第35話 神狩り・上
レル=ファルムはデカすぎて、どこから手を付けて良いかが分からない。だが、こういう敵は足元から攻撃するのが一番である。
俺は盾を構えたまま全力疾走。先ほど破壊した浮遊物がさらに裸の乙女像の中からあふれ出す。そいつらが俺を狙っているのが手を取るように分かる。次の瞬間、エマの歌声が風に乗って聞こえてきた。
俺の身体の筋肉が膨れ上がる。
刹那、再び光の奔流が俺に向かって飛んでくる。だが、俺には当たらない。寸前で消えて、再び浮遊物が爆発。破壊される。
《対象の脅威判定を更新》
《開拓事業への影響度:大》
《排除モードに移行します》
レル=ファルムの声が聞こえる。ひどく歪で、乾いたような女の声。だが、何を喋っているのかはさっぱり分からない。少なくとも、人の言語ではないように思える。
《ビットを展開》
《出力は40%を維持》
《目標は敵生命体。個体識別番号01-0000045》
再び、俺に向かって光が撃たれる。だが、それを俺は撃ち返さない。反撃機能をOFFにして、その代わりに吸い込んだ。
「砕けろッ!!」
俺の拳が乙女像に激突。浮遊物が撃ってきた光の奔流、その攻撃を全て撃ちだした。
ズドォッッッッツツツツ!!!
爆風が吹き荒れ、爆音が世界を叩く。赤い砂が衝撃波で舞い上がる。その最中、俺の後ろから炎の弾丸が飛んできた。
俺は地面を蹴って、バックステップ。そして、直撃。
ドォォオオオオンンンンン!!!
耳を塞いでいないと鼓膜が破れるんじゃないかと錯覚するくらいの爆音。生み出された火球は乙女像の表層を熔かして、崩す。俺の一撃と、マリの『火炎弾』の二連撃によって乙女像の姿勢が大きく崩れる。
「倒すぞ!!」
見たところ、レル=ファルムは地面に身体を埋め込んでいるようでこちらに向かって移動してくる様子は見えない。攻撃は、レル=ファルムの体内から出てくる浮遊物、それが全てを担っている。
「マリ! 二撃目を! フェリ! 来い!!」
フェリには『身代わり』を使っている。彼女への攻撃も吸い取ることが出来れば、もっと効率的に敵への攻撃を行える。
《姿勢制御装置起動》
だが、倒れつつあったレル=ファルムの身体は途中で静止すると、元に戻って行く。
「飛んで! 『火炎弾』!!」
《飛翔物を確認》
《撃墜します》
マリの魔法に向かってレル=ファルムの周囲を飛んでいた飛翔物が狙いを澄ます。俺は脳を貫く嫌な予感に従って、マリに向かって『身代わり』を発動。
次の瞬間、生み出された光の直線はマリの『火炎弾』を貫いたッ!!
空中で思わぬ衝撃を受けた『火炎弾』はその場で爆発! だが、光の流れはそれだけで止まらない!! マリに向かって突き進む。
……エマの強化が乗ったLv3の魔法だぞッ!
俺は叫びたいのぐっと我慢して、レル=ファルムを睨んだ。Lv5相当の魔法を簡単に貫いて、しかも術者に向かって撃ちこむだなんて飛んでもない威力の攻撃だ。普通、同レベル帯の魔法が激突したら、お互いに、消える。
だが、レル=ファルムの攻撃は一方的にマリの魔法を壊しただけだった。
俺がレル=ファルムを睨んでいると、再び浮遊物が爆発した。マリに撃った攻撃を俺のスキルが撃ち返したのだろう。
《警備ビットの破壊を確認》
《残存数:24》
《ビットの製造を開始します》
《終了まで:78秒》
未だに何を言っているのか分からないまま、レル=ファルムは喋り続ける。……不気味なやつだ。
俺はそれでも接近を選ぶ。突撃、激突。
ドッツツツ!! と、一瞬だけ衝撃波が拡がってレル=ファルムの足が大きく破壊される。そこに後ろからやってきたフェリが斬撃を入れる。
ザッ、とざらついた音が響いてレル=ファルムの柱に大きく削り込まれた斬撃の痕が刻み込まれる。
《警告》
《損傷率が12%を超えました》
《自動修復を開始します》
次の瞬間、浮遊物が俺たちの近くに降りてきた。慌てて俺たちは離脱。浮遊物は欠けたレル=ファルムの足元に近づくと、緑色の光を照射。すると、欠けたばかりの足が治っていくではないかっ!
