第46話 魔王と冒険者!
俺に向かって拳を構えるホムンクルス……フィオナを見ながら、俺も拳を構えた。【因果応報】は接近戦では使いにくい。というのも、反撃機能によってダメージを相手に返した時、そのダメージで相手が変に動くからだ。
動きが読みづらい、というのはそれだけで戦いづらさに直結する。
だから、俺は心の中で反撃機能をOFFにした。
「……シッ」
息を吐くと同時に地面を蹴って、接近。遠くから聞こえてくるエマの歌声に合わせて、右足を地面に設置させると同時にターン。くるりと回って、左足でフィオナの身体に回し蹴りを叩き込む。
「ふっ」
だが、俺の体重がのった一撃を彼女は腕一本でガード。
流石はホムンクルス、人間技じゃない。だから、俺は足を降ろすと同時に拳を振るう。一撃、二撃、三撃目を連続して叩き込むがフィオナはそれを防ぐ。だが、攻勢には転じない。
……時間稼ぎが目的だ。
「フェリ! 後を任せた!」
「……ッ! 了解です!!」
だから、ここは彼女に託す。
俺はフィオナの身体を蹴り上げて、宙に浮かせるとそのままダッシュ。柊ツバサが去っていった廊下を駆けだした。
「だ、れが、逃がすかッ!!」
フィオナは空中でターン。屋根を蹴って、俺に向かって飛び蹴りを放とうとして――それが、曲がる。
ぐん、と音を立ててフィオナの動きが直角に変動すると地面に落ちた。その地面に浅い斬り傷。
「……いかせませんよ。この先には」
「面倒ねッ!」
自分の身体がどうしてそこに動いたのか、それも分からず首を傾げるフィオナ。
フェリのことが心配だが、それよりも柊ツバサを追わなくてはいけない。俺は廊下を曲がって、先を急いだ。
廊下は無機質な材質で出来ており、近くに部屋も何も無い。
「どこだ……? どこに行った……ッ!?」
走って、走って、さらに走って。その先にあった扉を押し開けた。
ばっと、大きく開けた部屋にでた。
その瞬間、聞こえてきたのは無数のうめき声。
声が声にもならぬ亡霊たちの声。
「……ここは」
息を飲む。金属製の牢に入れられた無数の人々。満足に食事を取れていないのか、異常なまでにやせ細っている。風呂に入れないのだろう、薄汚く汚れひどく窪んだ眼窩の底で、ギラギラと輝く目がその異常さを際立てる。
「かみがりだ。【神狩り】だぁああああああッ!!!」
次の瞬間、部屋全体がどよめいた。
「助けてくれ!! こっから出してくれ!!!」
「あ、あああ。ありがとう! ありがとう!!」
「助けが来た……。良かった!!」
口々に叫ぶ人間たち。
この人たちは、もしかして公国の生き残りか?
「外はまだ危険だ。全てが終わったらここから出す」
俺は牢の中にいる人たちを見ながら、力強く。それでいて安心できるように宣言する。この人たちにとって、俺は希望だ。下手な不安は見せられない。
「柊ツバサは……。『機骸の魔王』はどこに行ったか分かるか?」
「あ、あいつは……あっちの部屋に」
「ありがとう」
言うが早いか、俺は駆けだす。盾も持たない全力疾走はいつぶりだろうか。それからも牢の中にいる人質たちに柊ツバサの場所を聞きだしてはその後を追いかけ、新しい扉に飛びこんだ。
「わぁ!? 速いな、もう!!」
「ここで、捕まれッ!」
部屋の中にあったのは無数の機械。どれが何で、どんなものがあるか分からないし判断もつかない。そのため、何にも触れずに柊ツバサだけを確保しなければならない。
俺は地面を蹴って柊ツバサにタックル。彼の身体を吹き飛ばして、壁に叩きつけた。
「これでもう、逃げられないぞ」
「…………いやぁ、それはどうか分かんないってもんだよ」
「逃げようとしたら、殺す」
鼻血を出しながらへらへらと笑い続ける柊ツバサに向けて俺は警告。ここで投降しないようなら、どうしようもない。殺すしかない。
