第二話 私たちはコムロ様へのご奉仕を命じられているのです
「こちらがコムロ様が滞在中のお世話をさせていただきます、サナとリツにございます」
妙におどおどした女の子二人を突き飛ばすようにして俺の前に立たせたのは、このタケダ城のメイド長で名をヨウコという三十歳前後の女性だった。もちろん実際の年齢は全く見当が付かない。それよりこの人は俺から見るとかなりブサイクだから、きっとこっちでは相当な美人なのだろう。何となく全体的に細く尖った印象で、語尾にザマスを付けてしゃべったら一番しっくりくる感じだ。
一方サナとリツと紹介された二人はどうやら双子らしい。彼女たちの見た目上の違いは、サナの瞳が濃緑でリツの方は真紅というところだろうか。他は赤く長い髪も細くくびれた腰や、すっと伸びたきれいな脚もそこだけ見たら見分けが付かないと思う。ただし胸に関してはサナはけっこう大きくて、逆にリツは平坦に近いからここなら見分けられそうである。共に顔は俺好みであり、百四十センチ程度しかない低い身長も相まって、この二人が世話役と聞いてちょっと嬉しくなったよ。もちろんユキさんやアカネさんには言えないけどね。
「ほら、ぼやっとしてないでご挨拶するんだ!」
「さ……サナです。十四歳です」
「リツです……じゅ、十四歳です」
二人ともうつむき加減でそう言うと、小さくお辞儀をしてくれた。しかし揃って声だけではなく全身を小刻みに震わせている。単に客の世話をするだけのはずがどうしてここまで怯えているのかと不思議に思ったが、ヨウコさんの次の言葉で合点がいった。
「存分にこき使って頂いて構いません。お楽しみで死なせてしまわれましたらすぐに代わりの者をご用意いたしますので」
「え? お楽しみ?」
「拷問をお望みでしたら専用のお部屋にご案内いたします。その折はどうぞご遠慮なくお申し付け下さい」
ヨウコさんの声にはほとんど抑揚がなかったが、俺は自分の耳を疑わずにはいられなかった。つまりこの二人の女の子を拷問してなぶり殺しにしてしまっても構わないということなのだ。彼女たちが顔面蒼白で震えているのもそのせいだろう。
「い、いえ、それには及びません。私にその趣味はありませんので」
「そうですか。お前たち、命拾いしたようだね。しかしお客様のご命令には逆らうんじゃないよ」
「はい……」
ヨウコさんがいると部屋の空気が張り詰めて、俺まで憂鬱な気分になってくる。とにかく早く出ていってもらって、二人の少女を安心させてやりたいと思ったよ。しかし聞くべきことは聞かなければならない。
「あの、王女殿下と私の二人の連れは……?」
「ご心配なく。別室にておくつろぎ頂いております」
「話がしたいんですが」
「確か未だご入浴の最中かと。ご一緒に湯浴みをご所望ですか?」
そんなことをしようとしたらアカネさんは喜ぶと思うけどユキさんにはこっぴどく叱られるはずだ。仕方ないがここは諦めるしかなさそうである。
「お急ぎのご用でしたら私がお伝え致しますが、間もなく歓待の宴が催されますので、その席でご一緒になるかと存じます」
「そうですか、それなら……もちろん王女殿下も……?」
「はい。そのように聞いております」
「でしたらそれまで待ちます」
「承知致しました。それでは一刻ほどは誰もここには参りませんので、ご存分に二人の生娘の味をご堪能下さい。奴隷身分ですので何をなさっても構いません」
ちょっと待った、それって二時間くらいは誰も来ないってことだよね。そういうもてなしの意味でこのサナとリツを置いていくということなのか。道理で拷問しないと言ったのに二人が怯えたままなわけだ。
「分かりました。あ、あとそれから先ほど王子殿下から余興に付き合えと言われたのですが、何のことか分かりますか?」
「いえ、私は存じておりません」
「そうですか」
「他にご用がなければ私はこの辺で下がらせて頂きます」
俺が無言で肯いたのを見て、ヨウコさんは深く一礼した後部屋を出ていった。彼女の足音が遠のくのを待ってから、俺は二人の少女の顔を交互に眺める。その仕草でまた怯えさせてしまったようだ。
「ああ、ごめん。俺は君たちに何もしないから心配しなくていいよ」
「……」
「ひとまず掛けたら?」
二人掛けのソファがテーブルを挟んで向かい合わせに置かれている。俺は彼女たちに着席を促すと、自分もその正面に座ることにした。
「あの……何もしないとは、どういうことでしょう?」
「うん? 言葉の通りだけど」
「そ、それは困ります!」
「困るって何が?」
「私たちはコムロ様へのご奉仕を命じられているのです」
「ご奉仕……って、もしかして性的な方のこと?」
「はい。ご奉仕させて頂けないと私たちは……」
「どうなるの?」
「スノーウルフの餌に……」
サナが涙目になって訴える横で、リツがガタガタと震えている。彼女たちによるとここでもしどちらかが俺の子を宿したなら、二人揃って奴隷から平民の身分に格上げしてもらえるということらしい。そうでなくても俺が満足したなら、一日一回の食事を二回に増やしてもらえるのだそうだ。しかし俺が満足しなかったり奉仕そのものを成さなかった時には、生きたままスノーウルフの餌にされるということだった。あまりに酷い話である。
「ちょっと待った。俺に考える時間をくれるかな」
サナもリツも可愛い顔をしている。それに奴隷といえども客である俺に差し出すために、おそらく風呂に入れられてきたのであろう。ほのかに甘い香りが漂ってきている。そしてそればかりか二人は薄い生地の白いワンピースを着ているのだが、下着を着けていないようで色々と透けて見えるのである。正面に座って改めて二人を見て気づいてしまったのだが、正直目のやり場に困ってしまったよ。
「分かった」
「で、では!」
サナが立ち上がってワンピースを脱ごうとし始める。それを見てリツも立ち上がった。
「いや、待った待った!」
俺は二人を制して何とか再びソファに座らせた。
「君たちには何もしないよ。でもスノーウルフの餌にもさせないから俺に任せてくれないかな?」
「それはどういう……」
「まあ任せてくれ。それより一刻もあるし、君たちの話を聞かせてほしいな」
俺は和やかにそう言うと、ベッドから毛布を持ってきて二人に掛けてやった。これで彼女たちが薄着で寒い思いをしなくて済むし、何より目のやり場に困ることもなくなる。
タケダの王子は何かを企んでいるに違いない。しかしその何かが分からないのだ。このサナとリツに俺の子を身籠もらせてどうしようというのだろうか。
俺は二人の生い立ちについて話を聞きながら、姫殿下とユキさんたちの身を案じずにはいられなかった。




