第四話 実はちょっと有名なんです
『ウイちゃん、お願いだからもう許して』
俺は心の中で何度も叫んだが、姫君がお仕置きの手を止めることはなかった。ウイ姫のお仕置き、それは……
「今日の先輩、何だかすごい食欲ですね」
「ご飯なんか大盛りで五杯目ですけどご主人さま、本当にどうしちゃったんですか?」
「二人の手料理が美味しくて、ついつい食べてしまいますわ……しまうんだよ」
「……」
あ、ユキさんが気づいてくれたみたいだ。
「もしかして先輩、ウイ姫様に取り憑かれてます?」
「そ、そんなことござい……ないよ」
「姫様、ヒコザ先輩が何をしたかは後で問い詰めますので、ひとまず解放してあげて頂けませんか?」
問い詰めるってユキさん……
「ふう、仕方ありませんわね」
「うっぷ」
「コムロさま、大丈夫ですか?」
言いながらサトさんが横に来て背中をさすってくれる。被害の経験者だけあってこの苦しさがどれほどのものか分かっているのだろう。
ようやくウイ姫から解放された俺は、その瞬間に猛烈な満腹感と吐き気に見舞われた。そう、取り憑いて物凄い勢いで食べる、というのが姫君のお仕置きだったのである。あの時のサトさんの苦しみを身をもって体験させられたよ。こんなに苦しいとは思わなかった。
おナミちゃんとスケサブロウ君の二人と別れた後、突然姫君はユキさんの住むタノクラ男爵の城に行きたいと言い出した。真意が分からずにその言葉に従いタノクラ城に向かったわけだが、着いた途端に俺は彼女に取り憑かれ、手料理が食べたいなどと言わされたのである。
「先輩がいきなり訪ねてきて私たちの手料理を食べたいなんて言うから変だとは思ったんですけど、一体何をしたんですか?」
「何をって……」
「まさかウイ姫様にいやらしいことを……?」
「ご主人さま! 私たちにはして頂けないのにどうして!」
「ち、違う違う、違うから! そんなことしてないから!」
そこで俺は今朝からの経緯をカシワバラさんも含めた四人に掻い摘まんで説明した。もちろん、姫君が俺の部屋にきて着替えを覗こうとしたことは伏せてだ。そんなことを教えたら、神様ゲームの時の二の舞になりかねないからね。
「ウメチヨ様って、イシダ家のウメチヨさんのことでしょうか」
「ユキさん知ってるの? うっぷ」
「私の知る限りですとその名の子息がいらっしゃる貴族はイシダ男爵家しか思い当たりません」
「その方は美男子ですの?」
「そうですね、ヒコザ先輩の前にケイ先輩が熱を上げていたくらいですから。もちろんヒコザ先輩の方が断然素敵ですけど」
「ケイ先輩?」
姫君は学校のことは知らないので、ケイ先輩や彼女と連んでるクミ先輩、それにキミエさんのことも簡単に教えた。ところでユキさん、真っ赤になりながらそんなことを言われるとこっちまで照れてしまうよ。
「てことはそのウメチヨ様って人もうちの学校の生徒なの?」
「はい、私より二つ上ですから先輩の一つ上ですね」
「にしてもそうか、その人もケイ先輩に付きまとわれていたというわけか」
「どうでしょう。これは聞いた話ですから本当のところは分かりませんけど、以前二人は付き合っていたらしいですよ」
「そうなの?」
俺に絡むようになる前のケイ先輩のことってよく知らないし、いつも何人もの男子を侍らせているようなイメージだったからね。それにそもそも彼女に興味なんかなかったから、その中にどんな人がいても覚えているわけがない。まして誰と付き合ってたかなんて、俺にとってはどうでもいいことなのである。
「でも二人とも飽きっぽい性格らしくて、すぐに別れたって聞きましたけど」
「ケイ先輩が飽きっぽいのは知ってるけど、ウメチヨ様も同じなのか」
「お聞きした限り、おナミちゃんの目は確かということになりますわね」
「そうだね、俺もそんな気がする」
「え? おナミちゃん?」
ところがそこでユキさんが素っ頓狂な声を上げた。
「ああ、おナミちゃんっていうのはさっきの話に出てきた女の子。男の子の方は……」
「もしかしてスケサブロウ君ではありませんか?」
「あれ、ユキさん二人と知り合いなの?」
「知り合いというほどではありませんが、二人とも隣のクラスですからね。それよりそのおナミちゃんとスケサブロウ君のことは私たち三年生の間では実はちょっと有名なんです」
「そうなの?」
それからユキさんは、その有名だという話を皆に聞かせてくれた。




