第十七話 その痛み、地獄までの伴となさい!
本話は少々残酷なシーンがあります。
苦手な方はご注意下さい。
マツダイラ閣下の言葉に、その場にいた全ての者たちは驚きを隠せないでいた。それは半ば拷問されて半死半生の女たちも同様であった。城下の番屋にこの国の最たる貴族、つまり国王がいるというのだ。無論それは俺のことである。
「控えよ!」
そして一瞬の沈黙の後、捕らえられていた者たちも書役の者も、全員が一斉にその場に平伏していた。ただ一人、茫然自失のケンシロウを除いてである。
「陛下に刃を向けた愚か者め! 無礼はこのマツダイラ・トモヤスが許さぬ!」
「お待ちなさい!」
ところがケンシロウの首を刎ねようと閣下が刀を振り上げた時、怒気に満ちたユキたんの声が彼の動きを止めた。
「ユキ王妃殿下、何故お止めになるのですか? このような者の血で妃殿下の刀を穢すことはございませぬぞ」
「いいえ、この者は私が成敗致します。楽には死なせません」
言うとユキたんはゆっくりとケンシロウの前に歩み寄った。
「女子の受けた屈辱は女子にしか分かりません」
「あ、アイツらだっていい思いしたじゃねえですか」
「お黙りなさい!」
ユキたんはマツダイラ閣下に殴られて鼻から血を流し、腫れ上がっている彼の頬を力いっぱい平手で打つ。そして次に彼女は、たった今まで吊されていた女たちの方に視線を向けた。
「あなたたち、辛かったでしょう? 心に負った傷は一生消えることはないでしょう。ですがその痛み、私がほんの少しでも癒して差し上げますから、その目でよく見ておきなさい」
再びユキたんがケンシロウに視線を戻す。そこには普段の慈愛に満ちた光は欠片もなかった。そして――
「この者の衣服を全て剥ぎ取りなさい!」
「は、はい?」
「この者を全裸にして後ろ手に縛り上げなさい」
「は……はっ!」
言われた通りマツダイラ閣下はケンシロウの服を手荒く引き裂く。途中ケンシロウは抵抗しようとしたが、もう一度殴りつけられて最後はされるがままその場で全裸に剥かれ、そして後ろ手に縛り上げられていた。
「目明かしケンシロウ、両膝をつきなさい」
「は……え?」
「妃殿下のご命令だ。従え!」
言うが早いかマツダイラ閣下が彼の膝の裏を蹴りつけると、たまらずケンシロウは膝立ち状態となった。
「そのまま腰を突き出すのです」
「あ、あの……」
「マツダイラ殿、その者の上体を反らせなさい」
「ユキ?」
「王妃殿下、一体何を……?」
訝しげな表情を浮かべながらも閣下は背後からケンシロウの両肩を掴み、腰に膝を当てて後ろに引く。これでケンシロウの体はえび反りのような格好になったわけだが、まさかユキたん、まさかだよね。
「マツダイラ殿、その者が逃げられないようにしっかりと押さえていなさい。その者の……切り落とします!」
ちょ、ちょっと待った。それはあまりにも悲惨というか、ある意味男としては殺されるよりキツいというか。
「い、嫌だ! ま、待って下さい! それだけは、それだけはどうかお許し下さい!」
ケンシロウもこれから何をされるのか分かって、途端に泣きわめき始めた。しかし王妃に命じられたマツダイラ閣下が彼を逃がすことはない。全く微動だに出来ないほどに彼は自由を奪われていたのである。
「おそらくそこの女子たちも、きっとあなたにそう言って赦しを請うたのではありませんか? 女子の痛みはそれほどのものだと知りなさい!」
「……ぎゃあっ!」
次の瞬間、無情にもユキたんの刀はケンシロウの男としての証を切り落としていた。それと同時にマツダイラ閣下が彼を押さえる手を放したのだが、うずくまってのたうち回る姿に、俺も閣下も恐怖を感じずにはいられなかったのである。痛そうとかそういう問題ではないよ、これ。しかし彼から辱めを受けた女たちの誰一人として、同情を寄せる者はいなかった。
「いくら男性が少ない世とは言え、女が意に反して辱められるということは死にも等しい屈辱なのです。その痛み、地獄までの伴となさい!」
ユキたんはそう言い放つと、ケンシロウの背中に魔法刀を突き立てた。胸を後ろから突かれた彼はそれで絶命する。しかし彼女の怒りはそれだけでは収まらなかった。
「この者の首は鋸で引いて獄門台に! それでよろしいですね、陛下?」
「ん? あ、ああ、うん。構わん」
殺されてなお首を鋸で切られて獄門台に晒されるとは。彼に同情する気は起きないが、何とも哀れな死にざまである。
「あなたたち、これでほんの僅かでも気が晴れましたか?」
「お、王妃様!」
「もったいない、王妃様が私たちのために……」
その後駆けつけた警備隊によって番屋の関係者は全員捕らえられ、後に多くが死罪となった。さらに調べが進むにつれて番屋では日常的に非道が行われていたことが明らかになり、俺はそれを改めるために書役を廃止して警備隊員を常駐させることにしたのである。
「それで、あの首を刎ねられたギスケと申す者の一味はどうなるのですか?」
ミノリ姫はケンシロウと結託していた連中のことを気にしているようだった。もちろんそれを俺が忘れるわけがない。
「マツダイラ、そちらの方も頼んだぞ」
「御意」
しばらくして今回の件が城下に噂として広まり、特に女たちの間でユキたんの人気が急上昇したのは言うまでもないだろう。
次話より『第二十七章 逆襲の王国』に入ります。




