第十四話 ヒコザ先輩とスケサブロウ君がぶつかったせいなんです!
「ヒコザ先輩、大変です!」
未来の嫁たちがうちに泊まった数日後、朝学校に登校した俺の許にユキさんとアカネさんが慌てた様子でやってきた。そのあまりの大きな声に、クラスメイトたちも一斉にこちらに目を向ける。
「ど、どうしたの、ユキさん。ちょっと落ち着こうか。アカネさんも」
「落ち着いてなんかいられません! とにかく一緒に来て頂けますか?」
ユキさんがそう言うと、アカネさんと共に俺の腕を両手で握って引っ張った。
「ど、どうしたのさ、一体?」
「ちょっとあなたたち!」
そこへユキさんと同じくらいに大きな声で割って入ってきたのは、クラス委員のムラカミ・カイである。彼女は非常に真面目であり、成績も学年でトップクラスの優秀な生徒であった。また俺は実際に目にしたことはないが槍術の使い手で、武芸にも相当秀でているそうだ。
そんな彼女だが見た目に関して特徴的なのは、まずこちらの世界ではかなりの美少女ということ。それから髪はショートで身長が俺と同じくらいあり、これは女子としてほぼ規格外の大きさであるといったところだろうか。
「見たところ下級生のようですが、ここは上級生の教室ですよ。そこで何を騒いでいるのですか?」
「すみません、緊急事態なんです! ヒコザ先輩、早く!」
「お待ちなさい!」
ムラカミさんの注意を流そうとしたユキさんは、そこで彼女に腕を掴まれてしまった。その瞬間にユキさんもキッとムラカミさんを睨みつける。
「この手は何ですか?」
「あなたこそコムロ君を放しなさい。そっちのあなたも」
「ちょっと二人とも……」
俺はクラスメイトたちが野次を飛ばし始めたので、ひとまず彼女らを落ち着かせようと声をかけた。野次は美人に見られるムラカミさんに概ね好意的で、逆にブサイクに見られるユキさんとアカネさんには批判的だ。それでなくても二人は、いきなり上級生の教室に入り込んできた生意気な下級生扱いである。批判されても仕方のない立場だとしか言いようがない。
「もうすぐ始業時刻です。自分たちの教室にお戻りなさい」
その上このムラカミさんの言葉は正論だ。これを覆すには相応の理由が必要となる。ところがユキさんはその相応の理由を口にした。
「緊急事態と言ったはずです。窓の外をご覧になれば分かります!」
ユキさんの強い口調で野次馬たちが窓の方に押し寄せる。俺もムラカミさんもそれに倣って窓際に寄ったのだが、そこには驚くべき光景が待っていた。
「何だあれ!」
窓の外に広がる校庭、そのほぼ中心では先日初めて会ったばかりのスケサブロウ君が、まるでおナミちゃんを庇うように一人の生徒と対峙していた。周りには三年生と思われる女子が集まっており、その集団を数人の先生が抑えながら何かを叫んでいる。中にうちのクラスの担任もいたので、このまま待っていてもホームルームが開かれることはないだろう。
そして一人の生徒の手には、明らかに真剣と思われる刀が握られていた。
「ユキさん、まさかあれって……」
「ウメチヨ先輩です。分かったら来て下さい!」
「待ちなさい! 状況は分かったけど、だからってどうしてコムロ君が行かなければいけないの?」
「説明してるヒマなんかありません! さあ、ヒコザ先輩早く!」
「わ、分かった!」
「あ、ちょっとコムロ君!」
ユキさんとアカネさんに手を引かれて走り出す俺を、ムラカミさんが追いかけて教室を飛び出すという結果になってしまった。他のクラスメイトたちは付いてこようとはしなかったので少しだけホッとしたよ。これで皆が飛び出したら大変な騒ぎになっていたと思う。
それにしても何だってウメチヨ様は真剣なんて持ち出して、おナミちゃんとスケサブロウ君に斬りかかろうとしているのだろう。まさか父親が陛下に呼ばれてどうにかなってしまったのだろうか。
俺もユキさんも、あの後イシダ家にどのような裁定が下されたのかはまだ聞かされていない。あるいは現在も審議中なのかも知れないということだ。だが実際問題としてウメチヨ様は登校してきているのだし、少なくとも父親が死罪になったというわけではなさそうである。そんなことになればさすがに登校なんて出来ないだろうからね。
「簡単にでもいいから説明しなさいよ!」
ムラカミさんがユキさんに追いつき、横に並んで走りながら叫んだ。でもこの成り行きを簡単に説明なんて無理なんじゃないかな。ところがそんな心配はどうやら無用だったらしい。ユキさんは本当に簡単に、ムラカミさんの方を向いて言い放っていた。
「ヒコザ先輩とスケサブロウ君がぶつかったせいなんです!」
もちろん、何の説明にもなっていなかったけどね。




