第四話 マツダイラも構わんぞ
「サハシを捕らえたか!」
「はい、どうにか国境を越えさせずに済みました」
モモチさんが国境にたどり着いた時、子爵は異変を感じて逃げ出そうとしたらしい。しかしその時に持っていた金をばらまいてしまい、拾い集めようとしているところを捕らえられたそうだ。何とも間抜けな男である。
「持っていた金は?」
「大金貨で二百枚あまりでした」
「少ないな」
「先日の騙り商いで奪い取った商品の換金がまだだったようです」
ということは商品は元の商人に返してやれるということか。それにしても換金を棒に振ってでも逃げ出すとは、何たる嗅覚の持ち主だろう。
「サハシを連れてきたら訊問して、手下となって働いた者を全て洗い出せ。まとめて鉱山送りにしてやる」
「サハシ本人はいかが致しましょう」
同席していたマツダイラ閣下が尋ねてきた。死罪は当然のこととして、その方法を聞いているのである。
「サハシは城下引き回しの上獄門だ。無論その前に爵位は剥奪、家名は取り潰しとする」
そして召し上げた財産は、被害に遭った者たちへの救済に充てるように命じた。
「此度、陛下のご裁定は?」
「サハシごときに余が顔を見せてやる必要はあるまい」
「御意」
そこでツッチーが一歩前に出たので、何やら俺に言いたいことがあるようだ。
「ツチミカド、どうした?」
「はい。先ほど陛下のご学友ご一行が城に到着した由にございます」
「ご、ご学友?」
まさかオオクボ王国からはるばる訪ねてきてくれたということだろうか。いや、待て待て。彼らは俺がオオクボ国王の騎士になったことは知っていても、タケダ王国の国王になったことまでは知らないはずである。つまり、会ってしまっては何かと不都合が生じるのではないかということだ。
「陛下、ご懸念には及びません。その者たちは全てをオオクボ国王より知らされておりますれば」
「うん? これまでのこともか?」
「アヤカ王妃殿下が逐一、父君であらせられるオオクボ国王陛下にご報告なされていたようです。お会いになられてもよろしいかと」
それなら安心だ。俺も会えるものなら久しぶりに会いたいしね。でもどんな面子がやってきたんだろう。
「彼らも城内での所作は心得ておるようです」
「そうか。人数は?」
「七名でした」
内訳を聞くとまずは俺のクラスメイトでクラス委員のムラカミ・カイさん。彼女は確か槍術の使い手でこちらの世界ではかなりの美少女である。身長は俺と同じくらいあって女子としては規格外の大きさだったということを覚えている。
次に剣術部の副主将、カタクラ・ウコン君と部員二人だ。そう言えば剣術の大会で一勝出来たのかな。彼らはアカネさんの剣術指南を切望してたけど、稽古の見学を約束しておきながら果たせなかったんだっけ。
最後はユキたんのクラスメイトの三人、この子たちは以前俺に言いよってきた経緯がある。誰が許可したのか知らないけど、人選を間違えているんじゃないか。まあ懐かしくはあるけどね。
「それなら昼餉の席に招待しようではないか。クリヤマに伝えて俺が好きなアレを用意させろ」
アレとは豚肉の細切りと長ネギ、それにキクラゲのようなコリコリしたキノコを卵に絡め、オイスターソースに似た味付けで炒めた料理のことである。
「御意に」
「同席はユキとアカネだろうな」
「彼らはオオクボ陛下より、アヤカ王妃殿下の様子も見てくるように仰せつかっていると申しておりました」
「ならアヤカも同席させよう」
「ご用意は十一人分ですね」
「いや、少し多めに用意した方がいいな。おかわりを希望する者がいるかも知れん。もし余ったら食したことがない者たちで分けあうがよかろう」
剣術部の男子が三人もいるのだ。多分彼らには一人前では足りないだろう。
「ではこの私めが頂いても?」
何故かツッチーがいつもよりほんの少しだけ浮かれているように見える。もっとも彼と長く接していないと気付けない程度ではあるが。
「ツチミカドは食したことがなかったか」
「はい。機会があればと思っておりましたが、なかなかその機会に恵まれず」
「そうか。無論構わん」
「では二十人分ほど用意させましょう」
ツッチー、それは絶対に余らせて間違いなく自分もありつこうって魂胆だよね。そんなに食べたかったなら言ってくれればよかったのに。
「旅の疲れもあろう。七人には昼までゆっくり寛いでくれと伝えてくれ」
「かしこまりました」
ツッチーが一礼して執務室を出ていくと、マツダイラ閣下が何か言いたそうにしていたので、俺はこう言ったのだった。
「マツダイラも構わんぞ」
「はっ! ありがたき幸せ!」
あの料理、定番にすればいいのに。




