第六話 余のことは陛下と呼ぶように
「これよりタケダ国ですぞ」
翌朝明け六ツ、だいたい朝の六時くらいには俺たちは国境を越えてタケダ王国に入っていた。スケサブロウ君とおナミちゃんはまだ眠そうだったが、その後ちゃんと起きて馬車に乗り込んだようである。
そのスケサブロウ君によると向こうの馬車は、さすが国王のフリをする俺のために用意されただけあって内装も豪華だということだった。ツチミカドさんが一緒なので気を抜くことは出来ないらしいが、移動中は眠いと言えば逆に十分に睡眠を摂るようにと言われるそうだ。
ツチミカドさん曰く、スケサブロウ君は騎士としての役割も果たすのだから、常に体調は整えておくようにということらしい。騎士たるもの平時は訓練か休養に勤しみ、いざという時に万全でなければならないとのことだ。確かに護る側は常に万全でいてくれないと困るよね。そういう意味ではユキたん、アカネさん、スズネさんにも同じ事が言えるのだが、女の子に頼りっぱなしの俺は本当に情けないと思う。
「タケダの姫は城に向かうこの道中で必ず仕掛けてくるはず」
ババさんは俺の乗る馬車に馬で併走しながら鋭い視線を前方に向けていた。
「それにしても豪華な方の馬車に別人を乗せておくとは考えたな、ヒコザ殿」
「え? あ、あはは……」
ツチミカドさんにはあちらの、いわゆる大旦那様専用の馬車に乗るように言われたのを、女の子たちと一緒にいるためにこっちに乗り込んでいるなどとは口が裂けても言えない。
「ババ殿、タケダ国に入ったのであればヒコザは国王じゃ。今から言葉遣いを気をつけておいた方がよいのではないか?」
「これは王女殿下、御意にございます。ではヒコザ殿、これからは陛下と呼ばせていただくことにするぞ」
「これ! するぞ、ではなく」
「あ、ああ、そうでした。呼ばせていただくことに致します」
ババさんもやりにくいだろうな。俺の正体を知っているのは同行している面々とオオノさんくらいと考えていいだろう。イチノジョウ王子が殺された時に居合わせた兵士にはおそらく厳しく箝口令が敷かれているはずだからである。
「では我々もそれにならいましょう」
「マツダイラ閣下、すみません」
「陛下、私を含め他の者はすべて呼び捨てになさいますよう」
「あ、そうか。俺も気をつけなきゃいけないんだ」
「では陛下、皆の前では私たちも呼び捨てになさって下さいね」
ユキたんがしれっとそんなことを言い出した。またここで呼び方の話を蒸し返されるのかと思ったが、考えてみれば彼女の言う通りだ。国王であれば妻じゃなくても皆を呼び捨てにするのは当然なのである。
「相分かった。ユキ、アカネ、サト、スズネ、ウイ、アヤカ、そなたらも余のことは陛下と呼ぶように」
オオクボ国王陛下の言葉遣いを思い出してそんな風に応えてみたが、俺は自分で言って吹き出してしまった。女の子たちもそれに釣られて笑っている。この和やかな雰囲気がずっと続けばいいのに。そう思った俺だったが、すぐにババさんの部隊のスノーウルフが低く唸ったのに気づいて楽観は許されないと覚ったのだった。
「敵です!」
兵士の一人が叫び、馬車は動きを止めた。




