第16話 魔術都市と冒険者!
街に入ると、魔法使いたちが爆発で壊れた建物を直していた。面白いことに、彼らが杖をふると何も魔法を使っていないのに勝手に建物が元に戻って行くのである。
「すげぇ。あれどうやってんの?」
俺がマリに聞くと、彼女は大きな帽子を揺らして答えてくれた。
「あのね、この街ってたくさん実験とかするから街が壊れやすいの」
「うん。それは……分かるけど」
そう俺が言った瞬間、隣の建物が一瞬にして凍り付いた。
「だからね、建物自体に強力な“催眠”魔法がかけられてるんだよ」
「催眠魔法?」
「うん。建物にね、『お前はこの形じゃないと駄目なんだ』って感じで。だから、壊れても建物は元の形が正しいと思ってるから元の形に戻ろうとするんだよ」
「えぇ……」
にわかには信じられない話だ。それ本当だとしたらかなり凄くないか。
「ほら。さっきの建物も、もう熔けてる」
「ほんとだ……」
マリの指さす先には凍ったはずの氷がもう熔けて、水たまりが出来ていた。
……気持ちわるっ。
「レグ君、座りたまえ。そろそろ市長と会うんだから」
「市長と?」
「うん。市長と。ほら、視察だからさ。市長は懐の広い人だから、冒険者の多少の狼藉は許してくれるだろうけど、あんまりやりすぎると……ね? 私もちょっとかばいきれないんだ。だから、礼儀正しく。お願いね」
「そりゃ……まあ」
低ランクの冒険者には素行の悪い者もいるが、それだと高ランクの冒険者にはなれない。いや、なれるにはなれるだろうが、高ランクの依頼がもらえなくなるのだ。
だから、俺は普通に振舞える……という自信がある。問題はこの3人だが……。まあ、大丈夫だろう。ここまで一緒にいて、変なことしてないし。
「あとね、あのー。市長なんだけどね? 若いんだ。見た目が。でもね、歳は相当いってるから。そこら辺、気を付けてね」
「俺達が市長と話すことってあるんすか」
「うーん。無いと思うけど……万が一、ね。ふざけないでね、お願いだから」
伯爵がここまで言うとは珍しい。存在自体がおふざけで出来ているような男だが、市長にはよっぽど気を使っているように見える。
「マリは市長に会ったことあるのか?」
「ううん、会ったことはないよ。入学式の時に見たことあるけど……すっごくちっちゃかったのは覚えてる」
「ちっちゃい?」
「うん。身体の年齢が固定されてるんだって。それで、歳を取らない……とか何とか。そういう話だったよ」
「へー。そんな魔法もあるのか」
「魔法というか、呪い……? みたいなものなんだって」
なるほど。そりゃ確かに、そこら辺は触れづらいな。
気にしてたら、よっぽどアレだし……。
「ん。ついたよ。降りようか」
竜車が魔術都市の中で、最も大きな建物の前で停止した。とりあえず、フェリが先に降りる。護衛だからだ。そして、伯爵が降りるのを待って俺達がその後ろを歩く。
領地だけではなく、王国全土に無能と名高い伯爵を狙おうとする奴なんて居ないと思うが、“魔女”が絡むと話が変わってくる。
そう言うわけで、警戒しながら歩いていると、建物に上がるまでの階段。その上で、10歳くらいの幼女が腰に手を当ててこちらを見降ろしていた。
「リッチー! 遅い!! どれだけ我を待たせるのじゃ!」
「カミっち、ごっめーん☆ 盗賊に襲われちゃってさー」
は?
「そりゃリッチーが放置しとるのが悪いんじゃろう……って、また太ったな!? 前に見た時よりも随分大きくなったのう」
「毎日が成長期なんもんでね」
「わははっ。お主のは縦じゃなくて横に成長しとるからのう。しかし、見てみんかい。我のこの完璧なボディ! 10歳にて完成されたこの美貌! おん、まさにこの街の市長に相応しいと思わんか?」
「思う思う。思っちゃーう♡」
もうしんどい。
俺はちらりとフェリを見る。彼女もとても険しい顔してこちらをみていた。
うん、どうやら俺達は仲間のようだ。やっぱり持つべき物は仲間である。
「それで、このウドの大木の護衛という世界で一番無駄な任務についた冒険者たちがそなたらか」
「世界で一番無駄って……。確かに俺達は護衛ですけど……」
「我がこの街の市長。完璧な身体に完璧な頭脳! 魔術都市の市長にて! 現代魔法を作り上げた大天才ッ! カミラ・ブリジット。ぜひ、敬意を込めてカミっち。またはカミラちゃんと呼ぶことじゃっ!!」
ドヤ顔で胸を張る、市長……らしき人。その隣に「おおーっ!」と拍手をしている伯爵。
ああ、分かった。この人、伯爵と全く同じタイプの人間だ。
「カミラちゃん……さんは、本当にこの街の市長なんですか?」
フェリが胸を張ったままドストレートに疑問をぶつけた。
「ん? いまなんと言った?」
「で、ですから……。この街の市長なのか、どうかと……」
「ちっがーう! その前!!」
「え? あ、えっと。カミラちゃんさんって……」
「良い! その呼び方気に入った!! 今度からみんなにそうやって呼ばそうっと。そして、その疑問にはイエスで答える! 我が伝説の魔法使いじゃ!!」
「カミっちー。中はいろうよ。私、もう暑くて汗かいてきちゃったよ」
「確かにリッチーに長い時間立たせておくのも酷というものじゃの。それで、そこのイケてる男」
カミラがまっすぐ俺を指さした。俺は後ろを振り返る。後ろには誰もいない。
「何を知らない振りをしているお主じゃお主」
「え、俺っすか」
「そうじゃ。お主以外にイケてる男がどこにおる?」
「ここにいまーす!」
そう言って手をあげる伯爵。絶対入ってくると思ってたからな、お前。
「よし。我を肩車する権利をやる。そのまま我が中を案内しよう。ほれ、首を出さんか」
「………………」
黙ってその場にしゃがみ込むと、ジャンプしてカミラが俺の首に座ってきた。
「よしよし。流石の安定感よ。やはり、こうでないとな。まっすぐ進めぇ!」
「あいあいさー……」
カミラがしっかり俺の首をふとともでホールド。
柔らかいけど、息が……ッ!
