第十四話 払いますから祓って下さい!
「ねえねえ、王城の酒場で働く女性を募集するって本当かな」
「本当らしいよ、騎兵隊と警備隊の殿方が主な客なんだって!」
「え! それじゃその方たちとお知り合いになれるってこと?」
城下の女性たちが色めきだつのも無理はなかった。城で働くということは大変に名誉なことなのである。資格に身分は関係ないが、女性に関してはそこそこの品位を求められるのだ。故に、平民や奴隷身分の者が雇ってもらえる機会はそう多くないのが実情だった。
しかし今回募集がかかるのは酌婦のようなものである。とは言っても城内の酒場だからいかがわしい行為の相手をする必要はない。更にこの募集に限っては品位よりも人当たりが重視されるということで、城下の酒場で働いている者にもチャンスがあるというわけである。
「特に今回は酒場の経験者が優遇されるんだって。お城のメイドさんたちに接客を教えることが出来る人が望ましいみたい」
「そっか、お城のメイドさんじゃ酔っぱらいの相手は慣れてなさそうだもんね」
「ちょうど今の酒場を辞めようと思ってたし、私がんばる!」
「私も!」
募集したのは十人前後、これに対して応募してきた女性は七十人を超えているということだった。因みに厨房の男手も必要だったため若干名を募集したが、こちらも相当な倍率だったらしい。
「どうやら陛下の思惑が当たったようでございますぞ」
「やはりか」
「陛下の思惑って何ですか?」
「そのうち分かる」
今日の癒し担当はサッちゃんである。執務室にいるのは現在その彼女とツッチー、それに衛兵が数人といったところだ。ただこの後、俺とサッちゃんは数日ぶりにイサジの家を訪ねることになっていた。護衛は騎兵隊の仕事でどうしても手が離せないスケサブロウ君に代わって、ユキたんが来てくれることになっている。そしてユキたんに万一のことがあってはならないので、さらにアカネさんとサユリも同行してくれることになっていた。
「モスケは元気にしているといいな」
「はい。陛下には私のような者の望みまで聞き入れて頂いて……」
「愛する妻の望みを叶えてやれなくて何が夫か」
サッちゃんは恐縮しきりだったが、俺にとっては当然のことである。それに身分を隠して城下を散策するのは俺も楽しい。それからユキたんたちと合流して、俺たち五人はイサジの家へと向かったのだった。
「護符の貼り替えはならんと言ったはずだが」
高い金を払って祈禱したのに、相変わらず怨霊が屋敷内を徘徊しているということで、イヌカイは商い主に呼ばれていた。しかし当然ながら彼の言い付けを守らなかった商い主側の言い掛かりである。ただ、商い主自身はそのことを知らなかったようで、大事なことを伝えなかった番頭が大声で怒鳴られていた。
「では再度の祈禱を頼めますかな?」
「それは構わんが、一度壊れた結界は修復が叶わん。よって初めからやり直しとなるがよろしいか?」
「ではそれで。今日は私がおりますから、最初に言われた通り護符の代金と合わせて大金貨四枚でよろしいですね?」
「何を戯けたことを。壊れた結界に入り込んだ怨霊は護符への耐性も備えてしまうのだ。より強力な護符が必要となる。これだ」
イヌカイが商い主に見せたのは、およそ護符とは思えないような禍々しいデザインのものだった。それと知らなければ単なる嫌がらせとも思える代物である。
「よいかな商い主殿、この護符は四枚一組で屋敷の東西南北それぞれに貼り付けなければならぬ。無論一枚でも剥がせば効き目はなくなる」
そしてイヌカイは商い主にグイッと顔を近付ける。
「これを守って頂けなかった場合、儂にはもう打つ手はない。ここが怨霊の住処となろう」
「わ、分かりました」
商い主はゴクリとツバを飲み込んで頷いた。
「護符は一枚につき大金貨五枚、四方に貼り付けるために十六枚必要なので大金貨八十枚だ。それと祈禱料は特別なものになるので大金貨二十枚、締めて大金貨百枚をお支払い頂こう」
「ひゃ、百枚!」
「どうした、払えぬか? ならば致し方ないが数日のうちに屋敷は怨霊に支配され、冥界への門を築かれることとなろう。そうなればここに住む者には災いがもたらされ、一年もしないうちに……」
「それでしたらこの屋敷を手放した方が……」
「お主らには見えぬだろうが、その首にはすでに怨霊共によって枷が嵌められている。このままではどこに行っても怨霊から逃れる術はないぞ」
イヌカイの言葉で真っ青になった商い主と、その場に居合わせた番頭たちは揃って自分の首を触り始める。もちろんそんなものはないのだが、実際にアザイ兵の扮する怨霊を目の当たりにしている彼らには、枷の存在を疑う余地もなかったようだ。
「は、払います! 払いますから祓って下さい! どうかご祈禱と護符をお願い致します! 番頭、すぐに大金貨百枚を用意してきなさい!」
「かしこまりました!」
こうしてイヌカイたちは、土地付きで大豪邸が建てられるほどの大金を、まんまと商い主からせしめたのだった。




