第七話 経験とか実績とかに富んだ人材がいないかな……
「スケサブロウ君とシノブはちゃんとやってるのかな」
執務室で俺の隣に控えているのはユキたんである。何だかんだ言っても彼女が傍にいると安心するんだよね。
「ええ、毎日というわけではないようだけど、お役として賜った以上は全力を尽くさないとって」
「あのスケサブロウ君が?」
「ううん、おナミちゃんが」
苦笑いしながら言うユキたんの言葉に、俺も思わず苦笑いで返す。
「それはそうとツッチーがどこに行ったか知ってる? 控え室にもいないみたいなんだよね」
「ツチミカドさんならさっきメイドの子に呼び止められてたみたい」
「お! とうとうツッチーにもいい相手が出来たのかな」
ツッチーはもういい歳ではあったが、早くに奥さんを亡くして独り身を貫いていたようだ。子供もいないと言ってたし、気に入った女性がいるなら心から祝福しようと思う。
「違うんじゃないかな。メイドさんも誰かに頼まれて呼びにきたみたいだったし」
「そう。ところで体の調子はどう? 微熱が続いてるって聞いたけど」
「今日は平気だよ。ヒコたんとずっと一緒にいられる日だし、元気元気!」
「ならいいんだけど……」
春から初夏への季節の変わり目である。特に最近は寒暖の差が大きい日もあり、体調を崩している者も多いと聞く。それとなくウイちゃんにも聞いてみたりはしたのだが、彼女ははぐらかすようにまともに応えてくれないから、余計に心配になってしまうのだ。まあ今日はユキたん本人の言葉通り調子がいいみたいだし、何事もなければそれに越したことはない。
「陛下、失礼致します」
そんなことを考えていると、扉を開けてツッチーが戻ってきた。
「何だった?」
「はい、今度は本当にオダから使者がくるようです」
「ほう。で、誰がくると?」
イシカワのような下っ端ではないと思うが、あまり舐めた相手なら追い返すつもりだ。
「タケナカ・イチベエ辺境伯だそうです」
「辺境伯か。だとするとぞんざいには扱えんな」
辺境伯とは爵位で言えば伯爵より上、公爵より下といった位置づけである。タケダには辺境伯という爵位はないが、代わりにトリイ侯爵のような侯爵位がそれに当たる。
「で、どんな男だ?」
「モモチ殿の報告によると、かなりの策士だということでございました」
「策士か……」
モモチさんの言うことなら間違いはないだろう。それにしてもオダの人材の豊富さには舌を巻くよ。アケチやイシカワのようにどうしようもない者もいるが、キノシタ公爵や今回のタケナカ辺境伯のように、一筋縄ではいかないと思われる人もいるんだからね。
「それでいつ?」
「書簡によれば四日か五日のうちにはやってくるようでございます」
「今度は手続きも踏んできたことだし、こちらもしっかりと迎えねばならんな」
歓待の宴でもてなして、こちらは義には義で応えるというところを見せてやろう。それにしても策士ということだと、会見にはこちらもそれなりの人物を置く必要がある。アヤカ姫はもちろんだが如何せん若い。もう少し年季の入った者の同席も考慮に入れなければならないだろう。
「ところでツッチーは家令だよな」
「はい、それがいかが致しましたか?」
「家令というのは会見の席で意見を述べる、なんてことはないのか?」
「通常はございません」
「そうか」
出来ればモモチさんやヤシチさん辺りを同席させたいところだが、さすがにそういうわけにもいかないだろう。
「この会見でその策士に対抗出来るような、経験とか実績とかに富んだ人材がいないかな……」
「あら、それならあの方に相談したらどう?」
「ん? ユキたん、それは誰?」
「ウイちゃんのお父君」
「ええ!」
「呼んだかな、ヒコザ殿」
そこで突然アザイ家当主、アザイ・ナガシゲ王が姿を現した。俺がびっくりしたのは言うまでもないが、ツッチーまで真っ青になっている。
「あ、あの、実はですね……」
「よかろう」
「え? いや、まだ何も……」
「話は全て分かっておる。アカオ・ツナキヨを遣わそう。伯爵位ではあるが余の側近中の側近だ。頼りになるぞ」
この父親にして娘あり、ということか。何にしても話が早いのは助かるけど、こう筒抜けだと色々とやりにくいよなあ。
「何か申したか?」
「い、いえ、あはは……」
「安心せい。娘から秘め事は覗き見るなときつく言われておるからの」
「秘め事って……」
こんなやり取りの後、アザイ陛下は俺にアカオ閣下を紹介してくれた。精悍な顔立ちに立派な口髭を蓄えた、おそらくこちらの世界ではブサイクに見られるであろう、強そうな人だった。




