第20話 戦いは突然に!
昼下がり、俺達は魔術都市の喫茶店で昼食を取っていた。
「それで、マリちゃんは本当に使える様になったんですか? その絶魔って魔法が」
興味深々に聞いているのはフェリ。エマは気になっているものの、そこまでがっつり聞けない……みたいな感じに見える。それでもマリの“魔法使い”としての出発を祝福しているようには見えた。
「そうだよ! はやく実戦で使ってみたいな」
そういって、ちらりと俺を見てくる。
「一応、私たちってDランク……パーティーってことで良いんですよね?」
と、フェリが俺に向き直ってそう言う。
「うん。それであってる。伯爵からの依頼を達成しているから、俺達はDランクだ」
「そ、それで良いんですか?」
「良いんですかって言われてもなぁ……。一応、俺達Sランクパーティーですら攻略出来なかったダンジョンを抜けて来てるわけだし。Dランクでも評価が下っちゃ下なのよ」
「未だに信じられません……。本当にDランクなんですかね……?」
「はははっ」
しかし、フェリの言っていることも分かると言えば分かる。彼女たちは確かに万年Fランクだったのだ。ここ数日でEやらDやらと昇格していけば、信じられないというのも仕方がない。
「じゃ、肩慣らしってことでクエストでも受けるか?」
「良いね! ボクやりたい!!」
絶魔を使える様になったマリはとても元気だ。
「マリ、新しい魔法を使えるようになったからって元気になるってのは良いが……。そう急くな。死ぬぞ」
「う、うん。気を付けるよ」
新しい魔法、新しい武器。それらは確かにテンションが上がる。それを実践で使えると思えば、勢いづく。それはとても分かる。
だが、油断をした瞬間が一番危ないのだ。
人は死ぬ。それも、簡単に死ぬ。
それをよく知っている俺は、マリに忠告する。あんまり先輩風を吹かす……というのは好きでは無いのだが、流石にこういう場面ではちゃんと言っておいた方が良いだろう。
「でも、レグ。クエスト……良いの?」
「ん? 何が??」
「だって、伯爵……の、護衛……でしょ? そんなに、勝手にクエスト受けても……」
「あー、それか。もっとちゃんと護衛してたら、俺達は今頃伯爵と同じ場所で飯食ってるよ」
「そ、そうなの?」
「ああ。今回のやつは、まあ色々あるが道中の護衛……とでも思っておけばいい。本当はちょっと違うんだけど、今はあの市長が選んだ護衛が代わりに伯爵を護衛していると思うぞ?」
「なるほど……」
エマはそういって深くうなずいた。納得してくれたなら何よりだ。
「というわけで飯を食ったらクエストに行くか」
「そうしましょう!」
フェリがそういって頷いた。俺はその後ろで起きている惨状をちらりと、見る。フェリに飛んできたものを俺が片っ端から『身代わり』で防いだので、皿は割れるはナイフが飛んでくるわで大変大変。
とはいっても、誰も本気でこちらに攻撃しようとしているわけではないので【因果応報】で跳ね返る効果も微々たるものである。
どうしよ。反撃オフにしようかな……。
オフに出来ると言えば出来るのだが、すっげー疲れるのだ。アレは。クエスト前だし、勘弁してもらおう。まあ、運が悪かったと思って諦めてくれ。
――――――――――
ということで食事も終わり、ギルドでクエストを物色した俺達が見つけたのは『ハイ・トレント』の討伐、および枝の採取というものだった。
トレントと言えば木そのもののモンスター、植物と動物のどっちつかずみたいな見た目をしたアレだ。何でも普通の木より魔力を通しやすいとかで杖の素材に良く使われているのだそう。
それの中位種、『ハイ・トレント』と言えば確かにDランクのパーティーにはぴったりのクエストだろう。それにここは魔術都市。杖の需要は他の街よりも高い。
というわけで、モンスターを探しに森までやってきたわけだが。
「出ませんね。トレント」
「出ねえなぁ」
「……?」
一応、エマの身体から透明状の何か……『集敵特性』は発生しているのだが、モンスターが来ないのだ。
「この森にはモンスターがいないってことですか?」
「もうちょっと奥に行かなきゃ駄目なのかもな」
『集敵特性』といったって、その効果範囲が無限なわけがない。そうであるなら、今頃エマが暮らした街はモンスターの海になってしまうだろう。『集敵特性』とは、半径数百メートルのモンスターを集めてしまう特性なのだ。
だから、俺達がモンスターに会えないということは半径数百メートルにモンスターがいないということだ。街ならともかく森でそんなことあるか、と聞かれたら首を傾げざるを得ないが。
「……うーわっ」
「わぷっ。……どうしたんですか?」
先頭を歩いていた俺が立ち止まると、その後ろをついて歩いて来たフェリが俺にぶつかった。
「……あれ」
俺達の目の前にいたのは体長30mくらいのデカさを誇る巨大な木。それが、動いている。
「な、ななななんですかあれ!?」
「大きさから見ると……。『エルダー・トレント』ってところか? 『トレント』種の最上位種だな……」
道理で森の中にモンスターがいないわけだ。誰も彼もアレに巻き込まれるのを警戒して、逃げてたってわけである。
そりゃモンスターも集まらんわ。
「どうします? 倒します?」
意気揚々と聞いて来たのはフェリ。君、最近好戦的だよね。
「いや、ここまでデカいと倒して良いのかも分からんぞ……。魔術都市が最高級の杖を作るために放置してるのかもしれん」
「そ、そんなことありますかね?」
「分からん……」
可能性として0ではないだろうが、放置しておくにはあまりに街に近すぎる……というのが俺の持った感想。
「俺達の目標は『ハイ・トレント』だ。こんなところで油を売らずに、『エルダー・トレント』がどっかに行くのを待とう」
俺はパーティーメンバーに振り返ってそう言った。
「レグ、後ろ」
「あん?」
だがエマがぎゅっと目をつむって、まっすぐ俺の後ろを指さす。何だと思って振り返ってみれば、そこにはこちらを見降ろす『エルダー・トレント』が。
「あーあ……」
逃げるか? 無理だろ。あんなでっかいのから走って逃げれるはずがない。
撒くか? …………どうやって?
