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第十三話 特別ですよ

「イチノジョウ殿下、とうとうササ殿下が動き出したようでございます」

「そうか、兄上が……」

「事もあろうに陛下に刺客を送り込んだようで」


 タケダ・イチノジョウはオオノ・ショウゴロウの報告に、眉一つ動かさず口元に笑みを浮かべる。


「よもやあの父上が兄上ごときに後れをとることはないだろうが父上もご老体の身、まさかの時には私が兄上を討たねばなるまい」

「では陛下にご加勢を?」

「いや、父上から求めがあってからで構わん。もっとも万が一父上が討ち取られた際にはすぐに出撃出来るように軍を待機させておけ。それから西のオダ(がた)に送る間者の数も増やすのだ。この機をオダが黙って見過ごすとも思えんからな」

「御意」


 ショウゴロウは(うやうや)しく一礼すると、足早に玉座の間を後にした。それと入れ替わりに薄い絹のような衣を(まと)った、ほっそりとした美しい女性がイチノジョウの前に歩み寄って(ひざまず)く。色白で長い銀髪をたたえた女性は名をミスズといい、イチノジョウ配下の忍者を束ねる色香と武芸に秀でる女将(じょしょう)であった。


「ミスズよ、そなたは相変わらず美しいな」

「ありがたきお言葉にございますわ、殿下」

「話は聞いていたな?」

「はい、私の配下の者にも手配りを済ませました」


 イチノジョウは玉座から立ち上がり、ミスズの許に進んでその体を抱きしめる。甘い吐息を漏らした彼女は、そのままイチノジョウに全身を預けた。


「お前なら兄上のところのキクに負けるとは思わぬが、用心に越したことはないぞ」

「はい、必ずや討ち取って殿下の許に戻って参りますわ」

「その功績があれば私の妻として迎えてやれる。くれぐれも抜かるなよ」

「はい」


 二人は抱き合い、激しく口づけを交わすと玉座の間の奥に消えていった。




「ユキさん、ごめんね」

「いえ……」


 ようやく人通りの少ない裏路地に辿り着いた俺たちは、何となく気まずい雰囲気で互いの言葉も少なくなっていた。


 ちょっと可哀想なことをしてしまったと思う。ユキさんには男性に対する免疫がほとんどないことをいいことに、俺は調子に乗りすぎたようだ。免疫がないのに往来であんなことをされたら、かなりのショックを受けるに違いないのである。それなのに俺は自分の気持ちを抑えることが出来なかった。曲がりなりにも一度人生を全うしているのに、そんなことも考えられなかった自分が恥ずかしくて仕方がない。しかしユキさんは少し落ち着いたのか、ぎこちない笑顔ではあったが俺に微笑みかけてくれた。


「ヒコザ先輩、いきなりあんなことをされるとビックリしますから、もうしないで下さいね」

「う、うん……ごめん……」

「あ、あの! 勘違いしないで下さい。いきなりだったからビックリしただけで、ちゃんと心の準備が出来ていれば……」

「え?」


 あれ、ユキさんまた顔を真っ赤にしながらも大胆なことを(のたまわ)ってらっしゃる。


「で、ですから、イヤだったというわけではありませんから!」

「ユキさん……俺、ユキさんのこと傷つけてしまったんじゃ……」

「傷付く? いえ、嬉しかったですよ。ただ本当にビックリしてしまっただけですから」

「じゃ、じゃあまた抱きしめても……?」

「いきなりじゃなければ……あと人目があるところではちょっと……」

「今は? 今はどう?」


 こんなにデレたユキさんは初めてじゃないだろうか。俺はまたしても我慢出来なくなりそうだった。


「今……ですか?」


 言ってからユキさんは辺りを見回す。さすがに裏路地なので人の気配は皆無だ。


「ちょ、ちょっとだけなら……」


 ユキさんの言葉が終わらないうちに、俺は再び彼女を抱きしめていた。柔らかくて温かい感触と、ほのかな甘い香りが何とも幸せな気分にさせてくれる。そして今度はユキさんも驚いて硬直するという事態には陥っていないようだった。


「ヒコザ先輩?」

「うん?」

「キス……したいんですよね?」

「え? う、うん……いいの?」

「特別ですよ」


 そう言って目を閉じたユキさんの体は少し震えているようだったが、背中に回された彼女の腕はしっかりと俺を抱きしめてくれていた。俺はそのほんのりピンクに染まった唇に、ゆっくりと自分の唇を重ねてこの世の春を謳歌(おうか)するのであった。

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本作の第二部は以下となります。

暴れん坊国王 〜平凡だった俺が(以下略)〜【第二部】

こちらも引き続きよろしくお願い致します。

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