第十一話 あはんっ!
「オガサワラ殿、従者が一人見えないようだが?」
「善は急げと申しますからな。早速娘を迎えに行かせました」
歓待の宴の席に現れたのは、オガサワラ国王と従者一人のみだった。それで疑問に思って尋ねたのだが、何とも気の早いことである。
「明日は早々にこちらを発ち、隊を整えて作戦を進めるつもりです」
「その者たちに武運を。そう伝えてくれ」
今回の作戦の中で、最も命の危険に晒されるのはその部隊である。出来れば一人も死なないでほしいが、恐らく何人かは命を落とすことになるだろう。
そして宴が始まった。
「これは! 何と美味な!」
オガサワラ国王は初めに振る舞われた果実酒に目を輝かせていた。六人の妻とトリイ、イヌカイ、マエダの三人を加えた宴席は大いに盛り上がりを見せる。出された料理もなかなかの味で、野菜も然る事ながら肉料理も魚料理もかなりの逸品だった。それは王城のクリヤマ料理長に勝るとも劣らない料理の腕と言えるだろう。トリイ侯爵もなかなかいい料理人を召し抱えているものだ。
「まさかこのようなもてなしを受けるとは思いもしませんでしたぞ」
「陛下、お酒はほどほどになさって下さいね」
グラスを傾け、アザイ王が何よりも好物としている果実酒を味わっていると、隣のユキたんが小声で囁いてきた。言われてみれば確かに、今夜はいつもと違って絶対に醜態を晒すわけにはいかない。だが、俺が酒に弱いことを知っているのは、この中では六人の妻たちだけである。グラスを空けると、すぐさまメイドさんが酒を注ぐのだ。注がれれば飲まないわけにはいかない。
「今宵は我が国とシナノ王国の新しき門出だ。大いに飲み、大いに食らおうぞ! ヒック!」
「おや、タケダ殿は酒に弱いのですか? 顔が茹でたように真っ赤ですぞ」
「ら〜にを言う。余は酔ってなどおららぬぞ」
豪快に笑うオガサワラ国王に、俺は気分がよくなってどんどんグラスを空けていった。
「ところれオガサワラ殿、姫というのは美人らのか?」
「陛下、失礼ですよ!」
「わっはっは! 美人ですぞ。私には五人の娘がおりましてな、どれも粒ぞろい。我が国の貴族たちが毎日のように嫁にくれと申しておりますわい」
いきなり変なことを聞いた俺をユキたんが咎めたが、彼の言葉に彼女を含めた六人の妻たち全員がほっと胸をなで下ろしていた。
こちらの世界で言う美人は、俺にとってはブサイクなのだ。そして彼女たちは俺を醜女好きだと思っている。基準が違うのだからそう思われても間違いではないのだろうが、だからこそ新しくやってくるシナノの姫が美人と聞いて安心したのだろう。
「しかしそれほろの美人であれば、ヒック! 余の城にくるのは不憫れはないろか? ヒック!」
「折を見て貴国の貴族に嫁ぐもよかろうと思っております。タケダ殿には貰って頂けないようですが、その分好きな男に恵まれれば娘も幸せでしょうからな」
やはり政略結婚などより、娘の幸せを願うのは父親として当然のことなのだろう。
「承知しら。姫のころは安心して余に任せるらよい……」
「陛下? 陛下!」
どうやら飲み過ぎたらしい俺は、そのままテーブルに突っ伏して意識を飛ばしてしまったのだった。
「ヒコたん、目が覚めた?」
何かとてもふわふわしていい気持ちだ。それに微かに甘い香りもする。俺はその感覚を離したくなくて、目の前にあるものにさらにしがみつくように抱きしめた。
「もう、ヒコたん、起きてってば」
「う、うん?」
声はユキたんのものだ。あれ、俺はいつの間に彼女の部屋に来たのだろう。夕べは確かオガサワラ国王と果実酒を酌み交わして、その後どうしたんだっけ。ああ、それにしても柔らかい。
「あっ! もう、ヒコたん! そんなに顔を擦りつけ……あっ!」
「あれ? ユキたん?」
「そこでしゃべっちゃらめえ!」
「はっ!」
ふわふわの正体はユキたんの胸だったようだ。俺は彼女の胸に抱かれて眠っていたらしい。何と幸せな気分だったことか。その感触をもう一度堪能したくて再び顔を埋めようとしたが、今度は彼女の手が許してくれなかった。そうこうしているうちに段々と意識がはっきりとしてくる。
「あ、あれ? そう言えばあの後俺……」
「私が飲み過ぎないようにって言ったのに、ヒコたん次から次へとグラス空けるから……」
「そ、そうだ! オガサワラ殿は?」
「もう発たれましたよ」
「ええ!」
「タケダ殿によろしくって」
俺が酔い潰れてしまった後も、宴は滞りなく進められたとのことだった。そして早朝、ユキたんを含めた六人の妻たちとイヌカイ、マエダの八人でオガサワラ国王を送り出したらしい。トリイ侯爵は国境まで彼の護衛として付いていったそうだ。
「参ったな」
「オガサワラ国王も笑っていたから大丈夫だと思いますよ」
彼女の話では目の前で酔い潰れた俺を見て、そこまで心を許してくれたのかと、逆に上機嫌だったという。それとオガサワラの姫は早ければ三日後には到着するだろうとのことだ。
国王がシナノに帰り着いてから十日ほどで作戦の第一段階が始まる。それまでになるべく多くの民をイサワから招き入れなければならない。
それはそれとして、今はもっも大事なことがある。俺はユキたんを抱き寄せると、唇を重ねて彼女を隅々まで味わうのだった。
「あはんっ!」
この作品ではおそらく初めての早朝予約投稿です。
よろしかったら評価入れて下さいw
いや、実は評価どうでもいいです。
ただ読んで頂けたら嬉しいです(^o^)
やっぱり作品を書いている以上、ポイントよりPVが何よりのご褒美ですの(*^_^*)




