第五話 妾のも見ても構わんぞ
脱衣所で服を脱ぎながらふと考える。先に入って何もせずに待つより、さっさと体を洗ってしまえばいいのではないか。そうすればユキさんやアカネさんに洗われて我を見失うこともないだろうし、姫殿下の命令も誤魔化せる可能性がある。よし、ここは行動あるのみだ。
俺は手際よくまず体を洗い、ついでに髪も洗って手ぬぐいを腰に巻いた。このまま浴槽に浸かるのはマナー違反だということは分かっていたが、まさか女の子たちの目に戦闘準備が整った俺の大砲を見せるわけにもいかないだろう。出来れば大砲というところにはツッコミを入れないでほしい。色々と否定的なことを言ったが、結局は俺も混浴が楽しみだというわけだ。
そして俺が浴槽に体を沈めたのとほぼ同時くらいのタイミングで、女の子たちが脱衣所にやってきたのが分かった。
「ヒコザ、ちゃんとおるか?」
「もう入ってますよ」
「これからそっちに行くゆえ、向こうを向いておれ」
さすがに浴室に入る時は目を逸らしていろということか。
「御意に」
「私はご主人さまに見られたいです」
「わ、私だって先輩に……」
「ならん! 淑女としての嗜みじゃ、我慢せい」
未来の二人の我が妻よ、俺だって見たいに決まってるじゃないか。しかし姫殿下にこう言われてしまっては逆らうわけにはいかないんだよ。
「ヒコザ、分かっておろうな。もしこっちを向いていたら……」
「ご心配には及びません。すでにそちらには背を向けております」
「う、うむ。ならば入るぞ」
浴室の引き戸が開けられ、三人がひたひたと歩いてくる足音が聞こえる。ここで振り向けば全裸の女の子たちの立ち姿が拝めるのだが焦りは禁物だ。何故なら混浴を申し出てきたのは女の子たちの方なのだから、俺はこそこそする必要もないし、後で正座させられたり殴られたりする心配もない。待っていれば向こうから近寄ってくるわけだし、裸だって見放題のはずである。しかし今ここで焦って下手を打てば、それらが全て水泡に帰してしまう。そんなことは絶対にあってはならないということなのだ。
「ところでご主人さまはどうして先にお湯に浸かっておられたのですか?」
三人が湯に入った音が聞こえた。
「さすがに裸でいるのは寒かったからね。先に体を洗って入らせてもらったんだよ」
「道理じゃな。妾たちもそなたに体を洗われるのは気が引けたよって、女湯の方で清めてきた」
ということは洗いっこはなしか。そうなるとちょっと残念な気もするが最大のチャンス、じゃなくてピンチは去ったということである。
「ヒコザよ、もうこちらを向いても構わぬぞ」
待ってました。俺は逸る気持ちを抑えながら、ゆっくりと三人の方に体を回転させた。
湯気が立っているとは言っても三人がかなり近くに来ていたせいで、顔はもちろん露わになった首から胸の上まではっきりと見ることが出来た。しかし肝心のそこから下は手ぬぐいで隠されている。もっとも胸元のところで押さえているだけなので、それが湯に揺れる度に見えそうになるのがたまらない。これはこれでアリだ。
「ヒコザ先輩、あんまり見られると恥ずかしいです」
ユキさんの顔が赤いのは温泉のせいばかりではないらしい。そりゃそうだよね。気が強いところもあるけど元々は恥ずかしがり屋なんだし、この状況は普段の彼女からしてみればあり得ないことなのだ。すぐにでも逃げたしたいと思っているのだろうけど、姫殿下とアカネさんの存在がそれを思い止まらせているといったところか。困った表情が可愛くてたまらないよ。
「お嬢様ばかりずるいです。私のことももっと見て下さい」
俺がユキさんの恥じらう姿に目を奪われていたせいで、アカネさんと姫殿下の二人が視界から消えてしまっていた。それに気づいたアカネさんが言葉とともにとんでもない行動に出たのである。アカネさんはその場で立ち上がり、押さえていた手ぬぐいから手を放したのだ。
「わ、妾のも見ても構わんぞ」
すると何を考えているのか姫殿下まで立ち上がって、アカネさんと同じように手ぬぐいから手を放す。こうなるとユキさんも黙って見ているわけにはいかなかったようで、三人そろって俺の目の前で体を隠すことを放棄してしまっていた。
「ちょ、ちょっとみんな!」
ところが幸か不幸か手ぬぐいは彼女たちの体に貼り付き、薄い布であっても隠すべきところを隠すという仕事を完璧にこなしていた。しかも絶妙な長さでギリギリ脚の付け根までをカバーしていたので、見た目的には超々ミニスカートを履いているのと同様、見えそうで見えない状態となっていたのである。これまた俺としては大アリだ。
加えてユキさんとアカネさんは胸に引っかかったこともあって、しばらく手ぬぐいが剥がれ落ちることはなかった。ただしぴったり貼り付いた手ぬぐいは、俺の脳内にしっかりと彼女たちの体のラインを焼き付けてくれていた。
だが、それも長くは続かなかった。次第に自重に耐えられなくなってきた手ぬぐいが、上からめくれ始めたのである。俺は身じろぎもせず、固唾を飲んでその時を今か今かと待つのだった。




