第十八話 では裁きを申し渡す
「さてトラゾウ、お前の罪は王国に対する反逆罪と殺人罪だ。どちらも死罪、情状酌量の余地もない」
「そ、そんな国王様! ほ、ほらこの通り、金は返しますから」
言いながらトラゾウは先ほど受け取ったばかりの大金貨が入った革袋を差し出してきたが、そんなことでこの男の罪が許されるわけがない。だが――
「トラゾウ、一つ訊ねる」
「は、はい! 何でもお応えいたしやす!」
「コトブキ屋とコウフク屋の温泉が枯れているという噂は誠か?」
「はい? ああ、へい。もう何年も前から湧き出てるのはただのぬるま湯でさぁ」
「だがあの二軒は入湯料を取っていたな」
「まあ地中から汲み上げているのは嘘じゃねえですからね」
しかしそれだけでは入湯料を取れる基準を満たしていることにはならない。
「ハチマン屋を狙ったのは、やはり湯が目的か」
「このオンボロ宿は放っておいてもいずれ朽ち果てやす。だから取り壊して新しく建て直しやして、ついでに湯もコトブキ屋とコウフク屋に分けりゃ、三軒で儲けられるって寸法で……」
湯だけではなく新たに宿を造り直すことまで考えていたのか。だが残念ながらその目論見は露と消えることになる。
「他にもいくつか気になることがあるのだが、コトブキ屋とコウフク屋というのは繋がっているのか?」
「へえ。両方ともミネギシ組が元締めですぜ。もっとも上がりを撥ねるだけで運営には携わっちゃいませんが」
「みかじめ料とは違うのか?」
「二つの宿は土地建物が全てミネギシ組のモンですからね。どちらかというと大家みたいなもんじゃねえですか?」
それにしてもよくもまあペラペラと喋るものだ。その方がこちらとしても楽でいいが、死罪が減じられるとでも思っているのかね。
「そうか。もう一つ訊きたいのだがトラゾウ、お前金貸しの鑑札は持っているのだろうな?」
「へ? いえ、持っちゃいやせん。取り立てはミネギシ組の代理なんでね」
「ではミネギシ組は持っているということか?」
「少なくともあっちにいた頃はあったはずですぜ。ヤクザ者と言うのはその辺り、付け込まれないようにきっちりしてやすから」
「そうか、よく分かった。警備隊、入れ!」
俺は宿の外に待機させていた警備隊員を呼び入れた。昼間スズネさんが調査に出る時に、呼んでおくように頼んであったのだ。
「この者たちを牢に放り込んでおけ」
「あ、あの、国王様?」
「何だ?」
「これだけお応えしたんですから、死罪は……」
「そうだな。反逆罪は一等を減じてやろう。しかし人を殺した罪は消えるものではない」
「そ、そんな!」
トラゾウは期待が外れて暴れようとしたが、両側を警備隊員にかっちり押さえ込まれて為す術がなかった。彼の手下二人も同様である。そして彼らが宿の外に連行されてから、俺はニセモノの男に向き直った。
「さて余のニセモノよ、名を何と申す?」
「こ、国王陛下! どうか、どうかお許し下さい! 決して陛下を貶めるつもりではなく……」
「陛下はあなたの名を訊いておいでなのです。お応えなさい」
スズネさんが少々厳しい声色で言うと、ニセモノはさらに震え上がって歯をガチガチ言わしているが、何とか自分の名だけは名乗ろうと努力しているようだ。
「い、いち……いちち……」
「それでも余のフリをしていた男か、情けない」
「い、いちの……イチノスケにご、ごじゃいます」
イチノスケか。あの時コトブキ屋で呼ばれていた名が本名だったとは。それにしてもこの男、何だか初めてオオクボ国王に会った時の自分を見ているようだよ。
「イチノスケ、たとえどのような理由があっても余の名を騙るとは重々不届き。よって死罪申し付ける……」
「お、お待ち下さい!」
そこで声を上げたのは彼の伴をしていた女性の一人だった。これまで押し黙っていたのでイチノスケに無理矢理連れ回されていたのかと思っていたが、この様子だとそうでもないようだ。
「女! 陛下は発言をお許しに……」
「まあ待てサエキ。構わぬ、申してみよ」
「はい。イチノスケ様はご自身のお父君ばかりでなく、私たちの家族の死の真相まで探られていたのです」
女性が言うには彼女たちの家族もまた、金を奪われた上に何者かに殺されたのだという。身分が奴隷だったため又小作くらいしか仕事がなく、毎日食うや食わずの非常に貧しい生活を余儀なくされていた。そこに手を差し伸べてくれたのが、今は亡きハチマン屋の主だったのである。
ちなみに又小作とは地主から直接土地を借りるのではなく、仲介人のような立場の者が間に入る制度である。いわゆる下請けと考えれば分かりやすいだろう。
「その年は豊作で、私たちも普段より多くの収入を得ることが出来たのです。それでいつも助けて頂いていたハチマン屋さんに少しでも恩返しをしようと、両親がわずかばかりのお金を持ってハチマン屋さんに向かったのですが……」
「それきり帰ってこなかったのか?」
「はい。両親の死体が見つかったのは、それから数日後でした……」
「イチノスケに訊ねる。何故金もないのにコトブキ屋に泊まっていた?」
「コトブキ屋がミネギシ組と繋がっているという噂を聞いたからです」
ミネギシ組は古くからこの地に巣くうヤクザで、彼の父親や彼女たちの家族を殺したのも組の者ではないかと当たりを付けていたそうだ。ただどうやって証拠を掴めばいいのか分からず、行き当たりばったり的に宿に泊まっていたらしい。しかし格式高い宿に金もなしに泊まれるはずもなく、苦し紛れに考えついたのが国王になりすますということだった。
「現在このエンザンに陛下がいらっしゃっていることは皆知っております。そして時々町中に出ておいでなのも」
「それで余の名を騙っても、誰も不思議に思わなかったわけか」
ツッチーに知られたら二度と城下を徘徊させてもらえなくなるだろう。
「お、お願いでございます、陛下!」
「うん?」
そこでなりふり構わず、イチノスケが俺に向かって叫びを上げた。
「私は恐れ多くも陛下の名を騙った重罪人。死罪になっても仕方ありません。ですが、この女たちには罪はございません。どうか、どうかこの二人は許してやって頂けませんでしょうか」
「イチノスケ様!」
「そして陛下のお力でミネギシ組を懲らしめ、大恩あるハチマン屋を救っては頂けないでしょうか」
「イチノスケさん……」
「そうか。では裁きを申し渡す」
俺が跪いて頭を下げるイチノスケと女二人を見ていると、シズが祈るような目をこちらに向けてくるのだった。