「……冒険者、名前は?」
「レグだ」
「そうかい、レグ。少し、話をしないか?」
「話? 時間稼ぎか?」
「そうつまらないことを言うなよ。逃げなきゃあ良いんだろう?」
「…………それは」
「まあ、聞け。ここじゃない。別の星の話だ」
「別の星?」
「そこに2人の兄妹がいたんだ。普通の兄妹さ。なんてことはない。ただの兄妹。ある日、妹が言い出した。近くの廃トンネルを見に行きたいってね。その廃トンネルは……まあ、肝試しみたいなもんだよ。分かるかい? 肝試し」
「分かる」
「そう、それで兄妹は親の目を盗んでこっそりその廃トンネルに入った。そして、潜り抜けたら……異世界さ」
「異世界? お前は何を言っている??」
俺の質問には答えず、柊ツバサは続ける。
「困ったよ。何の力も持たない子供2人。戸籍も無い。言葉も通じない。妹は泣きじゃくるばかり。だがまあ、運よく鍛冶師が拾ってくれてね。そこで10年、育てられた。けど、日本と違ってこっちの世界の治安は良くないね。15になった妹は親だと思ってた鍛冶師に犯された」
「…………」
よくある……とまではいかないが、孤児がそういう被害にあうのはありふれた話だ。
「妹は深く悩んで落ち込んで、そして自殺した。だから、兄の方は鍛冶師を殺して、妹の死体を持ってあてもなく歩いた。本当にあてもなく。東へ、ひたすら東へ」
…………。
「そしたらさ、東の果てにいたんだよ。大きな黒い帽子をかぶって、黒いローブを羽織った昔ながらの魔法使いの女の人が」
「……“魔女”」
「兄はそこで魔法を教わった。死んでしまった妹を生き返らせるための方法を探した。そして、借り物の命としてホムンクルスを作り上げた。どうだい? 泣けるじゃあないか」
「その話が本当ならな」
「はははっ。勘が鋭いなァ、レグ」
「どこまで、本当だ。その話は」
「全部嘘だ」
柊ツバサが口を開いた瞬間、襲って来たのは激しい眩暈。
……やっぱり罠だったッ!!
俺はとっさに反撃機能ON。だが、何も起きない。眩暈は、止まらない。
「攻撃じゃないからそのスキルの意味はないよ」
ゲタゲタと笑う柊ツバサの笑い声が頭に反響する。
「真相はこうさ。優れた兄は、愚かな周りに絶望して世界を渡ることにした。それについてきた妹と共に、新しい世界を旅したんだ。いくつも、いくつも、いくつもね」
「ぐっ……」
頭が割れそうな痛み。激しい耳鳴り。
これが攻撃じゃないだと? じゃあ、何なんだ!!
「そして、妹は言ったんだ。強くなりたいって。だが、妹は普通だった。あまりに普通過ぎた」
「だから、妹の身体を弄ったのかッ!」
「はははははははははははっ!!!」
柊ツバサの笑い声が反響する。
「さあ、仕切り直そうッ!」
バヅン! と、音がして俺の視界が暗転。そして、開ける。
ひゅぉぉおおおおおおおおお……。
最初に感じたのは風。そして、仲間たちの存在。
「……ここは?」
フェリが首を傾げる。
「あれ? さっきまで荒野にいたんだけど」
マリが周囲を見る。
「前に、いる……」
エマが俺たちの目の前にいる敵を見据える。
外に弾きだされた? それにしては天気がおかしい。先ほどまで北国に居たというのに、明らかに気候が違う。これは……どう考えても、慣れしたんだ王国の気候。
「れ、レグさん! あれ!!」
フェリが俺の身体を引っ張って後ろを指さす。そこにあったのは、街を囲う立派な壁。
「王……都…………?」
間違いない。目をこする。
そこには変わらず、王都の姿がある。
「バカ兄貴! 転移魔法を使う時はちゃんと言えー!!」
「悪かったよ。フィーちゃん」
柊ツバサはにっこり笑う。
空には先ほど俺たちが入っていった黒い立方体が浮かんでいる。
「第2ラウンドだ」
そう言って、柊ツバサが嗤う。
その顔は、魔王の顔だ。




