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第八話 まさかアンタら、警備隊じゃねえだろうな!

 このタケダ王国では、先代のタケダ・ハルノブ国王が治めていた頃から特に禁止されていたものがある。それは私的な賭け事であった。


 わざわざ私的な、としたのには訳がある。実は娯楽の少ない王国では、いくら禁止しても闇で行われる博打(ばくち)が後を絶たなかった。(ゆえ)に王国は領民が参加出来る公共の賭博(とばく)を主催していたからである。


 しかしそれでも闇賭博がなくなることはなかった。貴族が胴元となって(やしき)の地下などで主催し、規模によっては莫大な利益を上げていたのである。無論これは違法行為だから見つかれば私財は全て没収、主催が貴族であれば身分も剥奪されるという重い罰が用意されていた。だから当然の如く貴族は背後に隠れることになるのだが――


「イサジ、お前はまた性懲(しょうこ)りもなく!」

「ふんっ、とっとと殺せ!」


 闇賭博で罰せられるのは主催者だけではない。そこに参加していた者も(しか)りであった。ただし刑罰は平民以下であれば所払(ところばら)い、つまり城下からの追放や五十叩き、百叩きといったそれほど重い罰ではなかったのである。そのせいで一度賭博に手を染めた者は、なかなか抜けられないという弊害もあったと言わざるを得ないかも知れない。


「前に五十叩きで、もう二度と闇賭博には参加しないと誓ったはずだぞ!」

「ヨネヤマの腰抜けめ。そう言えと言われたから言ってやったまでのこと。何度でも繰り返してやるさ」


 その時の闇賭博で捕まったのは、主催者の平民と数十人の参加者だった。かなり大きな規模だったので背後に貴族が控えていることは疑いようがなかったが、ついにその尻尾を掴むことは叶わなかったのである。ヨネヤマというのはマツダイラ閣下配下の警備隊長で、主に城下の犯罪を取り締まる役目に就いている男だ。


「あのイサジという男は何故(なにゆえ)あそこまで反抗的なのだ?」


 俺はふとした疑問をマツダイラ閣下に尋ねてみた。反抗的な態度を取る罪人は珍しくないが、あれでは首を()ねろと言っているようなものである。俺はそこまでする罪人を見たことがなかった。


「イサジは以前ヨネヤマの邸で奉公していたことがございまして、身分こそ違いますが二人は友にも等しい間柄だったのです」

「それがどうしたらああまで反抗的になるのだ?」

「イサジの妻が無礼討ちされた事件がございまして」


 それは白昼の出来事だった。その日の夕食の食材を買いに出ていたイサジの妻は、コバシ・ダンジョウという子爵(ししゃく)に無礼討ちされたのである。理由は彼女が持っていた野菜の葉の部分が、コバシの刀の(さや)に触れたというものだったのだが――


「当時の通行人の話ではコバシ子爵とイサジの妻の間には一間(いっけん)ほどの距離があり、野菜が鞘に触れるようなことは考えられないと」


 一間とは約二メートル弱である。


「ならばその子爵は殺人罪で捕らえたのであろう?」

「いえ、それが……」


 しばらくして通行人は証言を変え、確かにコバシ子爵の言う通りだったと言い出したのだそうだ。これを怪しいと睨んだヨネヤマは通行人を問い(ただ)そうとしたが、数日後にその通行人は溺死体となって発見されたのである。彼には特に外傷もなく、近くの橋で遺書と見られる手紙が添えられた履き物が見つかったことから、通行人は自殺と断定された。そのせいでヨネヤマは捜査の足がかりを失ってしまい、結果的に子爵は無罪になったというわけだ。


「遺書には何と書かれていたのだ?」

「両親に向け、先立つ不孝を詫びる内容のみでした」

「妻を失った悲しみは分からないではないが、イサジが反抗的になる道理が分からん」

彼奴(あやつ)は子爵に対する捜査を打ち切った我々に恨みを持っているのです」


 ヨネヤマの身分は騎士である。対する相手は子爵、この差は大きいと言わざるを得ない。ヨネヤマがコバシ子爵を捕らえるためには、確固たる証拠を掴んだ上で子爵より身分が上の、例えばマツダイラ伯爵などを同行しなければならないのだ。そうしなければ子爵に無礼討ちされてしまうからである。


「証拠がなければマツダイラも動けなかったというわけか」

「仰せの通りにございます」

「事の真相は定かではないにしても、そのコバシという男が怪しいのは明らかだな」


 俺はイサジがヨネヤマから百叩きを受け始めたところで、取り調べの場を後にした。その日百叩きの罰を受けたのはイサジのみで、他の者は皆五十叩きの刑だったのである。




「モスケ、お前の父ちゃんの名は?」


 悪ガキ共を追い払った後、黙ってサッちゃんに服の汚れを払ってもらっているモスケに()いてみた。


「父ちゃんの名かい? イサジってんだ」


 やはりそうだったか。


「それで、父ちゃんは今どこにいる?」

「分からねえよ。父ちゃんに用事かい?」

「まあ、そんなところだ」

「まさかアンタら、警備隊じゃねえだろうな!」


 スケサブロウ君の眉がピクッと動いたが、俺は彼に目配(めくば)せして余計なことを言わないように合図を送った。


「まさか、俺がそんなものに見えるか?」

「それもそっか。コマも回せねえようなだらしねえ大人が警備隊なわけねえよな。父ちゃんならもうじき帰ってくると思うぜ」


 スケサブロウ君はまたもや鼻で笑い、釣られてサッちゃんまでクスクスと笑い出した。しかし俺の真意を知らない二人だから仕方ないか。そんなことを考えながらもモヤモヤした気分でいると、通りの向こうに見覚えのある男が姿を現した。


「あ、父ちゃんが帰ってきた!」


 俺はそう言ってイサジの許に駆け出すモスケの後ろ姿を見送るのだった。

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本作の第二部は以下となります。

暴れん坊国王 〜平凡だった俺が(以下略)〜【第二部】

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