第一話 領民のために尽くしてくれよ
「お、王妃様とも知らずご無礼いた、いたたたしましたこと、どうかおゆ、お許し下しゃい」
シュウサク、噛みすぎだよ。そんな彼らを見てユキたんは優しく微笑んでいた。
「シュウサクさん、それに皆さんも面をお上げなさい。陛下も私も、あなた方を咎めるつもりはありませんから」
「へ、へへへ、陛下?」
料理屋の亭主も含めた五人が揃って俺の方を見て青くなっていた。どうやら俺が国王だということを、今になって気付いたらしい。
「名乗るつもりはなかったのだがな。ユキが明かしてしまったのだから致し方あるまい。余がタゲダ・イチノジョウだ」
「まあ、私が悪いみたいな言い方」
ユキたんの膨れっ面はいつ見ても可愛い。
「亭主、其方いい料理の腕を持っておるな」
「も、勿体ない。そのお言葉を頂戴しただけで店を続けてきた甲斐がございます」
「妻の体を重んじてのあの野菜の煮込み料理。余も食してみたいものだ」
「は、はい! ただ今!」
出せと言ったつもりはないのに、亭主は慌てて奥に引っ込むとその野菜の煮込みを持って戻ってきた。
「国王陛下にお出し出来るような器はございませんので、どうかこれで」
「構わん。頂いてみるとしよう」
せっかく出してくれたんだからね。そして食べてみたがユキたんの言った通り本当に美味い。それに優しい味もする。おそらくは丹念に灰汁抜きしながら、じっくり煮込んだのだと思う。
「亭主、何か書くものはあるか?」
「書くもの……はい! お待ち下さい」
俺が出された料理を食べている間に、紙と筆を持って亭主が戻ってきた。料理はさっき途中で台無しにされたユキたんが食べたそうにしていたので、彼女に渡して俺は筆を滑らせる。
「亭主、これを店に貼っておくがいい」
「野菜の煮込みはかくあるべし。タゲダ王国国王、タゲダ・イチノジョウ……こ、これはお墨付き!」
俺が書いた墨付きを持った手をわなわなと震わせて、店の亭主は目に涙を浮かべていた。
「野菜の高値はそれほど長くは続かない。しばらくは難儀するであろうが、これからも美味い料理を安く領民達に食わせてやってくれよ」
「勿体ない、勿体ない……何とお礼を申し上げればいいのか」
「亭主、よかったな! 俺っちも嬉しいぜ!」
「それからシュウサク」
「は、はい!」
亭主の喜びを自分のことのように、シュウサクも涙を浮かべて喜んでいる。そんな彼だったが、俺に呼ばれて直立不動の姿勢になっていた。
「飯を奢ってくれたこと、ありがたく思う。貧しいと言われた時には困ったがな」
「あ……も、申し訳ございません! 国王様だなんて知らな……存じ上げませんでしたので」
「よい。気概ある其方のこと、余は非常に気に入ったぞ。ユキのことまで気遣ってくれたしな。何か礼をしてやりたいが、望みがあれば申せ。出来ることなら叶えてやる」
「そ、そんな! 俺っち……わ、私はこのご命令書を頂いただけで満足でございます」
「まあ、そう申すな。そうだな、ならばそこに跪け」
「はい? はっ! かしこまりました!」
シュウサクが言われた通りその場に跪くと、俺は刀を抜いて彼の肩に置いた。その時ちょっと力加減を誤ってしまったので、彼はよろけそうになっていたが、この魔法刀の重さに耐えたのは立派である。
「シュウサク……家名は何と申す?」
「はい、バンドウにございます」
「ではバンドウ・シュウサク。其方に今この時、騎士の称号を与える」
「へ?」
訳が分からないという表情でシュウサクが顔を上げた。そこにユキたんが小声で囁く。
「陛下はあなたを叙任されたのです。謹んでお受け致します、とお応えなさい」
「つ、謹んで……お受け致します……って、ええ?」
「本来は城で行うのだがな。そうすると口うるさい者がおる故、この場にて許せ。勲記は後ほど届けさせる」
口うるさい者とは言わずと知れたツッチーのことだ。
「じょ、叙任……?」
「では私からは刀を贈りましょう」
騎士となった彼は帯刀を許されることになる。しかし刀をあつらえる金などないだろうから、ユキたんの贈り物はこれ以上にないもののはずだ。
「すげえ! すげえよシュウサク!」
「今後はシュウサク親分ではなく、サー・シュウサクと呼ばせてもよいのだぞ」
「俺っちが……騎士……」
「シュウサクよ」
「は、はい!」
「今後も余のため、いや、領民のために尽くしてくれよ」
騎士となったシュウサクはその後、警備隊付きの目明かしから目明かし頭へと出世することになる。名前こそ目明かし頭だが、その権限は警備隊と同じということだ。彼のことだから、大いに活躍を期待出来るだろう。
残るはサハシ子爵の成敗である。ユキたんの言った通り、俺は奴を絶対に許すつもりはない。そう心に誓いを立て、俺たちは王城への帰路につくのだった。




