第八話 ご懐妊されるまで褥を共になさいます
「一度は引き受けましたが、このようなことになり申し訳ありません。大会、がんばって下さい」
俺とユキさん、それにアカネさんの三人は剣術部の部室を訪れていた。タノクラ男爵城での彼女たちの稽古風景を見せるという約束が、先の陛下の命により果たせなくなったため謝りにきたのである。
「陛下のご命令とあれば是非もありません。それよりその旅に、我々剣術部の有志も連れていってもらうことは叶わないだろうか」
「物見遊山の旅じゃないからね。君たちを連れていくわけにはいかないんだよ」
剣術部の面々は実力的に連れていくと足手まといになると思う。もちろんそんなことを本人たちには言うわけにはいかないが、いざという時に自分の身は自分で護れるくらいでないと困るのだ。じゃないとただでさえ俺を護るために付いてきてくれるユキさんたちの負担が増えてしまうことになる。それはお互い避けた方がいいだろう。
この後学校での必要な手続きも済ませ、俺は旅仕度をしてからタノクラ城へ向かった。出発は翌早朝、そのため今夜はまたお城に泊めてもらうことになっていたのである。
「閣下、ユキさんとアカネさん、それにサトさん、カシワバラさんの四人をお借りいたします」
「うむ、必ず無事に帰ってこいよ」
本当は始め、サトさんには残ってもらおうと考えていた。他の三人とは違い、彼女は身を護る術を持たない。危険が待ち受けているかも知れないこの旅に連れていくのは、かなり気が引けたのである。しかし彼女は言った。
「確かにコムロ様のおっしゃる通り、私には武芸の嗜みはございません。ですが、この身はコムロ様の盾になることなら出来ます。どうか私も共に連れていって下さい」
思わずサトさんを抱きしめてしまったよ。決してサトさんを死なせるものか。いや、俺の大切な未来の嫁は誰ひとりとして死なせるものか。そんな決意が俺の中で燃え上がった瞬間だったのだが――
「ヒコザ先輩、私も、私も抱きしめて下さい!」
「ご主人さま、私もお願いします!」
「コムロさん、私もよろしいですか?」
「私も、お願いしたいですわ」
かくして俺は幽霊姫も含めたコムロガールズ五人全員を抱きしめる結果となった。いや、もう皆柔らかくていい香りで気持ちよくてたまらなかったよ。でも、だからこそさらに強く決心出来たんだけどね。
「この者はツチミカド・ユウシュンと申す家令じゃ」
王城に着いたところで、俺は早速姫殿下から家令として初老の男性を紹介された。髪の毛はふさふさしているが、口髭まで含めてきれいに白くなっている。ほっそりとしていて背が高く、身長も五尺六寸くらいはあるんじゃないかな。こっちの世界の成人男性の平均身長は五尺三寸くらいだから、それより十センチくらい高いということになる。
「ツチミカドと申します。コムロ・ヒコザ大旦那様、以後お見知りおきをお願いいたします」
そう言うとツチミカドさんが胸に手を置いて深々と腰を折る。
「こ、こちらこそよろしくお願いします。ってちょっと待った、大旦那様って何?」
「陛下よりタケダの王になられる方と伺っております。今はまだタケダ領ではございませんが、いずれは陛下とお呼びせねばなりますまい」
どう見ても俺なんかよりツチミカドさんの方が身分は上だよね。それなのに俺のことを大旦那様って、仕事に忠実なのはさすが陛下に仕える家令と言うべきか。
「私めのことはどうぞツッチー、とお呼び下さい」
「つ、ツッチー?」
「はい。陛下はそうお呼びになられます」
びっくりした。鼻が出るところだったよ。
「いやいや、普通にツチミカドさんと……」
「ツッチー、とお呼び下さい」
「は、はい……」
そこ、そんなにこだわるところなんだ。
「それと、私めに敬語は不要でございます」
「え? あ、はい、分かりました」
「敬語は不要、でございます」
「あ、相分かった」
「結構です」
なんかやりにくいなあ。でもそうか、国王の代わりをするということは言葉遣いから変えなければならないということなんだ。
「ところでツチミカドさん」
「ツッチー!」
「つ、ツッチー、これからの予定はどうなってるんです……のかな」
「本日はタケダとの国境まで参ります。何もなければ夕刻までには到着するでしょう。タケダ領には明朝入る予定でございます。それまでは奥方様とのんびりお過ごしになられるとよろしいでしょう」
「妾と子作りに励んでもよいぞ」
こらこら、また姫殿下の冗談が始まったよ。
「なりませんぞ殿下!」
ほら、ツチミカドさんに怒られた。
「それはしばらく我慢なされませ」
「ちょ、しばらく経ってもダメですってば!」
「大旦那様、敬語は不要に願います」
「あ、うん、それは分かったけど。姫殿下、ダメだからね!」
「つまらん奴じゃの。ならばまた一緒に風呂でも……」
そこで姫殿下が何かに気付いたように真っ赤になって口をつぐんだ。ほら、言わんこっちゃない。前回の手拭いハラリしちゃった時のことを思い出したんだよね。
「ま、まあとにかくじゃ、今宵はヒコザと床を共にするからな」
「殿下、それもなりません」
そうそう、今夜はちゃんと男女別れて寝ましょうね。スケサブロウ君とか団長閣下とかもいるし、ツッチーも一緒なんだし。ところがそのツッチーがまたとんでもないこと口にした。
「今宵から大旦那様はご正妻であらせられるユキ様、第二夫人のアカネ様とどちらか一方、あるいはお二方共がご懐妊されるまで褥を共になさいます」
「は、はい?」
「まあ!」
「きゃっ!」
これには俺の後ろで話を聞いていたユキさんとアカネさんが、大袈裟とも言えるほどの反応を見せた。まあ今までの経験からすると予想の範囲内ではある。
「それまではたとえ相手が殿下でも、他の者が大旦那様のご寵愛を賜ることは許されません」
いやいや、ちょっと待ってくれよ。そもそもその二人だって正確にはまだ妻というわけではないんだから。だが、俺がそれを主張する前にユキさんとアカネさんに挟まれて、タケダに向かう馬車の中に連れ込まれてしまった。




