第三話 ご褒美下さいね
「本当に何とお礼を言ったらいいか」
全校集会から数日後の週末である。おナミちゃんがスケサブロウ君の腕に巻きつきながら、彼と共に頭を下げた。ガモウ閣下の計らいで彼らも晩餐会に招かれることになったのである。その話を最初に聞いたとき、おナミちゃんは辞退しようとしていた。しかしユキさんのこの言葉に、あっけなく方針転換したのである。
「陛下は未来の旦那様の主になられるお方ですよ。お会い出来る時にお会いした方がよいのではないですか?」
こうして俺たち一行六人は、王城に向かう馬車の中にいるというわけだ。
「でも私、こんな格好でよかったのでしょうか」
「おナミちゃんのドレス、とても似合ってて可愛いと思いますよ」
おナミちゃんが自分の衣装を気にしている。俺とスケサブロウ君は、タノクラ男爵閣下から例の民族衣装っぽい正装を拝借してきたから問題ないはずである。アカネさんもカシワバラさんも、ドレスはユキさんの物を借りたようだ。しかしおナミちゃんだけは自前のドレスだった。彼女の両親が娘の晴れ姿とばかりに、大枚をはたいて用意してくれたそうだ。
「うん、俺もよく似合ってると思うよ」
「そうですか? スケサブロウ君、何も言ってくれないから……」
彼女に軽く睨まれ、スケサブロウ君はあたふたしている。
「それにしてもタノクラさんは陛下だけでなく王女様にもお会いしているんですよね。すごいなあ」
「なかなか面白い方ですよね」
「え? ミヤモトさんもお会いしたことがあるんですか?」
「はい! お風呂もご一緒させて頂きました。もちろんお嬢様もご主人さまもですよ」
「ちょ、アカネさん、それは今言わなくても……」
「コムロ先輩もって……」
おナミちゃんだけでなくスケサブロウ君まで俺のことをジト目で見てくる。
「いや、だからあれは俺の意思ではなくてだね」
「でもご一緒されたことは認めるんですね?」
「それはそうだけど……」
どうも俺はこの二人、スケサブロウ君とおナミちゃんの前ではいいところがないような気がする。てか馬に乗れないのも混浴も、悪いのは俺ではないよね。
「ちゃんと皆手ぬぐいで隠してたし」
「でもほらあの時、急にババさんが入ってきた時です。手ぬぐいが落ちて、ご主人さまは王女殿下のお姿だけはしっかりとご覧になったのではありませんでしたっけ」
「いやいや、しっかりとは見てないから」
「まさか王女様の裸を見られたということなんですか? 確か王女様はまだ十二歳になったばかりでは……」
おナミちゃん、頼むから俺を変態みたいに言わないでくれ。そもそもあの騒動だって元はと言えばアカネさんが原因だったじゃないか。そしてスケサブロウ君はその『陛下の騎士のクセに』って目で俺を見るのはやめるように。
「コムロさん、それ初めて聞いたんですけど」
カシワバラさんまでここで参戦してきた。これじゃまるで四面楚歌だよ。ユキさんお願いだ、君だけは俺の味方になってくれ。そんな思いを込めて隣のユキさんに情けない視線を送ると、彼女はクスッと笑ってウインクしてくれた。
「まあアヤカ様は別として私たちはいずれヒコザ先輩のお嫁さんになるわけですから。それよりスケサブロウ君とおナミちゃんはどうなんですか?」
「え? どうって……」
さすがユキさん、鮮やかな話のすり替えだ。というか二人とも、顔の紅潮が尋常ではないように見えるんだけど。
「何だ何だ、俺を散々虚仮にしておいて、もしかして君たちってもうアレなの?」
「あ、アレって何ですか、アレって」
「いや、だからアレと言えばアレだよ、アレ」
「おナミちゃん、私も聞きたいです。どうなんですか?」
お、ユキさんが身を乗り出して煽り始めた。これはもしかすると……
「私にも聞かせて下さい」
「私も!」
思った通りアカネさんとカシワバラさんも乗っかってきた。どうだ、コムロガールズは少しでも火種があれば、一気に悪ノリを始めるのだ。俺はそのせいで今までどれだけ苦労してきたと思ってる。参ったか。
この後、あれだけ威勢よく俺をからかっていた二人が、見る影もなくしどろもどろになっていた。そんな時、ユキさんが俺の脇をちょんちょんと突いて耳元に口を近づけてくる。俺は上半身を傾けて彼女が囁きやすいように頭を寄せた。
「先輩、あとでこっそりご褒美下さいね」
しばらくして俺たちを乗せた馬車は、王城の城門をくぐっていた。