見逃される……はずがないよなぁ。『集敵特性』がいるもんなぁ……。
「やるぞッ! 戦闘準備ッ!!」
俺が叫んだ瞬間、『エルダー・トレント』が50mはありそうな枝を大きく鞭のように振るった。刹那、俺はエマとマリを抱えて跳躍。枝を回避。フェリに向かって『身代わり』を発動。
フェリに吸い込まれるような軌道を描いていた木の枝がぶつかる寸前、弾けて斬れた。
「エマ! 歌を!!」
モンスターを見て、気絶をしないようにしていたエマの声は震えている。……偉いぞ。よく耐えてくれた。
「わかった! ~~~~~~♪」
エマの歌で俺の筋肉が強化。『エルダー・トレント』は俺達に物理攻撃が効かないと判断したのか、体内の魔力を集め始める。
「マリ!」
「うんっ!」
マリが杖を腰にしまうと、右手を大きく天に掲げた。
「絶魔」
短い詠唱。打ち出された花火のようにマリの手の平から生まれた紫色の球体が空に飛び上がっていく。そして、展開。
遅れて『エルダー・トレント』が魔法を使った。俺達に向けられたのは……Lv4の『槭種砲』だ。
俺達に向かって撃ちだす。『エルダー・トレント』が俺達を見降ろすようにして放った砲弾はしかし『U』の字を描いて空中に吸い込まれる。そして、マリが起動した絶魔に飲み込まれて……消えた。
「行くぞ! フェリ!」
「は、はい!」
俺達はせーので駆け出す。
その瞬間、マリが援護の『火球』を撃った。本来はLv2程度のものだが、エマの支援で威力がLv4の『炎焔砲』まで引き上げられている。改めて考えると、とんでもバフだな。
さて、そんなふざけた性能をしたバフは俺達にもかかっている。
マリの『火球』が『エルダー・トレント』に激突。
――――ズドォォオオオオンンンンッッッツツツツツ!!!
目の前で大爆発ッ!! 俺達はその火炎の中に飛び込む。フェリには『身代わり』を発動。意識を集中。マリに反撃が飛ばないように、【因果応報】の反撃機能をオフにした。
だが、これが中々難しい。だから、早急に俺達は爆炎を抜ける。
「まずは突撃だッ!」
「はい!!」
せーのでタイミングを合わせて、盾で身体を守りながら突撃。その瞬間、『エルダー・トレント』の身体が宙に浮いた。
「えぇ……」
自分でやって自分にドン引きだ。
「レグ! フェリちゃん! 下がって!!」
マリの声。それに合わせて、俺達はバックステップを取るとそのまま『エルダー・トレント』から距離を取る。
「行くよ! 『火弾』!!」
それは、マリが使えないはずのLv3!
「なッ!」
空中を直線に貫いて、『エルダー・トレント』の身体に着弾。次の瞬間、爆発。どてっぱらに半径10mの巨大な大穴を空けて、『エルダー・トレント』が苦悶の大声を上げると、後ろに倒れた。
…………死んだ。
「う、嘘……」
「勝っちゃった……」
「す、ごい……」
3人は目を丸くして驚いている。そりゃそうだ。『エルダー・トレント』の適正討伐レベルはAからB。凄まじく強い敵である。
「マリ、今の魔法は?」
「え、えっと……。先生から教わったんだよ……」
自分で撃って自分で驚いているマリ。
“魔女”かぁ……。
だが、見たところ特別な魔法という感じはしなかった。他の『火弾』と全く同じである。威力はおかしいが。
「で、でもこれで敵無しじゃないですか!? ほんとに私たちAランクに上がれるかも!!」
フェリは大喜び。俺もそれを見てにっこりしてしまう。
いや、魔法って使いどころなんだなぁって……。
今のはエマの支援が乗ったLv3魔法だった。
だが、これがLv4になれば? Lv5になれば?
その考えが一瞬で俺の頭の中をよぎって。
俺は、考えるのを止めた。




