第七話 これからも陛下の許で働かせて頂きます
「ダイコク屋のおフサと申します。是非、国王陛下にお目通り願いたく」
「貴様、平民の分際で陛下に謁見を申し出るなど、無礼であるぞ!」
「こちらは代償も理由の説明もなく土地を召し上げられたのです。ご説明頂くのが道理ではありませんか?」
トクラ荘の門前で、衛兵とダイコク屋のおフサが押し問答を始めていた。彼女にとってみれば、土地を取り上げられた理由を説明しろというのは至極当然のことだろう。まして金の亡者との悪名高いおフサであれば、身分など関係ないというところだ。
「何事だ、騒々しい」
「へ、陛下!」
「国王陛下、ダイコク屋おフサにございます」
「ほう、其方がおフサか」
こういう時に頼りになるのはウイちゃんである。彼女はスッと現れて俺の隣に並び、それとなく護衛をしてくれるのだ。
「失礼ながら陛下のお隣の女性はどちら様でしょう?」
「ぶ、無礼者! あの方は王国第五王妃、ウイ殿下にあらせられるぞ!」
「これはご無礼致しました。何分先日まで私はオダ帝国の者でしたので、陛下のご尊顔もさることながら、王妃殿下のお顔も初めて拝させて頂いたのです。何卒ご容赦賜りますよう」
そう言っておフサは頭を下げたが、単に言葉が丁寧なだけで、声色からこちらを軽視していることは明らかである。
「して、何用か?」
「率直に申し上げます。この度のダイコク屋の土地のお召し上げは如何なる理由があってのことでしょう?」
「ああ、そのことか」
俺はそこで衛兵を呼んでおフサを門の中へと招き入れた。彼女はそれを当然のこととして、臆することもなく衛兵に一瞥をくれてから俺の前に歩み出てくる。
「さあ、お聞かせ頂きましょう」
「よかろう。いずれは布令を出すところだ。ダイコク屋はここエンザンでも名うての名主らしいな」
「先の戦で亡くなりましたが、私の夫の代で二十三代目となります。それがどうかなされましたか?」
「いや、なに。それもお前の代で終わるとなると少々不憫に感じてな」
「な、何をおっしゃいます!」
それまで努めて冷静さを装っていたおフサは、顔を赤くして怒りを隠せない様子だった。
「黙れ! ダイコク屋おフサ、この度の召し上げはほんの始まりに過ぎぬ! 近いうちにダイコク屋の土地は全て没収致す」
「何故そのような……」
「お前の亭主は先の戦で先陣を切って余の国に攻め入ったではないか。本来ならば家名は取り潰し、私財は家屋敷含めて全て没収と致すところを、特別に屋敷だけは残してやろうというのだ。ありがたく思うがよい」
「横暴でございます!」
「戯けが! 人の土地に武力で押し入ることと、どちらが横暴と申すか!」
「それは夫のしたこと。私には関係ございません!」
「ならば問う。ダイコク屋の身代は誰のものか!」
「そ、それは……名目上は夫の物ですが、取り仕切っているのは私めにございます」
「おフサよ、その名目が大事なのだ。先ほど其方も申したであろう?」
「な、何をにございますか?」
「先日まで私はオダ帝国の者でしたので、陛下のご尊顔もさることながら、王妃殿下のお顔も初めて拝させて頂いたのです。何卒ご容赦賜りますよう」
そこでウイちゃんがおフサの声色そっくりに、おフサが言った言葉を繰り返した。これにはさすがの彼女も開いた口が塞がらないようである。
「つまりだ、余はダイコク屋の実権が誰にあったかなど知らぬ。故に名目で判断するということだ。分かったら帰れ。これ以上食い下がるならは無礼討ちに致すぞ!」
俺はそう言って腰から刀を抜いた。こうなるとすでに爵位を剥奪されて帯刀を許されていないおフサに抗う術はない。
「当座の生活資金程度は支給してやる。もっともこれまでのような贅沢な暮らしは出来ぬだろうがな。それでも不満ならいずれ国境の封鎖は解かれよう。そうなってから全てを捨ててこの土地を出ていくがよかろう」
ダイコク屋おフサは肩を落とし、力ない足取りでトクラ荘を去っていった。金の亡者が金を失うのはどういう気持ちなのだろう。そんなことを考えていたら、ほんの少し彼女が気の毒に思えてきた。
「それも国をよくするためですわ。何も命を奪おうというのではありませんもの。ヒコザ様は間違っておられませんからご安心下さい」
「ウイちゃん、ありがとう」
もちろんこの会話は衛兵には聞こえていない。俺がウイちゃんを抱きしめると、彼女は心地よさそうにこの胸に顔を埋める。その数日後、俺たち一行は来た時と同じ人数で王城への帰路に就いた。つまりミナヨは最初の言葉通り、実家には残らなかったということである。
「私はすでにトクラ家を去った身。これからも陛下の許で働かせて頂きます」
そう言って笑う彼女の顔には、どこか清々しささえ感じられるのだった。




