第六話 今宵はツチミカドを誘惑してはならんぞ
女たちに代わる代わる酒を注がれ、酔いが回って上機嫌になったツッチーはかなり打ち解けた様子だった。王家に長く仕える彼の話は彼女たちにしてみれば非常に新鮮なようで、皆楽しそうに聞いている。アズマ屋はそんな彼女たちにも酒と料理を振る舞ってくれていた。
「あまり大きな声では言えませんがな、実は我が主はお書きになる文字がとても独特なのです」
「え? どのようにですか?」
「他人が真似出来ぬほどに。時に難読なこともしばしば」
「つ、ツチミカド! 余計なことを申すな!」
女たちの楽しそうな笑い声は止むことがない。それはいいのだが、俺を引き合いに出すのはやめてくれ。
「オオクボ国王陛下はあのように見えて、実は御年十二歳の姫殿下に頭が上がらないのです」
義父が酒を吹き出している。
「その姫殿下は現在、タケダ王国の王妃殿下になられておいでなのです」
「ではタケダ国王陛下のお妃様なのですか?」
「いかにも。陛下には現在六人の妃殿下がおられます」
本国の領民たちには周知の事実でも、タケダの領地となって間もないコウフの民には目新しい情報だと思う。しかしそれをこんな酒の席で明かすなんて、ツッチーどれだけ酔ってるんだよ。
「それでツチミカド様は今回、何人を妻にお迎えになるおつもりなのですか?」
「なっ!」
ここで今度はツッチーが酒を吹き出した。墓穴を掘ったな。いいぞ、その調子でガンガンやれ。
「ひ、一人に決まっております!」
「何を申されるツチミカド殿。伯爵となられるからには世継ぎは必定。そのためには最低でも二人、出来れば五人は娶られた方が男子が生まれる確率も上がろうというもの。私ならこれだけの麗しい女子たち、全員を妻にしたいくらいですぞ」
ガモウ閣下がそんなことを言ったものだから大変である。これに義父が悪乗りしないはずはない。
「ならばノリヒデ、ツッチーのおこぼれを頂戴するか?」
「は?」
「義父上、さすがにそれは彼女たちに失礼です。彼女たちはツチミカドの嫁候補として集まってくれたのですから」
「そ、そうか。相すまん」
「そうですぞ陛下。それにおこぼれなど……」
「聞いた通りだアズマ屋。こちらのガモウ殿の嫁候補も集めてくれぬか?」
「なっ! タケダ陛下!」
ガモウ閣下には初めて会った頃に脅されたりしたからね。こんなチャンスは滅多にないし、しっかり仕返しをしておこうと思う。
「かしこまりましてございます。ですが今宵はさすがに……明晩でもよろしいでしょうか」
「其方もなかなかの商売上手よのう。我らにもう一日逗留せよと申すか」
「これだけの方々にお泊まり頂く機会など二度とございませんでしょうから」
「構わん。明日も頼むぞ」
「陛下! アズマ屋、それには及ばんからな!」
後で聞いたところによると、ガモウ閣下にはすでに多くの妻がいるとのことだった。だからこの話は残念ながらなかったことになる。それから一刻ほど宴会は続き、そろそろ夜も更けようとしていた。
「其方たちの中で、このままアズマ屋に泊まりたいと申す者はいるか?」
俺の言葉に互いに顔を見合わせた女たちだったが、皆で肯くと一人が遠慮がちに手を挙げた。
「国王陛下」
「何だ?」
「私たちはもっとツチミカド様のお話を聞きたいと思っております」
「つまり全員残りたいと申すのだな?」
「はい。ただ……」
「うん?」
「外泊のことを家に知らせて参りませんと心配すると思いますので」
それはもっともな話だ。若い女が無断で外泊すれば家族でなくとも心配するだろう。
「相分かった。しかしもう辺りは暗い。よって其方らの家にはアズマ屋から事情を説明させよう。構わぬか、モヘイ?」
「はい、もちろんにございます」
「それとこの女子たちが泊まれる部屋はあるか?」
「そちらもご心配なく。大部屋一つではございますが、この人数でしたら全く問題はございません」
「よし。ではツチミカドもそちらの部屋に移れ」
「は?」
「は? ではない。今宵は彼女らと共に過ごせと申しているのだ。其方らもそれでよいか?」
「はい!」
「お、お待ち下さい、陛下!」
「いや待たん。これは余の命である。背くこと相ならん」
ツッチーの情けない顔といったら。
「だが女たちよ、今宵はツチミカドを誘惑してはならんぞ」
「むろんツッチーが望んだのであればその限りではない」
俺は女たちに囲まれて悶絶するツッチーの姿を楽しみにしていたのだが、義父がさらに上をいくことを言ってくれた。それはそれで面白いが、さすがにツッチーの年齢では十人全員を一度に相手にするのは無理があるだろう。
「い、致しません! 致しませんぞ、そのようなことは!」
その夜、二人がツッチーの嫁となることが決まった。
いつも本作をご愛読いただきありがとうございます。
約1年半に渡って連載して参りました本作品も、残すところあと5話で完結となります。
その後は第二部を用意しております。
あとわずかですが、最後までお付き合い頂けると幸いです(*^_^*)




