第九話 何だその刀は!
「コバシ・ダンジョウだな?」
俺が手入れの号令をかけた時刻、それは賭場に最も多くの客が入っている時だった。そこに騎兵隊と警備隊が協力して押し入ったのである。屋敷内には大勢の警備隊が突入し、気配を感じて裏口から逃げようとした者は騎兵隊が取り押さえた。そして今、俺たちは奥のやたら広い座敷に潜んでいたコバシ子爵と貸し元のゲンブ、それから数人の手下共と対峙しているところだ。
「どこの誰かは知らないが、ここをコバシ子爵閣下の親戚筋であるゲンブ様の屋敷と知っての狼藉か!」
「うぬら、この屋敷に警備隊が手入れに入っていることを知らぬのか?」
「何だと!」
無理もない。こんな奥では賭場の騒ぎも聞こえてはこないからだ。
「ふん! ここは一度手入れに失敗しているのだ。その舌の根も渇かぬうちに再度の手入れなど……」
「閣下! お逃げ下さい! 警備隊の手入れ……」
そこにのこのこやってきた屋敷の奉公人と思われる男を、スケサブロウ君が峰打ちで気絶させていた。
「分かったか? 分かったらまずは拐かした子供の居場所を吐いて貰おうか」
「貴様、子爵閣下に何たる無礼!」
「愚か者! お前たち、このお方をどなたと思っている! こちらに御座すは我がタケダ王国国王、タケダ・イチノジョウ陛下にあらせられるぞ!」
案内役の一人が言うと、もう一人が後を続ける。
「そしてこの方々は王妃殿下である! 者共、頭が高い! 今すぐ跪け!」
「こ、国王陛下に王妃殿下……ははっ!」
さすがに俺の前では子爵を始めとした全員が跪いて頭を下げた。手下共も主に倣って大人しく膝を折っている。
「コバシ・ダンジョウ、早々に子供の居場所を吐け」
「国王陛下に申し上げます。子供を拐かしたと仰せでしたが、私には何のことだかさっぱり……」
「黙れ!」
そこに現れたのは、モスケを救い出して連れてきてくれたモモチさんだった。
「モスケさん!」
「サトさん!」
彼の姿を見たサッちゃんが、脇目も振らずに駈け寄って抱きしめている。そのモスケの顔にはあちらこちらに痣が出来ており、衣服にも血が滲んでいた。相当に痛めつけられたようである。
「可哀想に、痛かったでしょう?」
「サトさん! サトさん! わあっ!」
幼いモスケはずっと不安だったのだろう。彼女の腕の中で大声で泣き始めていた。
「コバシ・ダンジョウ、貴様このような幼子に何という仕打ちを!」
「わ、私は知りません! やったのは他の者たちで……」
「言い訳は聞かぬ! うぬが私欲のために賭場を開き、さらには幼いモスケを拐かし、その父イサジにも瀕死の重傷を負わせたる罪、万死に値する。だがせめてもの情けだ。この場にてその腹掻っ捌いて詫びよ!」
「ふ、ふふふ、ふはははっ!」
だが子爵は俺の言葉に従おうとしないばかりか、高笑いしながら許しもなしに立ち上がる。
「何がおかしい?」
「このような場所に王国の国王陛下や王妃殿下が揃って来られるはずがない。この者たちは陛下や妃殿下の名を騙る不届き者だ! 者共構わん。此奴らを刀の錆にしてやれ!」
その言葉にゲンブと手下共も立ち上がって刀を抜く。手下の数は六人、子爵とゲンブも入れると敵の数は八人ということになる。それらを前にスケサブロウ君や警備隊の二人はもとより、ユキたんとアカネさんも刀を抜き、スズネさんは苦無を手にした。そして俺とサッちゃん、モスケを背にして立ち塞がる。
「陛下、いや、陛下の偽物! この者たちはいずれもホクシン一刀流免許皆伝の腕前だ。残念だが貴様の命もここで果てようぞ!」
「それでは手加減は無用ということですね?」
子爵の言葉を聞いてアカネさんが、まるで舌舐めずりでもしているかのように返した。彼女の刀はいつもの仕込み刀である。つまり伝家の宝刀、二刀流が炸裂する機会でもあるということだ。
「私の流派はミヤモト剣術二刀流。この奥義を見て生き延びた敵はおりませんよ」
「戯言を。お前のような若い娘があの伝説の二刀流の使い手であるはずがなかろう!」
アカネさんの言に、手下の一人が嘲りながら摺り足を進めた。
「ならば、ホクシン一刀流の名誉と威信をかけてかかってきて下さい!」
言うと彼女は腰の鞘をポンと叩く。すると鞘の上下が入れ替わり、そこからアカネさんはもう一振りの刀を抜いた。
「す、すげえ! かっけえ!」
モスケが彼女の姿を見て目を輝かせている。怪我をさせられてあちこち痛いはずなのに、この辺りはやはり男の子というべきだろう。先が楽しみだ。
「死ね!」
突然摺り足を早めて上段から打ち込んできたのは、アカネさんを嘲笑した男だった。彼女はそれを右の刀で弾き返し、すかさず左の刀で男の腹を突く。そして突いた刀を素早く引き抜くと、血反吐を吐いた男の左の首元から右脇腹にかけて、跳ね上げた右の刀で袈裟懸けに斬りつけていた。ほどなく男は絶命する。
それと同時にユキたんにも一人の男が襲いかかっていた。その者は中段から刀を背後に回し、ほぼ水平に彼女に斬りかかる。しかしそれを魔法刀で受けられ、鈍い音と共に剣先はポッキリと折られていた。
「な、何だその刀は!」
だが男がその答えを聞く前に、折れた剣先がスズネさんの放った苦無に弾かれ、そのまま彼の眉間に突き刺さる。同時に軌道を変えた苦無は、もう一人の男の首に深くめり込んでいた。これで敵は子爵とゲンブを入れて、残すところ五人となったわけである。
「どうだコバシ、我が妻たちは強いだろう?」
「い、一瞬にして三人……」
青ざめる子爵たちを前にして、俺は薄笑いを浮かべるのだった。




