第六話 お前は余が直々に取り調べ致す!
「やられましたな」
「先手を打たれてしまったということか……」
オダの歌姫が殺されたという話は、瞬く間に城下に広がっていた。残念だがこれで歌姫とオダ帝国の繋がりを質すことは不可能になってしまったということになる。
「歌姫に同行してきた一座の者は全て取り押さえてあるな?」
「目下マツダイラ卿が取り調べを行っている最中にございます」
「しかし簡単に証拠は掴ませてもらえないだろう」
「用が済めば容赦なく切り捨てる。そんな国にいいようにあしらわれないで下さいね」
そこに優雅な振る舞いで現れたのはユキたんだった。まだ彼女のお腹は目立っていないが、体つきが全体的にふっくらしたように感じる。もっとも元々細かったので、今が普通と言えなくもない程度だ。俺はユキたんの肩を抱くと、そのまま執務室のソファに座らせて彼女が気を遣わなくて済むように隣に腰を降ろした。
「ユキ、体調はどうだ?」
「母子共に順調ということでした。ご心配なさらなくても大丈夫ですよ」
「ユキに何か飲み物を」
ユキたんに付いてきた侍女にそう告げると、彼女は扉の横に控えていたメイドさんに命じていた。
「これは私の勘なのですが……」
「うん?」
「今夜辺り、また敵が動きそうな気がするのです」
「歌姫が殺されたから興行は行われないが?」
「おそらく興行は単なる目眩まし。もし歌姫の歌が何らかの意味を持っているのなら、貴重な術士の一人をこうもあっさりと殺すわけはありませんから」
「ということは、ユキもやはり犯行はオダの者によるものだと考えているわけか」
「あるいは草の者の犯行かも知れません」
草か。となると今捕らえている一座の者たちから犯人を割り出すのは不可能と言わざるを得ない。この用意周到なやり方は、これまでの少し間抜けとも思えるキノシタ公爵配下の者たちとは明らかに違う。手討ちにされたタケナカの後任であるマエダ・トシマサという人物が絡んでいるとすれば、今後は悠長に構えていられないということだ。
「ところでツチミカド、例の百の兵はどうしている?」
「はい、予定通りに動く手筈となっております」
「彼らに草を見分けることは出来んか?」
「はて、ウイ妃殿下に聞いてみては……」
「無理だな」
「わっ! また……」
「また、何かな? 婿殿」
アザイ王の登場はいつも突然で肝が潰れるよ。
「い、いえ……」
「これと狙った相手の心は読めるが、不特定ではそういうわけにもいかん」
そんなものなんだ。誰彼構わず心を読んでるのかと思ってたよ。
「婿殿、無礼であるぞ」
「あ、いや、あははは」
俺も一応この国の王なんだけど。
「だがあのマエダという男には気を付けよ」
「義父上はご存じなのですか?」
「うむ、あの者は強いぞ」
そう言えば野生のスノーウルフでさえ、その槍で突き殺したって言ってたっけ。しかもキノシタ公爵によると彼は文武に才があるとか。厄介な人物を国境に置いてくれたものだ。
「それはそうと義父上、話はお聞きになられていたと思いますが、ユキの申す通りだとすると今夜また術が使われるかも知れません」
俺はユキたんの侍女やメイドさんに聞こえないような小さな声でアザイ王に話しかけた。
「兵を貸せということだな?」
「人では抗えませんので」
いくら城下を兵士に警戒させても、その兵士が術にかかってしまっては意味がない。ここはアザイ王に力を借りるのが得策だろう。彼らには術にかかった領民を正気に戻してもらう役目を担ってもらうつもりだ。
「よかろう。存分に致すがよい」
「ありがとうございます」
そしてその夜、ユキたんの予想通り敵が動いた。術はこれまでとは比べものにならないほど強力で、その力は結界石を失った城内にまで及んでいた。無論俺も術にかかってしまったが、それはすぐにウイちゃんが解いてくれた。他の妻たちも全員正気を取り戻し、城下の領民もアザイ兵のお陰で何事もなかったかのように平静を取り戻していた。そんな矢先である。
「陛下、術士を取り押さえました!」
玉座の間でツッチーからの報告を待っていた俺の許に、一人のアザイ兵がぼうっと現れて跪いた。この部屋には今、俺と俺の妻たち、それからアザイ王だけがいるだけなので問題ないが、その登場の仕方は本当にびっくりするからやめてほしい。
「誠か!」
「うむ、褒めてつかわす」
俺の後に続いてアザイ王も兵士に言葉をかける。しかしその表情は何となく複雑だった。
「義父上、どうかされたのですか?」
「それがな、婿殿……」
「ここへ連れて参りますか?」
顔を上げた兵士がそう言ったが、彼には顔がなかった。味方だと知っていても怖いよ。
「そうしてくれ」
「御意」
そして兵士は現れた時と同じようにぼうっと姿を消した。
「義父上、いかがなされました?」
「うむ……まあその術士がここにくれば分かるだろう」
そう言ってアザイ王はそのまま黙りこくってしまった。一体何があったというのだろう。だがその答えはすぐに分かることとなる。
「連れて参りました!」
程なくして今度は玉座の間の大扉が開き、二人の兵に両腕を掴まれた術士が入ってきた。
「あれが……術士……?」
その姿を見て俺は驚かずにはいられなかった。兵士に連れてこられた敵の術士、それはまだ十歳にも満たないと見える少年だったのである。
「婿殿、あれが紛れもなく術士である。どうする?」
オダの領民であろうと自国の領民であろうと、今回のことは明確な王国に対する反逆罪である。この少年はその罪に対し、命をもって償わなければならないのがこの国の法だ。無論その前に厳しい拷問が待ち受けている。
「法は法。相手が幼い子供だからといって曲げるわけには参りません」
俺はそう言うと立ち上がり、兵士によって無理矢理跪かされた少年を見下ろした。
「お前は余が直々に取り調べ致す! 子供だからといって容赦はせぬから覚悟致せ!」
そうしてひとまず彼を地下牢に閉じ込めておくように命じたのだった。




