第27話 異形を討つのは冒険者!
「アイツを竜だと思え」
「竜?」
走りながら俺が叫ぶ。王都の東側には避難警告が出され、多くの人たちが持てる限りの物をもって走っていく中、俺たちはその逆方向へと足を進めていた。
「骨格が竜だったろ。まずは竜を仮想敵とおく」
ドラゴン。それは、最強の生物。
「大きさはざっと見た限りだと50m、60m近く! 正面戦闘はなるべく避けたい!」
「な、ならどうしますか!? マリちゃんに遠くから狙撃してもらいますか!?」
「あまり離れると俺の『身代わり』が発動しなくなるから、ちょうど良い位置が良いんだけどな……!」
と、言った瞬間。目の前の都市壁が真っ赤に赤熱化。そして、爆ぜた。
ドンンンン!! と大きな爆発音が響いて、高さ5mはあった都市壁が粉々になって飛び散るっ!!
瓦礫が飛び散る……かと思ったら、都市壁が熔け切ったのでその心配はなかった。その代わりに液体になった壁が街に流れ込んできているのだが。
「あーあ……」
当然、その奥から顔を見せるのは……竜の異形。
「俺がヘイトを取る! お前らは回り込んで背後から攻撃してくれ!!」
「れ、レグ……バフは……?」
「俺には要らない! マリにかけてやってくれ!!」
「……分かった!」
「俺がいなくても大丈夫か?」
相手は竜、少なくともその形をしている物。なら、強者と見るべきだ。確かに彼女たちは強くなった。俺と出会った時と比べると、あり得ないくらいに強く成った。
だが、それで竜に届くだろうか?
彼女たちは怖気づかないだろうか?
俺は心配になって、振り返るとそこに少女たちはいなかった。
その代わりに――冒険者がいた。
「はッ。愚問だったな」
「任せてください。こう見えても体質とは長い付き合いですから」
「フェリ、俺がいない間。お前が盾だ」
「はい」
「盾の役割は仲間を安全に進ませること。仲間の攻撃を安全に行わせることだ」
「……はい」
「そして、死なないことだ。盾役が死ぬと、パーティーは壊滅する。俺達は死ぬことが許されない」
「はいッ!」
「よし、行くぞッ!!」
俺は大楯を構えて、竜の異形に向かって突撃。俺が走っている間に、フェリ達は迂回ルートを選択。
竜の全身についた無数の眼球が俺を見た。
「気持ち悪い、野郎だな……ッ!」
竜の異形は触手を俺に向かって構えて――発射ッ! だが、俺の足は止まらない!!
俺に向かってとんでもない速さでやって来た竜の触手は……バヅン!! と、音を立てて途中で切断。宙に舞う。血のような黒い液体が傷口からあふれた。
「頭の破壊じゃあ死なない。なら、弱点はどこだ?」
再び竜の異形が触手を持ち上げる。そして、俺に向かって振り下ろす。だが、効かない。空中で強制的に切断されると、地面に落ちた。
「身体の中……。心臓部分? そんなありきたりな場所じゃあないか」
斬れた触手が再生する。俺に向かって振り下ろす。だが効かない。
「どっから手ェつけようかね」
竜の異形は狂ったように俺に向かって触手を叩きつける。何度も、何度も何度も叩きつける。だが途中で全部、斬れる。全部、落ちる。
竜の異形は突然、触手での攻撃を辞めると俺に向かって大きく口を開いた。
そこに魔力が溜まっていく。
「ブレスか」
そして、発射。
竜のブレスは俺の手前で、いったん静止。そして、ぐるりぐるりと渦を巻きながら消えて行く。それと同時に竜の頭が粉々に砕け、足が千切れて尻尾が爆ぜた。
だが、竜は動く。
「これでも決定打にならねえのか」
困ったな。ここまで再生能力に特化しているとは思わなかった。
「レグ! 行くよ!!」
「おっ」
マリの声。俺は頭の中で、【因果応報】の反撃機能をOFFにした。そして、竜の遥か後方から飛んできた1つの赤い弾。それが竜に着弾……ッ!!
ドウウウウウッツツツツツ!!!
竜の身体をぐちゃぐちゃにして、周囲をクレーターに変えるマリの一撃はLv3でしかない。だが、“魔女”の手ほどきと新しい杖を組み合わせた一撃はLv5にも匹敵する一撃になるっ!
爆炎の中、鱗が熔かされる痛みに竜が啼く。俺が砕いた竜の身体、そこにマリの魔法が叩き込まれれば竜とは言え、ひとたまりもないだろう。そう思ったのだが……。
「動くのかよ……ッ!」
竜は、動く。身体の大部分を失って、全身を覆っていた触手は無くなって、硬い鱗の全ては熔かされて。それでも、竜の異形は身体を修復させていく。
次の瞬間、竜の身体の目、無数の目が俺ではなく遠くにいるマリに向いた。
「……ッ!!」
それは、させない。俺は盾を思いっきり殴りつけると、竜の目が全て俺を向いた。『集敵』。流石にこの距離なら、俺の方が敵意を集めるらしい。
「しょうがねえ。全身、吹き飛ばすか」
それしかない。だが、マリの魔法では火力が足りない。
竜の異形自身の攻撃でも全身を消し飛ばせなかった。
絶体絶命?
そんなわけがない。
Sランクパーティーの中で、これまでの冒険者人生の中で、これ以上の窮地など飽きるほどにくぐってきた。
「マリ!! 俺を狙えッ!!!」
「分かったッ!」
マリは俺を疑わない。俺もマリを疑わない。マリの超強化されたLv3魔法『火炎弾』が俺めがけて飛んでくる。俺はそれに右手を合わせて……吸い込んだ。
竜の異形が再び俺に向かって、ブレスを構える。当然、それも吸い込む。
「知ってるか?」
【因果応報】。それは、因果に応じて相手に全てを返すスキル。
当初、俺はそうだと思っていた。
だが、このスキルには先がある。
「因果は流れるんだぜ」
俺は2度目のマリの魔法を受け取って、笑った。
竜の身体が動く。全身が既に修復している。関係ない。
どれだけ竜の身体が硬かろうと、強かろうと。この一撃だけは耐えきれない。
「【因果流し】」
俺は、3つの攻撃を加算した一撃を撃つ。
キュド!
心地よい音と共に、竜の頭に吐き出した攻撃が触れる。触れた先から竜の身体が蒸発していく。当たり前だ。俺に向かって飛んできた本来であれば必殺の攻撃。それを3つ乗せているのだから。何の防御も使っていないこの異形が耐えられるはずがない。
ジィィイイイイイイインンンン!!!
消えて行く。竜の身体が無くなっていく。
そして、瞬き。
次の瞬間には、先ほどまで王都を攻撃していた竜の異形の姿はどこにもなかった。そこにあったのは、巨大な結晶。黒いながらも、光を飲み込んでキラキラと輝いている結晶はとても綺麗で。
「俺たちの勝ちだ」
俺は盾を置いて、静かに宣言した。