「とりあえず、先に要件だけ済ませようではないか」
「要件?」
フェリがこちらを振り向いて首を傾げた。俺はすかさず伯爵を見る。
「あーっと、カミっち。悪いけど、これから先に行くのは私とカミっち。そしてカミっちが乗ってるレグの3人だけにして欲しいんだ」
「うん? リッチーがそういうなら、そうしよう」
俺はそっと心の中で胸をなでおろした。他の仲間たちを危険に合わせなくても済む。
そう思った瞬間、マリが急に体勢を崩した。
「お、おい。大丈夫か!?」
「くっ……。だ、大丈夫です。ちょっと、発作が……」
「伯爵! マリも連れていって大丈夫ですか!?」
ここは魔術都市。簡単に人を殺せるような魔法が跋扈するような街だ。
そんな中でマリだけを放置していくわけにはいかない。
「カミっち。良いよね?」
「構わぬ」
良かった。
俺はマリを抱えて、肩にカミラを乗せて建物の中に進む。
「ここの地下に奴は幽閉されておる。じゃから、降りるのじゃ。そちら2人は別室で待っておれ。すぐに誰かが応接室に通すはずじゃ」
「あ、ありがとうございます」
フェリとエマがぺこりと頭を下げる。
「あ、あの。レグさんたちはどこに?」
「ひ・み・つ!」
伯爵がそう言って笑う。フェリはそれを聞いて、一瞬で引いた。
素晴らしい警戒能力だ。どっちかっていうと伯爵に引いたみたいだったけど。
「すぐに戻ってくるよー」
伯爵はそう言って、俺達はカミラの案内に従って建物の奥に進む。
「ここじゃ」
そう言ってカミラが俺から降りて、壁に手を触れると少し魔法陣が浮かび上がった。何が起きるんだろう……と思って待っていると壁が開いて小さな部屋が出てきた。
「入るのじゃ!」
胸を張ってカミラが入る。俺達はその後ろに続くと、『▽』と書いてある印をカミラが触る。
すると、不思議なことに身体が少し軽くなった。
「……? 何が起きてるんですか??」
「そうか。レグ君は初めてか。これは自動昇降機というものだよ。凄いよね」
「へー。そんなものまであるんすか」
「そうじゃ! 凄いのじゃ!!」
そう言って俺の上に再びカミラが登ってくる。もう好きにしてくれ。
そして、エレベーターなるものが止まって扉が開く。壁が真っ赤に煌めく水晶のような物質で覆われていた。
「……これは」
封印の間にくるのは久しぶりだったが、ここまで厳重に封印してあるとは思わなかった。
壁に使われているのは竜のブレスすら防げるといわれる『クリムゾン・クリスタル』。
数グラムで家が建つと言われる高級素材だ。
その中に1つ、付けられた扉を伯爵が開けて中に入る。
その後ろを歩いていると……わずかに魔力が動いたのを俺は察知。反射的にマリに向かって『身代わり』を使った。すると、俺の上に座っていたカミラに向かっていた魔法が、がくん……! と向きを変えてマリに触れる瞬間に消えた。
「……ッ!! がはッ!!!」
そして、部屋の奥から痛みに悶える声が聞こえた。
「……あぁ。まさか自分の魔法が返ってくるとは思わなかったよ」
「あいかわらず、油断も隙もない奴よの」
「ははっ。挨拶のようなものじゃあないか、カミラ。しかし私の魔法の向きを変えるだなんて、凄まじい魔術師を連れて来たねえ」
部屋の最奥。そこには座っている椅子に鎖でぐるぐる巻きにされた“魔女”がいた。
「久しぶりだな、“魔女”」
俺の言葉に“魔女”の目が驚きにつつまれた。
「これはこれは、“因果”の坊やじゃあないか」
“魔女”は椅子の上でクックッと笑った。
「ちょっと太ったかい?」
「…………まあ」




