第七話 その必要はありません!
連日更新が遅い時間になってしまってすみません。
明日はもう少し早く更新出来るようにがんばります(^o^)
「警備隊の手入れ、空振りだったらしいぜ」
そんな噂が城下に流れていることを、その日の朝ツッチーから聞かされた。情報が漏れているのを承知で、俺は警備隊を向かわせたのである。当然賭場など開かれているはずもなく、疑いをかけられた屋敷の主は城に猛抗議に来たそうだ。
「国王陛下に会わせろとまで申していたそうにございます」
「随分と強気な貸し元だな」
貸し元の名はコバシ・ゲンブ、コバシ子爵の親戚筋に当たる男である。城下の噂もそのゲンブが流しているらしい。中には謝罪すら出来ない腰抜けと、俺の悪口まであるそうだ。
「陛下の悪口には城内の者たちも憤っている由にございますれば、捕らえて罰を与えるべきとの声も上がっております」
「捨ておけと伝えてくれ。領民が余の悪口を言うことで日頃の鬱憤が晴れるのならそれでいい」
それよりも、だ。
「分かっているだろうが、空振りの手入れは布石だ。次は必ず捕らえよ」
一度手入れが入ったところは安全と高をくくるに違いない。ましてや一度目は空振りだったのだから、そう簡単に二度目の手入れなど出来るはずがないと思っていることだろう。しかし貸し元が黒であることは間違いのない事実。臆する必要など全くないのである。
「警備隊員たちにはご苦労だが臨戦態勢を崩すなと伝えろ。余が号令致す」
「御意」
「陛下、あの忍者は私にお任せ頂けませんか?」
スズネさんがツッチーの横に立って微笑みながら言う。彼女は前回の尾行で気配を気取られたことを悔しがっていたのである。
「勝てるか?」
「おそらくあの身のこなしはタケダの抜け忍。だとすれば私が後れを取ることはありません」
元武闘派サイカ流当主の娘としての意地ということか。
「よかろう。ただし無理はするなよ」
「はい!」
そしてその日の夕刻、コバシ・ゲンブの屋敷で賭場が開かれたとの情報が舞い込んできた。
「アカネ、万が一ユキが倒れた時にはそちらの護衛も頼めるか?」
「はい」
俺はユキたんにアカネさん、そしてスズネさんとサッちゃんを伴ってコバシの屋敷に向かっていた。案内役はスケサブロウ君と、彼の部下二人である。サッちゃんはそこにモスケがいるかも知れないからと、居ても立ってもいられなかったようだ。危険だから待っているように言ったのだが、泣かれて仕方なく連れてきたというわけである。
「陛下と妃殿下は命に代えましても私共がお護り致します!」
スケサブロウ君の二人の部下は、国王と王妃の案内役を命じられてかなり緊張しているようだった。ただし彼らも騎兵隊の中ではかなり腕が立つらしく、あのスケサブロウ君と互角にやり合うらしい。
「そう気を張るな。そして命を粗末にするなよ」
「勿体なきお言葉! おのれコバシめ、我らの陛下を蔑んだ言動、万死に値することを思い知らせてやる!」
誠に頼もしい限りである。
「止まって下さい!」
その時、スズネさんが皆の前に出て俺たちの歩みを止めた。それを見た二人の騎兵隊員も彼女の横に並んで俺たちを背に庇う。ちなみにスケサブロウ君は一番後ろに回って背後の警戒に当たっている。
「今日は女一人か」
前に並んだ三人の向こうには、深編笠を被って蓑を纏った男が立っているのが見えた。
「あなた方は手を出さず、陛下をお護りなさい」
「で、ですが妃殿下……」
「大丈夫だ。スズネの言う通りにせよ」
「は、ははっ!」
二人の騎兵隊員は一歩下がって、俺の盾になるような位置取りで刀を中段に構える。
「その顔、どこかで見た覚えがあるな」
「元タケダ忍軍、サイカ流当主ナガイエが娘、サイカ・シノと言えば思い出しましたか?」
「おお、思い出したぞ! あの忍軍一の醜女と称されたナガイエ殿の息女だったか」
人の妻に何て酷いことを。
「貴様! 王国第四王妃スズネ殿下に何たる非礼!」
騎兵隊員の一人が俺の代わりに怒ってくれたよ。彼には後で何か良い物を贈ってやろう。
「王妃? あの醜女姫が王妃だって? 国王様は何と物好きな」
「私を悪く言うのは構いませんが、陛下を愚弄することは許しません!」
「まあいいか。その様子だとこの俺と一騎打ちを望んでいるようだが、違うかい? お妃様」
「その通りです。いきますよ!」
スズネさんの両手の指の間に、左右合わせて八本の苦無が滑り下りる。そして彼女が低い態勢から敵の忍者に向かって走り出そうとした時だった。彼はそのスズネさんめがけて三本の苦無を投げつけたのである。
この程度の投擲でやられるようなスズネさんではない。俺は一瞬そう思ったが、何故か彼女は動けずにいた。おかしい、スズネさんはどうして飛んでくる苦無を避けようとしないのか。だが答えはすぐに分かった。俺とスズネさんを結ぶ延長線上に敵がいる。つまり彼女が苦無を躱すと、それが俺に当たるのだ。一騎打ちと言いながら何と姑息な手段を使うのか。
「スズネ、構わん、避けろ!」
「その必要はありません!」
ふと、俺の視界の端から何かが飛び出して言った。すると金属がぶつかり合うような音がして、飛んできていた苦無がスズネさんの足元に叩き落とされていたのである。
「一太刀で三本とも……何だその刀は!」
「あなたのような方に教えて差し上げるのもおこがましいのですがこれは魔法刀です。いくら私たちを狙っても全て打ち落としてご覧に入れます。さあ、男らしくスズネ殿と勝負なさい!」
「ちっ!」
「ユキ様、ありがとうございます」
「スズネ殿、ご存分に」
そう言ってユキたんはスズネさんに微笑んだ。そして、スズネさんと男の一騎打ちが始まるのだった。




