第一話 ウイちゃんも誘ってまた三人で行こうか
「これ、調子に乗るな。それと陛下に何という言葉遣いを!」
「よい。この者は言葉遣いなど知らんのだ。そうだったな、シンサク」
たまらず衛兵がシンサクの言葉遣いを窘めるのを、俺は手を振って制した。
「す、すみません。学がないもんで……」
「城で働きたいと申すか……」
「何とかなんねえかな、旦那……こ、国王様!」
「お前は農業をやりたくないと申すのか?」
「そうじゃねえ。そうじゃねえんだけど……この金もらっちまったら、父ちゃんと母ちゃんが金に変えられちまったようで嫌なんだよ」
そういうことか。言われてみれば、もしうちの山が台無しにされて父ちゃんと母ちゃんが死んだとして、金なんか貰っても嬉しくはないと思う。俺は浅はかな自分の考えを反省しなければいけないと痛感した。
「すまなかった。そこまでは考えが及ばなかった。許してほしい」
「え? い、いや、そんなもったいねえ! 俺は別に旦那を責めているわけじゃねえよ」
「分かっている。ツチミカドを呼べ」
「私でしたらここに」
「わっ!」
どこから湧いて、じゃなくて出てきたのか。この人の神出鬼没さにも呆れるしかないよ。
「ツチミカド、このシンサクが城で働きたいと申しているのだが」
「お止めしても陛下はお聞き届け下さらないのでしょうな」
いちいちチクリと刺してくるのを止めてほしいもんだよ、全く。
「庭師の下働きなどはいかがでございましょう。私に伝手がございます」
「庭師か。どうだ、シンサク?」
「それはあの、お城で働けるということかな?」
「城の庭の手入れが仕事だ。言っておくが生半可では勤まらんぞ」
ツッチーがシンサクをジロリと睨みつけながら応える。だが根っから負けず嫌いな気性なのだろう。シンサクは口元に笑みを浮かべながらも、眉をつり上げていた。
「望むところでさ!」
これでシンサクは、新たに庭師見習いとして城勤めが叶うこととなったわけだ。
しかし大金貨二百九十二枚もの大金を召し上げてしまうのは心苦しい。そこでこの金の使い途について彼に聞くと、まず今は屋台のようなおマサの店を、ちゃんとした建物にしてやりたいとのことだった。おマサはそれを一度は断ったが、シンサクの強い希望で渋々受け入れたという感じだった。もちろん、嬉しそうだったのは言うまでもないだろう。
それでもまだかなりの額が残ったので、彼はおマサの住む第二宿舎の近くに小さな家を買いたいと言う。本当はおマサと二人で住める家を買えればよかったのだが、城近くの広い物件は高くて手が出ないのだそうだ。もっともおマサは裳着を迎えていないので、すぐに一緒になることは出来ない。まあそれはこれから二人で一生懸命働いて土台を築いていけばいいだろう。俺は若い二人がこの先もずっと幸せに暮らしていける世を護ろうと、固く心に誓うのだった。
「おマサちゃんがこんなものをくれたんですよ」
それから数日後のある日、嬉しそうに言いながらスズネさんが俺に見せてくれたのは押し花の栞だった。シンサクと一緒に花畑に行って摘んできたもので作ってくれたそうだ。ちなみに今はスズネさんの部屋に二人きりである。
「へえ、何か可愛らしいね」
「そうなんです。私も早くあんな可愛い女の子がほしいです」
「あれ、スズネさんは女の子の方がいいの?」
「男の子を産んだら跡目争いに巻き込まれるかも知れないですから」
彼女は第四王妃なので、たとえ先に男子が生まれていたとしても、本妻のユキたんか第二王妃のアカネさんに男子が生まれた時点で、その子に王位継承権はなくなるのである。ところがそれを不服として、スズネさんが産んだ男子が将来とんでもないことをしでかさないとも限らない。彼女はそのことを心配しているのだ。
「先に懐妊したユキ妃に男子が生まれればいいのですけど」
「まあ、こればっかりは授かりものだからね」
「ヒコザさんには頑張ってもらわないとですね」
「あはは。スズネさんにはいつも攻められっぱなしだからなあ」
「まあ! そんなことを言うと今夜も寝かせませんよ」
スズネさんがクスクス笑いながら俺の太股をその細い指先でなぞる。それだけで俺はもう第一級戦闘態勢だ。
「ところでおマサちゃんとシンサクさんが話しているのを聞いたんですけど」
だが彼女は指を止め、全く関係ない話を始める。もっともこれも焦らしプレイの一環なので、構わず俺は彼女の大きな胸に手を伸ばした。
「何を聞いたの?」
「あん! もう、ヒコザさん。ちゃんと話を聞いて下さい」
「聞いてるってば。それで何?」
スズネさんの胸は本当に触り心地がいい。俺が色々とイタズラする度に体をピクッとさせながらも、彼女は話を続けた。
「オダの歌姫というのがいるそうで、んっ! それが今度城下の芝居小屋で歌を披露する、あっ! そうですよ……も、もう!」
スズネさんは堪らず自分の胸から俺の手を引き離した。仕方がないので今度は彼女の太股に手を置いてゆっくりと撫でてみる。しかしその両脚は固く閉ざされ、最後まで話を聞かないと先に進ませてくれそうにはなかった。
「オダの歌姫?」
「はい。何でも彼女の歌を聴くととても穏やかな気持ちになれるそうです」
もしかして魔法とか使ってるわけじゃないだろうね。
「シンサクさんがおマサちゃんを誘ってました。私もヒコザさんに誘ってほしいです」
「そっか。じゃ、ウイちゃんも誘ってまた三人で行こうか」
「おマサちゃんたちと一緒ではダメですか?」
「こっちはよくても向こうが俺たちと一緒だと気を遣うでしょ。それにちょっと確かめたいこともあるし」
「確かめたいことですか?」
「うん。まあ大丈夫だとは思うんだけど、一応ね」
こうして俺たちは次のスズネさんと過ごす日に、その歌姫の歌を聴きにいくこととなった。もちろん、この後スズネさんとたっぷりお楽しみだったことは言うまでもないだろう。




