第十三話 まず間違いないと余はそう考えている
俺がアザイ陛下からカワチ屋のおタキとおセンが拐かされ、ミノワ伯爵の屋敷に連れ込まれたことを聞いたのは翌日のことだった。今のところ二人は無事だが、彼女たちが攫われる際に数人の手代が殺されたという。
「放っておくと二人の女子がミノワとかいう小僧に辱められそうだったのでな。昨夜はちょいと脅かして眠らせてやったぞ」
陛下、グッジョブですけど脅かしたのはちょいとってレベルじゃないでしょう。それにしてもアザイの王からしてみれば、そこそこいい歳のはずのミノワ伯爵も小僧と呼ばれてしまうわけか。
「あれ、陛下御自ら行かれたのですか?」
「うむ。余もたまには遊んでみたかったのだ」
「父上は別嬪と噂される娘たちをご覧になりたかっただけですわ」
「こ、これウイ、余計なことを申すではない!」
今この執務室には俺とアザイ陛下の他、ウイちゃんしかいない。幽霊が苦手なツッチーは何やら理由をつけてどこかに行ってしまったし、アザイ王と話す時は衛兵も下がらせているのだ。ただ、ちょっと室温が低いと感じるのはやはり二人のせいだと思う。
「時に婿殿、あの小僧ならすぐにでも絞め殺してやれるがどうする?」
「いえ、突然領主がいなくなっては領民も混乱するでしょう」
ハタガヤ道場の件も調べなければならないし、ミノワを殺すだけでは根本的な解決には至らないだろう。それにあのお供え物の果実酒は簡単に手に入るものではないのだ。
「拐かされたカワチ屋の姉妹の方は早急に手を打たなければなりませんが、そちらの方はモモチさんがうまくやってくれると思いますので」
彼にはすでにアザイ王を通じてミノワ伯爵の件が伝わっているのである。
「そうだウイちゃん、カワチ屋のショウエモンを城に呼ぶようにツッチーに伝えてくれるかな」
「お安いご用ですわ」
娘二人と手代が消えて、おそらくカワチ屋は困り果てているに違いない。それから半刻ほどして、ショウエモンが城に到着したとの知らせが入った。
「ショウエモン、先日は世話になったな」
謁見の間に通されたショウエモンは、憔悴しきった様子で俺とアヤカ姫の前に跪いていた。
「国王陛下と王妃殿下には格別のお計らいを頂き……」
「堅苦しい挨拶はよい。それより娘御が二人とも攫われたらしいの」
「な、何故それを……! や、やはり娘たちは拐かされたのですか?」
アヤカ姫の言葉に、彼の顔からは血の気が引いていた。
「だが安心しろ。間もなく二人は助け出してやる」
「なんと! それは誠にございますか?」
「余の言葉に偽りはない。それよりショウエモン、其方には娘たちが攫われた理由が分かるか?」
「いえ、全く見当がつきません。商いをしておりましたら多少は他人様の恨みを買うこともございましょうが、娘や手代の者まで拐かされるようなこととなりますと、とんと覚えがございません」
それから彼は昨夜自分が帰宅した時、屋敷に切り落とされた指が転がっていたことを教えてくれた。当然娘たちの身を案じていたが、アザイ王は彼女たちが無事だと言っていたので、おそらくその指は殺された手代のものだろう。そう伝えるとほんの少しショウエモンは安心したようだ。
「手代は殺されてしまったのですか……よく働いてくれる者たちでしたのに」
「じゃが指が残されていたということは、この後何らかの要求がくることも考えられるのう」
「アヤカの申す通りだ。言うことを聞かなければ娘たちの身もこうなる、という脅しだろう」
「そ、そんな!」
「心配致すな。娘たちは無事に助け出すと申したであろう」
慌てふためくショウエモンを宥めたが、親として心配するなと言う方が無理なのかも知れない。
「ですが陛下、陛下は何故私のような一商人の身に起きたことまでご存じなのでしょう?」
もっともな疑問である。
「そうか、其方は知らなかっただろうが、先日第二王妃のアカネが店を訪れたであろう?」
「はい、確かにお見えになられました」
「実はその後二人が襲われてな」
「ま、誠にございますか! それで王妃殿下は!」
「アカネは無事だったが、護衛に付けていた者が重篤でな。一命は取り留めたのだが記憶が戻らないのだ」
「確かシノブ様とおっしゃっておいででしたか。美しい方でしたがそのようなことに……」
「その件の調査の過程で分かったというわけだ」
これで彼の疑問は解消されたが、そこで再びその顔から血の気が引いていく。
「ま、まさか王妃殿下を襲った者と娘たちを拐かした者が同一と……?」
「まず間違いないと余はそう考えている」
「そんな……!」
「だから心配ないと言っているだろう。其方の娘たちは無傷で帰してやる。そこでだ」
俺はショウエモンに、何か要求があったらすぐに知らせるように伝え、間違っても自分で何とかしようなどと先走らないように命じた。
その日の午後、休業していたカワチ屋を訪れたのはミサキ屋のキュウベエだった。




