第十五話 余が直々にその首刎ねてやる!
甲高い金属音と共に、ミヤノの放った棒手裏剣が天井に突き刺さっていた。アカネさんの刀に弾き飛ばされた毒矢が軌道を変えていたのである。
「陛下のご命令です。貴方如きに我が奥義をお見せするのは忍びないのですが、これも今生の定めと知るがよいでしょう」
言うとアカネさんはいつものように刀の鞘をポンと叩き、入れ替わったところから二振り目の刀を抜く。そして彼が二本目の棒手裏剣を握る前に、二つの切っ先が手首から先を斬り落としていた。
「がぁ!」
辺りにおびただしい血が飛び散り、ミヤノは痛みに耐えかねて思わず膝をつく。それを頭上から見下ろす形でアカネさんは横に回り、一つ瞬きしたところでゴトンという音と共に彼の頭は床に転がされていた。
「ショウエモンはどうだ?」
「妾が毒を吸い出したのじゃ。無事に決まっておる」
ショウエモンの奴、アヤカ姫に手当てしてもらえるなんて果報者だぞ。まったく、俺の言ったことを聞かないからこんなことになるのだ。
「へ、陛下……」
それから俺たちはミサキ屋に特別鑑札を奪われたこと、ミヤノはこのカワチ屋の店と屋敷の権利証が目的だったと知る。だが、ミノワ伯爵がここを乗っ取って何を企んでいるかまでは分からなかった。
「この騒ぎで間もなく警備隊がくるだろう。そうしたらひとまずショウエモンは診療所に行け。娘のことは俺たちに任せろ。いいな」
「は、はい。申し訳ございません」
それにしても事件にミサキ屋まで絡んでいるとは盲点だった。カワチ屋の特別鑑札を奪ったということは、王家御用達を独り占めしようという魂胆なのだろう。
その上鑑札には屋号や通し番号などが書かれているわけではない。持っていれば城の出入りは実質的に自由となるのだ。無論俺や妻たちの部屋に入るのは簡単ではないが、入城するのが目的ならこれ以上便利なものはないと言える。あるいはそれをミノワが手に入れて、城に忍び込むことを画策しているのかも知れない。
ショウエモンが警備隊に伴われて店を出た後、俺たちはミサキ屋に向かうことにした。もしキュウベエが鑑札を奪っただけでなく、ミノワに渡すつもりなら阻止する必要がある。そしてミサキ屋は俺たちが店に到着したまさにその時、籠に乗ってどこかに行こうというところだったのである。
「キュウベエ、どこへ行く?」
「ま、まさか……国王陛下!」
慌てて籠から出て跪くキュウベエを見て、籠屋も驚いてその場にひれ伏した。周りにいた店の者はただ唖然とするばかりだ。
「こ、これ! こちらは国王陛下と王妃殿下だ。皆、跪きなさい」
「余が命ずる。店の者はその場にて控えておれ。キュウベエ、中に案内せよ」
「あの、ですが私はただ今から行かなければいけないところが……」
「ほう? ミサキ屋、陛下を差し置いてまで大事な何かがあるとでも申すのか?」
アヤカ姫が挙動不審な様子のキュウベエに、覚めた口調で問う。
「い、いえ、あの……」
「ミヤノと名乗っていた者は先ほど陛下のご命令で私が斬りました。あなたも陛下に背くのなら同じ道を辿ることになるでしょう」
言いながらアカネさんが刀を抜くと、途端に彼は腰を抜かしてその場にへたり込んでしまった。店の中に案内しろと言ったのに、いっそのこと蹴り飛ばしてやろうか。
「わ、わわ、分かりました!」
だが何度もよろけながら、キュウベエは俺たちを店に招き入れた。そして応接間のような部屋に通され、俺の隣にアヤカ姫が腰掛けたところで彼はその場に跪いた。アカネさんは俺の横で刀を手にしたままである。
「へ、陛下、あの、本日はいなかる御用向きで?」
「何じゃ、言わねば分からぬのか?」
「王妃殿下、私には何が何やら……」
「見苦しいぞミサキ屋! 貴様カワチ屋から特別鑑札を脅し取ったであろう?」
「知らないと言われるのでしたらその衣服を斬ってみましょうか?」
アカネさんが刀を上段に構えるのを見て、キュウベエは真っ青になりながら両手で待ってくれという素振りを見せる。
「い、衣服を斬るって、そんな!」
「もちろん、いくら私でも衣服だけを斬ることなんて出来ませんから、ミサキ屋さんも怪我をされると思いますけど」
「アカネは実は剣術の達人でな。つい今し方もただの一振りでミヤノとか申す賊の首を斬り落としたばかりだ」
「お、お待ち下さい! これをある人に届けないと私が殺されて……」
そこで俺は目の前の卓を蹴り飛ばして立ち上がった。すると卓がキュウベエの足に当たり、彼は痛さのあまりうずくまって顔をしかめる。
「ミサキ屋キュウベエ、見下げ果てたぞ。余が直々にその首刎ねてやる! そこへ直れ!」
怒り心頭で刀を抜いた俺を見て、彼はガタガタ震えながら尻もちをついた状態で後ずさろうともがいていた。
「お、お許しを! 返します。お返ししますからどうか命だけは!」
観念したキュウベエは、懐に隠し持っていたカワチ屋の特別鑑札を差し出してきた。だがこの男はもう終わりだ。ミノワ伯爵に踊らされたとは言え、その同情を差し引いてもこれ以上城に出入りさせるわけにはいかない。
「キュウベエ、お前に与えた特別鑑札もここへ持ってこい」
低い声で俺がそう言うと、彼の目には後悔の涙が浮かんでいた。




