仕打ちをした非道な王子を、我が国に留学させようとするとは何事か”
と、抗議の手紙まで、父上の元に届いたらしい。兄上がカリアン王国に留学の件を打診していたことを知らなかった父上は大激怒。これ以上勝手な行動を起こさない様に、厳しい管理下に置かれているところだ。
「僕はラミア殿下の口車に乗せられただけだ!それなのに…僕は別に王太子になんてそこまで興味はなかった。でも、キャリーヌと結婚できるのなら、王太子も悪くないと思っていたんだ。僕は誰よりもキャリーヌを愛していたのに…ねえ、サミュエル、キャリーヌを奪ったりしないよね?きっとキャリーヌも、きちんと話をすれば分かってくれると思うんだ」
あれほどまでにキャリーヌに酷い仕打ちをしたにもかかわらず、兄上は何を言っているのだろう。この人が兄だなんて、正直僕は恥ずかしくてたまらない。
「兄上がなんと言おうが、キャリーヌにした仕打ちを、僕は絶対に許すことはできません。もしキャリーヌに少しでも悪いと思っているのなら、もう二度とキャリーヌには関わらない事ですね」
「なんて酷い事を言うのだ。僕だってキャリーヌの幸せを思って、側妃を提案したんだ。僕は何も間違っていない!それにキャリーヌだって、あの時僕を選んでくれたんだ。それに僕たちには、7年間婚約者として過ごした大切な思い出もある。僕は絶対に、キャリーヌを諦めないから!」
そう吐き捨てると、兄上はどこかに行ってしまった。何がキャリーヌの事を思ってだ!結局自分の事しか考えてないじゃないか!
あんな兄上に構ってなんていられない!せっかくカリアン王国の王女殿下がくれたチャンス。絶対にものにしないと!
そんな思いで、カリアン王国に向かった。道中、考える事と言えばキャリーヌの事ばかり。僕がカリアン王国に行ったら、キャリーヌはどう思うかな?迷惑に思われないといいのだけれど…
キャリーヌに会える喜びと、万が一迷惑がられたらどうしようという不安が、僕の心を支配していく。それでも僕は、キャリーヌに会えるのが嬉しくてたまらない。兄上と婚約して以降、ずっと自分の気持ちを封印してきたのだ。やっと自分の気持ちを伝えられる。
そしてついに、カリアン王国についた。3ヶ月間、王宮でお世話になる事が決まっているのだ。王宮に着くと、沢山の人たちが僕を待っていてくれた。
「サミュエル殿下、よくいらしてくださいました。私がこの国の国王です。どうぞお見知りおきを」
穏やかな表情を浮かべた陛下が、挨拶をしてくれたのだ。
「カリアン王国の国王陛下、お初にお目にかかります。アラステ王国の第二王子、サミュエル・グロッサム・アラステと申します。3ヶ月間、どうぞよろしくお願いいたします」
僕も急いで挨拶をした。さらに
「サミュエル殿下、お久しぶりですわ。キャリーヌを始め、家族が大変お世話になりました。本当にありがとうございました」
僕にお礼を言って来たのは、キャリーヌの姉上だ。
「お久しぶりです、アリーナ殿。失礼いたしました、クレスティル公爵夫人。この度は兄の愚かな行いのせいで、キャリーヌを始めマディスン公爵には多大なる迷惑をかけてしまった事、本当に申し訳なく思っております。クレスティル公爵夫人におかれましても、さぞ心を痛めていた事でしょう。なんとお詫びしてよいか…」
「サミュエル殿下、頭を上げて下さい。私どもは、サミュエル殿下に感謝しているのです。やはりアラステ王国には、サミュエル殿下の様な方が国王になって頂かないと。それにキャリーヌの件も、ご配慮して頂いたと聞いております。本当にありがとうございました」
何度も僕に頭を下げるクレスティル公爵夫人。そういえばキャリーヌの姿が見えない。
「あの…キャリーヌは?」
もしかして僕の事を、歓迎していないのかもしれない。そんな不安が、僕を襲ったのだった。




