第四話 お姫様殿下の婿って……
「まあ、可愛らしい! どちらの家の方かしら。私はモガミ家の者ですが、ぜひ一度息子とお見合いなどを」
「いえいえ、それでしたら我がホウジョウ家に!」
ユキさんによるとモガミ家もホウジョウ家も、王国にあって名だたる貴族とのことだった。どちらも伯爵位であり、もし平民が嫁ぐとしたら玉の輿どころの騒ぎではないそうである。
この二つの家から猛烈とも言える誘いを受けているのはおナミちゃんである。彼女はこちらの世界では群を抜くほどの美少女なのだから、年頃の息子を持つ親の目に留まるのは至極当然だろう。男子が売り手市場なので、より見た目のいい女子を嫁に迎えたいと考えるのは世の常だった。
「申し訳ございません。私にはもう決まった方がおりますので」
「あらそうでしたの。それは残念ですが仕方ありませんね」
それはつまり、このように引くのも早いということに繋がる。特に伯爵家ともなれば嫁の来手はいくらでもいるのだろう。
「ところでそちらの貴方」
「はい? 俺ですか?」
「きっとそちらのお嬢さんは貴方に嫁がれるのでしょうけど、モガミ家の娘もいかがかしら。もちろん二人ともモガミ家にお迎え致しますわよ」
「いえいえ、おナミちゃんは私の嫁にはなりませんから」
「まあそうですの! でしたらぜひモガミ家に!」
「いや、我がホウジョウ家の娘たちは粒ぞろい。まとめてもらってくれてもいいのだぞ。むろんいずれは私の伯爵位も譲ろう」
逆に俺のようなイケメンに見られる男子は引く手数多で、一度や二度断ったくらいではなかなか引き下がってもらえないのである。にしてもホウジョウ家の粒ぞろいのお嬢さんたちは、きっと俺からするとアレなんだろうな。
「申し訳ございません。私もすでに決まった相手がおりまして」
「何を申されますか。まとめてモガミ家にいらっしゃればよろしいのです」
「いや、ここはぜひホウジョウ家に!」
「そこのヒコザは妾の婿じゃ。そちたちにはやれん」
「ひ、姫殿下!」
「アヤカ様!」
突然現れた姫殿下は、レモンイエローと白いフリルがふんだんにあしらわれた可愛らしいドレスに身を包んでいた。髪飾りとコサージュは青い色の花が基調になっていて、ドレスとのマッチングも素晴らしい。あまり女の子のファッションに詳しくない俺ですらも、かなりのハイセンスであることが分かったくらいだ。
「え? こ、この方が……!」
おナミちゃんは姫殿下の姿を見て口をあんぐりと開けたまま固まっていた。スケサブロウ君はといえば、あまりの動揺で顔から血の気が引いてしまったようだ。一国の王女が壇上ではなくいきなり目の前に現れたんだから、この反応は仕方ないと思う。俺なんて初めて会ったときは無礼討ちにされるんじゃないかと本気で恐れたくらいだからね。思い出したくもないけど。
「これはアヤカ王女殿下、拝顔の栄に浴しましたること、恐悦至極に存じます」
ホウジョウ伯爵の言葉に、モガミ夫人も合わせて一礼する。
「こちらの男子がかのコムロ・ヒコザ殿でございましたか」
もしかして俺って有名なのだろうか。
「左様じゃ」
「それを聞いては尚のこと我がホウジョウ家の婿に迎えたいところですが、殿下の婿殿であれば諦めるより他はなさそうですな」
「本当に、殿下はまだお若いのに優れた先見の明をお持ちで。私感服致しました。それでは、失礼致します」
モガミ夫人の言葉でホウジョウ伯爵も去っていった。あのまま食い下がられたらどうしようかというところだったが、姫殿下のお陰で助かったと言うべきだろう。それにしても、である。
「姫殿下、私は婿にはなりませんからね」
「あれは主らをあの者たちから解放してやるための方便じゃ。じゃがのヒコザ、未来は分からんものじゃぞ」
「アヤカ様、私は心臓が止まるかと思いました。悪い冗談はおやめ下さい」
「ユキ、妾は何もそなたからヒコザを奪い取ろうとは思っておらんぞ。そうなった時はユキも王家に来ればよいだけのことじゃ」
「アヤカ様!」
「冗談だと言うておろう。ではまた後でな。父上と話をする時には妾も同席することになっておるからの。その心づもりでおるがよいぞ」
姫殿下は何やら含んだ笑みを向けた後、数人の護衛を従えてどこかへ行ってしまった。完全に護衛の人に囲まれているので、それと知らなければ輪の中に姫殿下がいるとは誰も気付かないだろう。
「た、タノクラさん!」
「ひゃいっ!」
おナミちゃんが急に大きな声でユキさんを呼んだので、驚いたユキさんの声が裏返っていたのにはちょっと笑ってしまったよ。そんな彼女は吹き出した俺に気付いて、肘で脇腹を小突いてきていた。
「何であんなに普通に王女様としゃべれるんですか?」
「あ、おナミちゃんは知らないんでしたっけ。私はアヤカ様の付き人をさせて頂くことがあるんです」
「ユキさん強いからね」
「コムロ先輩、お姫様殿下の婿って……」
この中で一人だけ未だに放心状態のスケサブロウ君が、変なタイミングで話を蒸し返してきた。君もしかして、剣術以外はからっきしダメな奴じゃないだろうな。それにお姫様殿下って、呼び方まで変になってるぞ。
「これよりオオクボ・タダスケ国王陛下がご来臨あそばされます。一同、敬意をもって拍手でお迎え下さいますよう」
その時、会場に陛下のお出ましを告げる声が響いてきていた。