「治ってる……」
「クソッ、あっちの浮いてるやつを壊す方が先だッ!」
俺はそう言って盾を投擲。見事、浮遊物に激突して貫いた。遅れて爆発。周りに浮いていた浮遊物もその衝撃で地面に落ちた。
その結果、レル=ファルムを治している浮遊物が無くなった。
「今がチャンスだッ!!」
マリに特大魔法を撃つよう指示。彼女はそれを見た瞬間に、今日一番の『火炎弾』を撃ち込んだ。
当然、今回はそれを防ぐ浮遊物は存在しない。そのまま、乙女像の上半身に吸い込まれていき……爆ぜた。
カッ! と、視界全てが真っ白に染まってしまうような閃光の中、反撃機能をOFFにした俺が進む。遅れて衝撃波と爆炎が赤く染まった大地を焼きつけた。
俺は飛んでくる余波を無駄にしないように吸い取りながら接近。
《損害率30%を突破》
《障害排除システム起動》
《対象の戦闘を学習完了》
《ビットの製造を一時中断》
《戦闘ヒューマノイド製造開始》
《製造完了》
爆炎の中で抜け出した俺がレル=ファルムの身体に触れる。そして、衝撃を吐き出した。
フェリが表面を削ったところに叩き込んだそのインパクトで、レル=ファルムの身体に無数のヒビが入った。
……砕ける。行けるッ!
と、思った瞬間。俺の腕に向かって刃が振り下ろされた。
「……ッ!」
攻撃が当たるはずもないのに、反射的に腕を下げてしまう。刃を振り降ろしたのは……女性体をした人形だった。顔は無く、関節部分も丸い球体関節のそれが刃を構えてこっちを見ている。
「……ッ」
新手か。
だが、人型というのは弱点だ。どっから攻撃を仕掛けるか、どこが弱点なのかがすぐに分かる――ッ!
俺は目の前に人形に向かって突進を繰り出した。人形はしっかりそれを見切って、回避。すれ違いざまに刃を振るってきたが、俺に当たる前に剣が粉々に砕け散ると、人形の上半身と下半身が真っ二つに千切れた。
「お?」
思っていたよりも柔らかいのか?
それとも斬撃の攻撃力が高すぎて、反撃で壊れたのか……?
《戦闘ヒューマノイドの製造完了》
《製造数は12体》
《戦闘ヒューマノイドの製造完了》
《警備ビットの製造を開始します》
次の瞬間、レル=ファルムの身体から先ほどの人形が12体。飛び出してきた。
「……うーわ」
俺はちょうど近くに落ちていた盾を拾い上げる。
今のが12体。
「見た目よりは……弱いか」
俺に攻撃は当たらない。
「れ、レグさん。あれ」
近くにいたフェリが空を指さす。そこには、レル=ファルムの身体から吐き出される虫のような多くの浮遊物たち。
「…………マジか」
俺は死なない。
「しゃーねえ。ちょっと本気で行くか」
「え、今まで本気じゃなかったんですか?」
「……俺はいつだって本気だよ」
「どういうことですか」
フェリの呆れたようなツッコミ。
だから俺は盾を構える。
「……分かったことがある」
俺は近づいてきた人形の斬撃を吸い取って、地面に叩き伏せた。
「何が分かったんですか?」
フェリが盾で剣を滑らせようとしたところ、剣が盾を斬ったので、慌てて俺が『身代わり』をかけて攻撃を吸収。フェリの剣が人形に叩き込まれて、破壊された。
「レル=ファルム本体は大したこと無い」
「……確かに」
どちらかと言うとあれから出てくる奴らの方が問題だ。
「だが中途半端な攻撃を与えても治される」
「どーするんですか」
「一点突破だ」
文句のつけようもないくらい、もう二度と治せないくらいの徹底した破壊。
「それしかない」




