第29話:ミリアム様とお姉様から話を聞きました
「キャリーヌ様を追って、わざわざカリアン王国までいらしたのですか?まあ、なんて素敵なのでしょう」
「本当に。まるでおとぎ話の王子様とお姫様みたいですわ。キャリーヌ様、よかったですわね」
なぜか近くにいた令嬢たちが、キャーキャー騒いでいる。
「あの…皆様…」
「皆様、落ち着いて下さい。キャリーヌも急にサミュエル殿下がいらして、困惑しているでしょうし。私達は静かに見守りましょう」
ミリアム様が、必死に皆をなだめてくれている。とにかく一度頭を整理しないと!
ただ、その後の授業もほとんど集中する事が出来なかった。
そしてお昼休み。
「ミリアム様、今日は2人で食事をしましょう」
「え…キャリーヌ…」
授業が終わると同時に、ミリアム様の手を掴むと、急ぎ足で教室を出た。そして…
「ミリアム様は、サミュエル殿下がこの国にいらっしゃることを、知っていたのですよね?どうして教えて下さらなかったのですか?」
「落ち着いて、キャリーヌ。私はね、キャリーヌに幸せになって欲しいと思っているの。キャリーヌは、サミュエル殿下の事が好きなのでしょう?彼もキャリーヌの事を、とても大切に思っているみたいだし。それに何よりも、キャリーヌの気持ちを大切にしたいとおっしゃってね。公爵令嬢でもあるキャリーヌを、無理やり国に帰すことも出来たのに。同じ兄弟でも、こうも違うだなんてね」
「確かにサミュエル殿下は、とても優しくて正義感に溢れ、魅力的な方です。でも…私は彼ではなく、兄のジェイデン殿下を選んだのです。そんな私が、今更サミュエル殿下とだなんて…」
どの面下げて、サミュエル殿下の元にいけというのだ。
「キャリーヌ、あなたは公爵令嬢でしょう?当時8歳だったあなたが、あの状況下でジェイデン殿下を選ばない事なんて出来なったのではなくって?昨日、サミュエル殿下から色々と話を聞いたの。キャリーヌは悪くないわ。それよりもあの元王太子よ。周りを味方に付けて、当時8歳のキャリーヌに圧をかけるだなんて。その上、結局キャリーヌを捨てた!絶対にあの元王太子、許せない。八つ裂きにしてやりたいくらいよ!」
珍しくミリアム様が、顔を赤くして怒っている。もしかして私の為に、色々と我が国の事を調べて下さったのかしら?
「ミリアム様、私の為に怒って下さり、ありがとうございます。ですが私は…」
「私は別に、あなたの為に怒っている訳では…て、またダメな癖が出てしまったわ…私はね、ただキャリーヌに幸せになって欲しいだけなの。ただそれだけよ。だからどうか、サミュエル殿下としっかり向き合ってみて」
きっとミリアム様なりに、私の幸せを考えて動いて下さったのだろう。こんな風に私の為に動いてくれる友人がいる、その事がなんだか嬉しい。
「ありがとうございます、ミリアム様。正直まだ混乱しておりますが、一度サミュエル殿下の事も含め、どうするべきなのか考えてみますわ」
とはいえ、私はどうしたらいいのだろう。
まだ心が落ち着かない中、午後の授業を終え、屋敷に戻ってきた。
「キャリーヌ、おかえりなさい。あら?浮かない顔をしてどうしたの?」
お姉様が不安そうな顔をして駆け寄ってきた。
「お姉様は、サミュエル殿下がこの国に留学してくることを、知っていたのですか?」
きっと知っていたのだろう。ミリアム様も知っていたし、知らないのは私だけだったみたい。
「サミュエル殿下の事?ええ、知っていたわ。ごめんなさい、あなたに話そうかと思ったのだけれど、なんだか話しづらくてね。結局当日になってしまったの。兄でもあるジェイデン殿下から、酷い仕打ちを受けたキャリーヌだもの。もう王太子殿下の婚約者なんて、懲り懲りよね?」
確かにジェイデン殿下からは、酷い仕打ちを受けた。でも…
「サミュエル殿下は、私やお父様たち家族を助けて下さったのでしょう?でも私は…あんなに優しかったサミュエル殿下を裏切って、王太子でもあるジェイデン殿下を選んだのです。ですから…」
「あなた、まだその事を気にしているの?あれはあなたに決定権はなかったわ。そんな事、アラステ王国の貴族なら、みんな知っている事よ。それからね、サミュエル殿下は、あなたを誰よりも大切に思って下さっているの。今回の留学だってそうよ」
「どうしてサミュエル殿下が留学してくることが、私を思っての事なのですか?」
お姉様の言っていることが、さっぱりわからない。
「実はね、アラステ王国の貴族たちは、今すぐにでも優秀で既に王妃教育を終えているキャリーヌを国に連れ戻し、サミュエル殿下と婚約をと声を上げたの。でもね、サミュエル殿下は
“キャリーヌは兄上から散々酷い仕打ちを受け、国を出たのです。それなのに、彼女の意思を無視して僕の婚約者にするだなんて。そんな非道な事、僕は出来ません。僕はキャリーヌの意思で、僕を選んで欲しいのです。ですから、どうか僕に時間をください”
そう訴えたの。それで自らカリアン王国に留学の交渉をしたのよ。もちろん、その間に必死に貴族たちも説得した。その結果、3ヶ月の留学が決まったのですって。本当は半年を希望していたらしいけれど、さすがに王太子に内定している方が、半年も国を離れる事は出来ないでしょう?」
サミュエル殿下が、そんな事を…
彼らしいわ。サミュエル殿下は、いつも私の事を考えて下さっていた。
でも、私は…
「サミュエル殿下のお陰で、キャリーヌも3ヶ月の考える時間が出来たのだもの。ゆっくり考えなさい」
そう言ってほほ笑んだお姉様。
サミュエル殿下の気持ちは、ものすごく嬉しい。でも、どうしても私は、彼を選ばなかった罪悪感が残っている。私はどうすればいいのだろう…
次回、サミュエル視点です。
よろしくお願いしますm(__)m




