第十三話 変なことを言ってごめんなさい
ゴウダ元子爵の処刑には多くの見物人が訪れていた。娯楽の少ないこっちの世界では、公開処刑は庶民の興味をそそるもののようだ。特に彼の悪行は広く知られていたため、誰一人として同情する者はなかった。それから一週間ほど経ったある日のこと。
「陛下、よろしいですか?」
「構わん、入れ」
「補助金の件、調査の結果が出ましたぞ」
俺が執務室で書類に目を通していると、ツッチーが報告書を片手にやってきた。今この部屋には俺の他にサッちゃんがいる。実は妻たちは日替わりで、俺の執務室での警護を担当しているのだ。とは言っても基本的には衛兵が待機しているので、どちらかと言うと息抜きの話し相手とかお茶を入れてくれたりとか、いわゆる癒しのためにいてくれていると言った方が正しいだろう。
「さすがに補助金の着服は死罪とあって、不正の疑いがある者は……」
「いなかったか!」
「いえ、残念ながら貴族が一人」
「そうか」
また死罪の裁定を下さなければならないのかと思うと気が重い。どうして皆ちゃんと決まりを守ってくれないのだろう。
「それと陛下、調査の過程で思わぬ収穫がございました」
「収穫?」
「はい、ウメ姫の足取りが掴めたようなのです」
そうか、忙しさのせいですっかり忘れていたが、タケダの姫たちもこのままにはしておけない。あの時俺に不意討ちを仕掛けて絶命したマツ姫はいいとして、城の地下牢には未だキク姫を幽閉したままである。彼女には求めに応じてマツ姫の位牌を与えているが、しばらくは食事にも手を付けなかったと聞いた。
「それでウメ姫はどこに?」
「オダに逃げ込んだようにございます」
「オダに?」
だとすると、いくらタケダの姫とはいえ女性が単独で国境を越えたとはとても思えない。必ず手引きした者がいるはずである。その者も共にオダに渡ったか国内に残っているかは定かではないが、もし国内にいるとするなら早急に捕らえる必要があるだろう。
「ツッチー、ヤシチ殿はどうしてる?」
「今は不正者の探索を終えて厨房に戻っているかと」
「ならば連日で大儀だが、ウメ姫をオダに手引きした者が国内にいないか探索するように命じられるか?」
「御意」
一言そう言うと、ツッチーはすぐに部屋を出ていった。サナとリツはまたヤシチと離れることになるが、二人のことはクリヤマに任せておけば問題はないだろう。アヤカ姫も時々厨房に顔を出してくれているみたいだし。もっとも彼女の場合は摘まみ食いが主目的の可能性もあるんだけどね。
「ヒコちゃん、姫様たちはやっぱり処刑なんですか?」
執務室に二人だけになったところで、サッちゃんが悲しそうな声で聞いてきた。他の妻たちと違って、彼女には人の生死の問題は一際重いようだ。元来が心優しい女の子だから、誰かに処刑の裁決が下されるのを見ているだけでも辛いらしい。それでもさすがにゴウダに関しては許せないと言っていた。
「サッちゃんは嫌なんだよね?」
「そうではなくて……ただそのような決断をするヒコちゃんが辛いんじゃないかと思って……」
「確かにその通りかな。でも領民を苦しめたりする奴らを放っておくわけにはいかないからね」
俺を気遣ってくれていたせいで辛かったのか。やっぱりサッちゃんは優しい子だ。
「ウメ姫様も捕らえたら処刑ですか?」
「オダ方に身を寄せたのが事実ならそうせざるを得ないかも知れないね」
オダに身を委ねるということは戦争の火種を作ることに繋がる。そうなれば苦しむのは領民であることに他ならない。捕らえたなら処刑もやむなしと言ったところだろう。
「彼女が助かる道はただ一つ。オダに秘密を漏らしてないということが前提だけど、自ら改心して自訴してくることかな」
「それをウメ姫様に伝える手段は……」
「ない、ね」
本当のことを言うとないわけではない。一番手っ取り早いのはウイちゃんに頼むことだ。彼女は一度ウイちゃんを見ているはずだから、確実ではないにしてもウイちゃんの姿を認識出来る可能性はある。もう一つはヤシチさんに伝令してもらうという手段だ。ただしいずれにしても、ウメ姫がそれを受け入れるかどうかにかかっているのは言うまでもないだろう。
「では私が行って……」
「それはダメ。そんな危険なことをサッちゃんに許可出来るわけないでしょ」
相手は手負いの虎も同然なのだ。そんなところに何も身を護る術を持たないサッちゃんを行かせられるわけがない。
「そうですよね、変なことを言ってごめんなさい」
そう言って笑った彼女が城から姿を消したことを俺が知ったのは、三日後の昼を過ぎてからのことだった。




