第十話 今夜から毎晩子作りに励め
その日の早朝、俺とユキさんにアカネさんを加えた三人を乗せた馬車は王城の前に着いていた。ここで用意された別の馬車に乗り換えてタケダ王国を目指すのだ。この馬車というのが実はかなり頑丈なものらしく、至近距離で矢を放たれてもキャビンに突き抜けることはないそうだ。
「国境までは二日で到着します。それまでの間は村人や商人を装った護衛が付かず離れずでお供致します。従いまして通行人には無闇に話しかけたりなさいませぬよう、お願い申し上げます。また途中のヒノハラ村で一泊となりますが、宿に着いたら建物からは出られませぬよう併せてお願い致します」
乗り換える馬車の御者が今後の説明としてそんなことを伝えてきた。この人も多分護衛の一人なんだろうけど、何だか窮屈な旅になりそうだ。
それにしてもこの馬車は大きい。頑丈ということはそれなりの重量もあるだろうから、馬が四頭立てというのは分かる。しかし中を見せてもらったが、外見以上にキャビンの広さが尋常ではないのだ。そもそも椅子がふかふかのソファだし、背もたれを倒したらフルフラットにもなるらしい。その面積たるや、軽く大型の荷馬車の倍はあろうかというほどなのである。
こんな規模の大きな馬車なら盗賊に狙ってくれと言っているようなものではないかと思ってしまうのだが、実際に襲われた時のことを考えると小さな馬車では心許ないのもまた事実である。結局は姫殿下の身の安全が第一ということなのだろう。
「皆、準備は出来ておるかの?」
馬車の前で待っていた俺たちの前に、可愛らしいベージュのトレンチコートを身に纏った姫殿下が現れて言った。膝上丈で細い姫殿下によく似合っている。裾から覗く細い二本の脚も愛らしい。
「アヤカ様、可愛らしいコートですね」
「そうか? ならば帰ったらユキにも同じものを贈ろう」
「ありがたき幸せにございます」
「ヒコザよ、此度はそなたが主賓ゆえよろしく頼むぞ」
「は、はい!」
「して、その者は誰だったかの」
「ミヤモト・アカネと申します。アヤカ王女殿下には初めてお目にかかります」
「アヤカ様、アカネさんは私と共に護衛を務めさせて頂くことになっております」
「ミヤモト……? ミヤモト……そうか、そちが。道中よろしく頼む。堅苦しくせんでもよいぞ」
「勿体ないお言葉、痛み入ります」
あれ、アカネさんの名前を聞いて姫殿下が何か含んだように見えたんだけど気のせいかな。それにしても今回は護衛の任に就くのでアカネさんも帯刀しているのだが、彼女の持つ刀がすごく長いように感じるんだよね。具体的に言うと俺やユキさんが持っている魔法刀より柄一つ分、二十センチほど長い。それに鞘も少しばかり太く見える。大太刀という部類の刀なんだろうか。
ところで馬車に乗り込む順番は昨夜のうちにユキさんから教えられていた。まずは姫殿下、次にユキさんとアカネさん、最後が俺ということだ。本当のところを言うと俺は準貴族だからアカネさんより先に乗ってもいいらしいが、紳士として女性に先を譲る方がスマートに映るそうだ。そういう意味で俺たちは馬車の外で姫殿下を待っていたというわけである。
「皆乗り込んだな。では出発じゃ」
ちなみに今日のユキさんはあちこちにフリルがあしらわれたピンクのワンピースの上から、白いピーコートを羽織っている。アカネさんは白のブラウスに紺のタータンチェック柄のプリーツスカートを合わせ、レモンイエローのピーコートという出で立ちだ。二人ともスカートの裾が膝丈なので、座ると可愛い膝が顔を覗かせている。まさに至福の景観なのだが、それよりも俺は姫殿下の太股に十二歳とは思えない色香を感じていた。基本的に俺には少女趣味はない。しかし太股こそ世の正義だと思っている俺にとって、姫殿下のそれは年齢など超越してしまう破壊力を持っていたのである。とは言え思う存分凝視するわけにはいかないのが辛いところだ。
「時にヒコザ、妾にはそちの視線が下を向いているように思えるのじゃが、気のせいかのう?」
あ、バレてた。
「な、何をおっしゃいます姫殿下。そのようなことがあるはずが……」
「構わぬぞ。妾の太ももを見たければ存分に目に焼き付けるがよかろう」
「あ、アヤカ様!」
「ご主人さま! 私のも見て下さい!」
「ん? ご主人さま? 誰のことじゃ?」
「もう、アカネさんまで!」
「私はコムロ様の第二夫人となる身ですので」
「ちょ、アカネさん、今そんなこと言わなくても……」
「ほほう? つまりはユキだけではなくアカネもヒコザの嫁になるということじゃな?」
姫殿下、どうしてそんな悪人面笑いをしてるんですか。
「よもやこの旅で子作りしようなどと考えておるわけではあるまいな?」
「そ、そんなまさか! ねえ、ユキさん、アカネさん……?」
「子作り……」
「子作り……きゃっ!」
ユキさんは頬を赤くしてモジモジしない。アカネさん、きゃって何ですか、きゃって。
「どうやら二人の奥方は満更でもない様子じゃぞ。どうするのじゃ?」
「ど、どうするって……」
「全くヒコザは煮え切らん男じゃの。よし、では妾が申しつける。今夜から毎晩子作りに励め」
いきなりの無理難題を吹っかけられて、俺は途方に暮れるより他なかった。




