第七話 国王に頼んでおいてやる
「お、おい! 俺を殺すなら殺せ! だがこのおマサには何の罪もねえからな。手出しするんじゃねえぞ!」
俺はシンサクに必死にしがみついて彼を護ろうとする健気な少女と、少女を護ろうとするシンサクの姿に心を打たれた。もっとも初めから二人を無礼討ちになどするつもりはなかったけどね。
「だが一つだけ条件を呑めば、二人とも許してやる」
「じょ、条件?」
「そうだ」
「何だよ、条件って」
「この辺りに旨いメシ屋はあるか? 金はいくらかかっても構わない」
シンサクの狐につままれたような表情は見物だった。
「メシ屋? ああ、それならこの先に値段は高いが旨い肉や魚を食わせるって評判の料理屋があるが……食ったことはねえけどな」
「よし、なら俺たちとそのメシ屋に付き合え」
「へ? お、おい、本当に高いんだぞ。あそこは貴族でもそうそう行ける店では……」
「あ、ではこのお金で……」
「馬鹿、そんなんじゃ足りねえって。それを知っても俺とおマサにメシを奢らせようってのか?」
「いや、メシ代の心配はしなくていい。金ならお前たちの分も全部出してやる。どうだ、無礼討ちになるのとどっちがいい?」
「お前は一体……」
「たった今お前が言ったじゃないか。手を差し伸べろとな」
「そ、それはそうだが……」
「別に俺を敬えとは言わん。だがメシくらい付き合ってくれてもいいんじゃないか?」
「ほ、本当に金なんかねえぞ」
それから俺とスズネさん、ウイちゃんにシンサクとおマサを加えた五人は、城下でも五本の指に入ると言われる高級料理屋の暖簾をくぐった。もちろんその前に、おマサには服を買い与えて着替えさせたのは言うまでもないだろう。
「あ、あのよ……」
「何だ?」
目の前に並んだ豪華な料理の数々に目を白黒させながら、シンサクが俺に言葉をかけてきた。
「さっきは悪かったな」
「何が?」
「その……色々と失礼なことを言っちまってよ。俺は学がねえからさ、貴族様に対する言葉遣いとかもよく知らねえんだよ」
「何だ、そんなことか。気にするな」
「しかしアンタは凄えな」
「うん?」
「貴族だからって威張り散らさねえし、俺みたいなモンをこんなところに連れてきてくれてよ。挙げ句おマサに服まで買ってやるなんて、アンタだけは本物の貴族だと思うぜ」
「褒め言葉と受け取っておこう」
それにしても、スズネさんの面倒見のよさには舌を巻くほどだった。彼女は目が見えないおマサに料理を取り分け、器の場所を教えて食べやすいように支えたりまでしている。しかもそれを実に楽しそうにこなしているのだ。これはきっといい母親になるに違いない。
「ところでおマサ」
「はい、何でしょう、貴族様」
「お前は何を生業としているのだ?」
「靴磨きをさせて頂いてます」
「靴磨きか。目が見えなくて不自由はないのか?」
そこで料理を頬張っていたシンサクが口を挟んでくる。
「それが聞いてくれよ、貴族の旦那」
「どうした?」
「客の中にはおマサの目が見えねえと知ると、きれいになってねえって代金を踏み倒したり、コイツから金を奪い取る奴までいるんだぜ」
「何ですって!」
何故かおマサを随分と可愛がっているように見えるスズネさんが大声を上げた。もしかしたら彼女は、かつての自分の姿をおマサに重ね合わせているのかも知れない。
「けしからんな」
「シンサク様、これすごく美味しいよ!」
「うん? どれだ、おマサ」
「貴族のお姉さん、シンサク様にこれを教えて上げてくれませんか?」
「はいはい」
正直なところ高級料理屋の料理も、あのクリヤマの作る賄の味を知る俺にはどれも今一つだった。しかしこれらはシンサクやおマサのような庶民にはなかなか口に入ることはないのだろう。二人とも本当に美味そうに料理を平らげていた。
「シンサク、お前たち二人を見ていると仲のいい兄妹に見えるな」
「はは、そうか?」
「う……兄妹……」
何気ない俺の感想だったが、そこで急におマサの表情が曇った。
「ん? どうした、おマサ」
「兄妹……兄妹にしか見えませんか?」
そうか、おマサはシンサクに恋しているというわけか。それを察したスズネさんもウイちゃんも、温かい眼差しを彼女に向けている。しかし当のシンサクは全く気にとめずに、料理を突いているばかりだった。
「おマサ、そのうち気づいてもらえる日がくるといいな」
「は……あ、あの……」
頬を真っ赤に染めたおマサは初々しくて可愛らしかった。俺の目に彼女は決して美少女には映らなかったが、それだけにこの少女がこちらの世界では容姿が優れていることが窺える。シンサクもきっと、おマサを憎からず想っているに違いないだろう。
「おマサ、お前さえよければ今より安全な仕事場を世話してやろうと思うのだが、どうだ?」
「え? それは……」
「お、おい、まさかおマサを売り飛ばそうと……」
「そんなこと考えてもないさ。場所はな、王城の門のすぐ脇だ」
「王城……王城って……」
シンサクは信じられないという目を向けてきた。無理もない。城門のすぐ脇は商売など許される場所ではないのだ。
「あそこなら不届き者がいても城の衛兵が懲らしめてくれるだろう」
それに靴磨きなら、これから城に入ろうとする者の需要も見込めるというわけだ。
「すげえ、すげえぞおマサ! でもよ、本当にあんな所で商売させてもらえるのか?」
「任せておけ。国王に頼んでおいてやる」
俺の言葉に、スズネさんもウイちゃんも口の中の料理を吹き出しそうになっていた。




