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第十一話 婿殿の頼みとあらば喜んで引き受けよう

「ところでイヌカイ、心当たりがあるなら教えてほしいのだが」

「何でございましょう?」


 イヌカイ男爵の情報網というのが実は優れているというのを後に知ることになるのだが、俺はこの時何の気なしに尋ねていた。シノブの一件の調査が行き詰まっていたからである。


「俺や妻たちの命を狙ったり脅迫しようとしている者についてだ」

「何ですと! 陛下や妃殿下のお命を? けしからん!」

「先日第二王妃が伴を連れて城下に出たのだが、その折に襲われてな」

「それで妃殿下は! 妃殿下はご無事だったのですか?」

「ああ、妻は無事だった。しかし伴の方が相討ち覚悟の卑劣な剣でやられたのだ。何とか一命は取り留めたものの、その者は未だに記憶をなくしたままなのだよ」


 そして俺は襲ってきたのが二人だったこと。二人とも二刀流と称して両手に刀を持ち、さらに懐に小刀(こがたな)を隠し持っていたことなどを付け加えた。


「二刀流の使い手……はて……ところで陛下は何故(なにゆえ)その者たちの剣術を二刀流と称して、とおっしゃったのですか? まるで偽物であるとの確信を持っておいでのようですが」

「うん? まあ少々の理由があってな」

「それは私がお答え致しましょう」


 そこに現れたのはアカネさんだった。俺は彼女がその第二王妃であるとイヌカイに紹介する。


「あ、あなたはもしやヤマト殿の……」

「父をご存じなのですか?」

「やはりそうでしたか! いやあ、お懐かしい。実はヤマト殿とは一度剣術の試合で立ち合ったことがあるのです」

「そうでしたか」

「もちろん、手も足も出ずに負けてしまいましたが」


 その試合の時にまだ幼かったアカネさんを見かけたのだという。


「お父上はご健勝であらせられますか?」

「いえ、随分前に病で他界致しました」

「それは……! 申し訳ないことを聞いてしまいました」

「いえ、もう昔のことですので」

「しかしなるほどそれで。陛下、合点がいきました。本物の二刀流の使い手が王妃殿下とあれば、他は偽物ということになりますからな。そうなると……」


 そこでイヌカイ男爵は思案顔になり、すぐにハッとしたように顔を上げる。


「思い出しました! ヤマト殿の二刀流を真似て、真二刀流などという看板を掲げた者がいたはずです」

「誠か!」

「はい。陛下、その者たちは兄弟ではございませんでしたか?」


 そんな報告は聞いていない。ところがアカネさんは兄弟という彼の言葉に反応していた。


「確かあの時シノブさんに小刀を突き刺した者が、よくも兄者(あにじゃ)をと言っていたような」

「顔を確かめなければ確たることは申し上げられませんが、おそらくその者たちはハタガヤ真二刀流の師範代、アビコ兄弟かと存じます」

「ハタガヤ真二刀流?」

「はい。お城から真南に行った先にハタガヤ道場という、怪しげな道場がございます。その師範がハタガヤ・セイメイ、かつてヤマト殿の二刀流に試合で瞬殺された者です。そして門弟(もんてい)の中にアビコ兄弟と呼ばれる強者(つわもの)がおりました」


 男爵によるとアビコ兄弟には、どうも人殺しを生業(なりわい)としているらしいとの噂があったそうだ。また、ハタガヤ道場自体が汚れ仕事を引き受ける組織との話も耳にしたことがあると言う。


「あの土地は確かミノワ・ブンゴ伯爵閣下が治める領地ではなかったかと」

「ミノワ?」

「ミノワ閣下の領地は領民の出入りが厳しく管理され、特に男は商人以外余程(よほど)のことがないと一歩も出られないとか」


 他にも言論統制により、特に領主であるミノワ伯爵の悪口でも言おうものなら、即刻首を()ねられるということだった。そのような土地はイヌカイ一家には居心地が悪いため、自然に足が遠のいて最近の事情はよく分からないらしい。


「剣術の試合でしのぎを削っていた頃はまだ彼も爵位を継いでおりませんでしたし、同じ道場仲間として腕を振るっていたのですが」

「イヌカイ、お前もそのハタガヤ道場に通っていたのか?」

「いえ、当時はまだその道場はありませんでしたので、違う街道場でございます」


 ミノワ伯爵か、これは調べてみる必要がありそうだ。それに伯爵ならば俺やアカネさんの顔を見知っていても不思議はない。晩餐会などに来ていれば、アカネさんだけではなく他の妻たちの顔も知っていることだろう。


 今のところ何が狙いなのか見当もつかないが、少なくともアカネさんたちを襲ったのがアビコ兄弟だとすれば、彼の領内の者が王族に牙を剥いた事実は明らかである。ミノワ伯爵を呼びつけて問い(ただ)すか、内偵を進めて追い詰めるか。しかしアカネさんを人質に取って俺を脅そうとするような狡猾(こうかつ)な連中だ。こちらが正体に気付いたことを知らせるような真似は慎むべきだろう。


「陛下、よろしければ私が探りを入れますが」

「いや、これ以上お前に危険な任務を任せるわけにはいかない。それに俺にはこういう時に頼りになる味方がついているのだ」


 言うと俺はイヌカイに、問題の(ぞく)がアビコ兄弟かどうかの首実検だけを頼んで彼を下がらせた。そして遺体を確認したイヌカイによって、彼らがアビコ兄弟であったことが確定したのである。




婿殿(むこどの)の頼みとあらば喜んで引き受けよう」


 頼りになる味方、それはウイちゃんの父親にして元アザイ王国国王、アザイ・ナガシゲ陛下であった。


「それではお義父(ちち)上、お願い致します」


 俺はそう言って、祭壇に最高級の果実酒を供えたのだった。

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本作の第二部は以下となります。

暴れん坊国王 〜平凡だった俺が(以下略)〜【第二部】

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